第14話

長くて面倒くさい会議が始まった。先ず今回の襲撃事件を起こした犯人達について議題に上がり悠が説明を始めた。

「今回、学園を襲撃した集団ですが自身達をphantomと名乗っていました。そして後ほど詳しく説明しますがあの死体の残らない魔術もファントムという魔術だと奴等は言ってました。ここで奴らと奴らの使う魔術が一緒でややこしいのでphantom Knightsという名前を奴らにつけようと思うのですがいかがですか」

「問題ない、そのまま報告を続けろ」

外川がそう言って悠に報告の続きを促す。

「続いて組織の構成員ですが首領及び幹部クラスの恐らくはコードネームだとは思いますが報告します。首領はレプリカと名乗る双剣使いの男です。幹部は大鎌使いの男、サイス、蜘蛛の脚の様なバックパック型の魔導具を背中に背負った女、アラクネ、そして鉤爪使いの男、エースとそれぞれ名乗っていました」

「ご苦労だった。次に智さん今回の敵が使っていた術式や装備について説明をお願いします。」

「はい皆さんはじめまして。国立魔術大学の研究者兼魔導省魔導兵器開発局の三ツ谷智です。先ず敵が主に使っていた鉤爪ですが相当な強化魔術とクワトロレジストを最低でも付与されていると思われます。その為黒羽家の皆さんが使っていたスコーピオンが破壊されてしまったのもそういう訳です。スコーピオンは軽量化されていて取り扱いが楽ですが代わりに耐久性は余り高くありません。その為何度も何度も叩きつけあえば破壊されるのはスコーピオンだと言う訳です。そして彼らの使っていた装備は全て高位のクワトロレジストが付与されていた為基本魔術が通らなかったのもその為です。そして大鎌使いのあの鎌は魔力吸収と魔力阻害のフィールドがごく僅かな範囲内ではありますが展開されているので強力な魔術も余り効果がなかった理由です。そして最後にファントムと呼ばれる魔術ですが悠さんが収集した情報から推察するにこればかりは情報が少ないので仕方ありませんが悠さんが収集した情報の通り魔力で作った擬似的な自分の身体に脳波をリンクさせて本人は遠くから安全に戦う事が出来るものと思われます。これは魔導省で戦闘訓練で使っているシュミレーターシステムを実戦で戦えるまで昇華したものだと思います。但し戦闘に使う為の戦闘体を作るのに相当な量の魔力が必要だと思われるのと戦闘体が倒された後に脳波が自分の身体に戻るのに時間がかかるので完全に倒してさえしまえばそこまで厄介な魔術ではなくまた今回の戦闘での情報を基にこの魔術より高位の術式の開発にこれから取り掛かり開発に成功次第皆さんの装備に加えさせてもらいます。そうすれば任務の安全性や任務についた術師の生存率が今までよりはるかに高くなるでしょう。」

「詳しくわかりやすい説明をありがとうございます。では今回の被害について・・・」

外川が智に説明の礼を言って次の議題に移った。そこからそれぞれの意見を交わしながら会議は進んでいき会議も終盤になった時ナグサが1つの質問をした。

「実は1つ聞きたい事があって実は私達が戦闘に参加していた際に私が危なくなった際に赤いラインが入った黒いローブを纏っていた人に助けられたんですけどもし会えるならお礼を言いたいんですけど」

「いやそんな人間は黒羽家にも八咫烏にもいないな。」

外川がそう断言する。

「そうですか。一馬先生、いや悠さんは知りませんか。そのローブの人、正門の幹部以外の敵を刀で全員斬り捨ててその後は周りに目もくれず悠さんの方に向かって歩いて行ったので」

「いや知らないな。そんなに強い奴なら敵であれ味方であれ自分の領域に入られたら気づく筈だしな。まぁ一応、俺の方で調べておくよ」

悠はナグサの質問に嘘で答えた。本当は実際に会っているし戦闘が始まる少し前から遠くから敵意や殺意はないもののこちらをずっと見ている存在がいるのを唯1人感じ取っていたのだ。そして領域内で話もした。和楽巡。現状ではナグサの話と自身が話した情報だけを統合すると裏社会に詳しい事・剣の達人である事・外道魔導士を激しく憎みそしてそれらを個人的に始末している事そしてそれらから命を賭けてでも守りたい存在がいる事くらいが彼について知っている事だ。実際に会って会話したが顔はローブのフードに隠れていてよく見えなかった。

「本当に知らないんだな悠」

「ええ知りませんよ。それより会議もここら辺でお開きでいいんじゃないですか。大体情報は共有出来たでしょう」

外川からの質問にも嘘で答えて会議を終了させようとした。

「そうだな。では今日得た情報を基に今後それぞれ活動していくということで会議は終了する」

そう言って外川が会議を終わらせる。会議が終わると会議に参加していたメンバー達は次々と部屋を後にして残ったのはこの部屋の主である晶、悠の彼女である智、そして悠だった。

「はぁもうマジで疲れた。戦闘の後に即会議って過労死するぞマジで。智ちゃんが薬持って来てくれてなかったら間違いなく寝てたっていうか倒れてたな。ただ唯一の救いはこれで取り敢えず暫くの間phantom Knightsの襲撃は無さそうってことだ。それにこちらは重軽傷者多数だが死者も出てないし学生も全員無傷だ。義母さん今日は久々に本家の方で休むわ。」

「珍しいわね。貴方から本家の方に戻ってくるなんて。それと三ツ谷智さん。お兄さんの件御三家を代表して謝罪をさせていただきます。そしてその件で義理ではありますが息子を見限ったり嫌いになったりしないであげてください。そして今後とも息子のことこれからもよろしくお願いしますね」

「はいお母様。今後とも悠君とはより良い関係を築いていけたらと思っています」

そんな話をしていたら学園長室をノックして入って来た人物がいた。生徒会副会長の七稜アヤメだ。

「お疲れのところ突然失礼します。一馬先生いや悠さんはいつまでこの学園に滞在されるのでしょうか?」

「ああそうだなぁ。普通なら直ぐに本部に戻るんだけど今回は拠点にしていた家から天王寺の本家に返す物を返したり魔導省に持って帰る物を纏めたりして学園内にある私物を纏めるなりして1週間くらいを予定していたけど何かあるんだろアヤメ」

「はい。ナグサに自信をつけさせてあげてくれませんか。あの娘とは昔からよく家同士の付き合いもあって仲良くしてきました。才能もあるし見た目も良い。でもあの娘には足りないものがあるんです。」

「自己肯定感だな、アヤメ。確かに俺の目で見ても剣の才能も魔術の才能もこの学園どころか国立魔術大学のエリート連中よりも上だろう。だけど自己肯定感が明らかに低い。何か理由でもあるのか?幼馴染のお前なら知ってるんじゃないか」

「はい知っています。というか私が原因なんです。昔10歳の頃私の家とナグサの家で交流を兼ねて実戦形式の練習試合の様なものをしたんです。その時にナグサの刀が私の頬を掠めました。そして頬から血が流れてしまい練習試合は中止になり私は直ぐに治療されたのも幸いして傷跡も残りませんでした。でもナグサはその頃から自己肯定感を持てなくなって自信も持てず私に対して負い目の様なものを感じる様になってしまいました。それからは実力はあるのに気持ちが追いつかない状態で中途半端な実力しか出せない様になっています。だから悠さんにお願いしたいんです。」

「わかった。だけどナグサの自信を取り戻す為には他にもアヤメ、君は勿論の事他にも何人か協力してもらう人が必要だな。それに1週間じゃ時間も足りない。ちょっとだけ待ってくれ。」

そう言って悠は通信石である人物に連絡を入れた。

「ああ悠です。お祖父様お願いしたい事が少々ありまして。ええ学生4人の魔導省の設備と天王寺家の設備を一時的でいいので使用出来る様に出来ないかと。はいわかりました。ではその様に」

「アヤメ、今回の襲撃事件で戦闘に参加した君を含めた4人を暫く自分の傍付きつまり魔導省の士官候補生と同じ立場を与える。その間、学校は休んでも単位は出るし欠席扱いにならない。思う存分に自分達魔導省の人間の実力を間近で見て吸収して自分のものにしてくれたまえ。それと寝食の場所は天王寺本家でとってくれ。勿論天王寺家の設備も使ってくれて構わない。」

「ナグサだけじゃなくて私達もですか?」

困惑した表情でアヤメが言う。

「そうだ。週に一回は最低でも全員俺と智がカウンセリングをするし実技は基本的に俺が見るがたまに俺以外の八咫烏メンバーが見ることもあると思う。まぁ見る連中は俺と外川室長、それと普段から部隊組んでる3人が殆どだから余りそこら辺は心配しなくていい。期限は明日からお前達4人の実力やメンタル面が問題ないと思うまでの間だ。そしてこの話は学園長の義母さんから他の3人にも伝えられるから今日はリラックスして過ごして明日に備えてくれ。それじゃあ今日は解散」

そう言って悠は学園長室から出て行った。そして悠は学園内で天王寺家と黒羽家の人間しか入れない部屋に1人入ると頭を抑えながら床に倒れ伏して嘔吐した。吐いたものの中には血も混じっていた。そして悠はポケットの中に入れているピルケースから何個かの錠剤を取り出して一気に飲み込んだ。暫くして頭痛と吐き気が落ち着いてからその部屋で吐瀉した物を魔術で燃やして片付けてその部屋を密かに出て今日最後に行使するであろう魔術で学園から天王寺本家にテレポートした。天王寺家の門を開けて家のドアを開けるとそこには悠専属の執事とメイドである青葉駿と青葉鷹央が待機していた。

「「お帰りなさいませ悠様」」

「ああただいま駿、鷹央。久しぶりだけど元気にやってたか」

「勿論です。それで悠様直ぐお食事に致しますか」

駿が悠に質問する。

「いや、当主様つまりお祖父様は今どこにいるかわかるか」

「丁度当主様なら食堂で食事を摂られていますが」

「ありがとう鷹央。なら俺も食事にするよ。それと聞いてもらいたい話もあるから2人にもついてきて欲しい」

「「承知致しました」」

そう言って悠のボロボロになっているローブを受け取りながら2人は悠に付き従って食堂に向かった。

「お久しぶりでもないですねお祖父様。急に無理を言って申し訳ありませんでした」

そう言って悠が食堂のテーブルの席に座ると青葉家のメイドが悠の前に食事を持ってきてテーブルの上に置いた。そして一礼して去っていく。

「酷い傷だな悠。だが可愛い孫の頼みだ無理の1つや2つ通すさ。それで専属の2人を連れてきたということは頼み事の件でこの2人にも頼みたい事があるんだろう」

悠の前に先に座って食事を摂っていた天王寺家の当主であり悠の義理の祖父でもある天王寺樹がそう発言した。

「はい。通信石で言った通りなのですが例の学生4人も駿と鷹央に面倒を見てもらいたいと思いまして。特に鷹央は人の感情の動きなどには機敏ですからね」

「こう悠は言っているが駿と鷹央はどうなのかな」

「悠様のご要望とあらば」

「その仕事喜んでさせて頂きます」

駿と鷹央はそう言って樹に返答する。その時だった。食事をしていた悠が吐血しながら椅子ごと倒れたのだ。

「駿、鷹央、急いで晶を呼んできなさい。それと他の御三家の当主もだ。他の当主達には悠の容態が急変したと伝えれば直ぐにわかる筈だ。それと悟には他の当主達が直ぐ駆けつけられる様にしてある緊急時のポータルの起動をさせなさい。私は悠の応急処置と問診をする。頼んだよ」

それを聞いて駿は晶を呼びに行き鷹央は通信石で先ず黒羽家の当主である悟に事情を話した。そして次に外川道真と相澤克人に緊急時の回線で連絡を入れる。すると支度が出来次第直ぐに向かうと2人とも返事を返してくれた。そして10分も経たない内に日本の魔導士の頂点に立つ御三家の当主2人が天王寺家に到着した。それと同時に晶、そして悟とその妻の由紀子そしてその子供である雄二と穂乃果が天王寺家の広間に集まった。

「でジイさん悠の状態はどんな具合だ」

道真が樹に質問する。

「霊魂にかなりの負荷が掛かって一部が損傷しているな。これは直ぐに処置した方がいい。じゃないと最悪命に関わる」

「ここまでは自分の眼でも予測出来なかった。すいません樹さん」

相澤が樹に謝罪する。

「取り敢えず服を脱がせるぞ。克人、お前はその眼の調子しっかりと整えておいてくれよ。悟達黒羽の連中と駿と鷹央、お前らは止血や魔術回路の安定化を頼む。コイツの事死なせたくないだろ。それとこの事は此処にいる連中以外には基本的には伏せておけこれは絶対だ。晶お前はジイさんの補助につけ。俺は此処にいる俺以外全員の魔術演算能力を一時的に高める術式を使う。それじゃあジイさん、晶頼んだぞ」

「それじゃあ始めるぞ。克人俺と視界を共有しろ。それで霊魂のどこが損傷しているかより詳しく判る。晶お前は悠の魔術回路の状況を、逐一報告しろ」

樹はそう言って悠の胸の辺りに手を当てながら魔力を同調させていく。そして徐々に強い魔力を流していく。そしてこの霊魂の治療は2時間近くかけて終了した。

「よし霊魂が戻った。これで当分は大丈夫だろう」

樹が霊魂の治療を終えて悠にローブを被せる。そして広間から退出しようとした時に駿が口を開いた。

「当主様、突然の事でご無礼とは存じ上げますが悠様は何の病を患っているのでしょうか」

「本当に突然だな。だが専属で付いてくれているお前達2人や黒羽の幹部も集まっている為、此処にいる人間以外に口外しないというなら話してもいい」

「わかりました。口外は致しませんのでお願いします」

「先ず悠は晶に旦那がいない事からも分かるように養子として迎えた子供だ。迎えた理由は色々あるが此処では1番重要な事を話すぞ。悠の本当の産まれた家は何処にでもあるような魔術研究を生業とする家だった。だがその家の当主、つまり悠の実の父親がある時から狂い出しんたんだ。違法な実験や人体実験を繰り返し悠もその被害者の内の1人だ。そして当時の八咫烏はその情報を聞きつけ裏取りを済ませてから4人の魔術師を派遣した。私の娘の晶と真那そして今現在の御三家の当主の2人の計4人を送り込んだ。だが殆ど間に合わなかった。助けられたのは悠と悠の弟の2人だけ。後の被害者は全員死亡し首謀者だった悠の父親は研究所の爆発で生死不明扱いとなりこの事件は幕を閉じた。だが悠はその後周囲から孤立してしまった。父親の悪行のせいで執拗な嫌がらせなどを受けるようになった。弟の方には悪意が向かない様に母方の方の苗字を名乗らせて自分だけが泥を被る形になったんだ。そして今でも人体実験の悪影響は悠の身体を蝕んでいる。魔術師なら皆魔術特性は持っているのは知っているよな。基本的には魔術特性は1人につき1つだけだ。でも極稀に産まれながらにして2つの魔術特性を持つ者がいる。そして悠は人体実験で無理矢理身体に2つの魔術特性を持つ様になった。1つは元々

持っていた模倣。これは一度見た術式を理解してさえいればオリジナルよりは性能は落ちるが悠に最適化された状態でコピー出来る特性だ。そしてもう1つこれが問題なんだ。継承これが人体実験の後、悠についた呪いにも近い特性だ。特性の内容は相手が自身の術式等を譲渡する意思を見せそれを悠が受け入れた場合発動して相手の術式や式神などを悠のものにする事が出来る。だがこれが譲り渡す側が死亡する瞬間強い意思を持っていたり悠自身が全てを受け入れようとすると魔術師としての資格である霊核と魔術回路も継承してしまう。そしてもう分かると思うが魔術回路は人によって完全に異なるそれを1人の身体で制御出来るどころか悠自身の魔術回路と絡み合ってしまっている。霊核も多くもてば多く持つ程身体に負荷が掛かる。そして今までは魔薬で何とか誤魔化してなるべく魔術回路が絡み合わないようにしていたんだが今日の戦闘で領域の展開など無理をしたせいで魔術回路がまた複雑に絡み合ってしまったんだ。それに此処に戻ってくる少し前にも発作があったみたいだ。強すぎる力は時に身を滅ぼす。それを突き進んでいるのが今の悠だ。わかってくれたか」

「もしかして今回当主様が悠様の我儘を聞いたのって」

鷹央が樹に質問した。

「その通り暫くは実戦に出させない為だ。良いだろう道真。克人」

鷹央の問いに答えながら他の御三家の当主に意見を樹は求めた。

「問題ねーよジイさん。悠とその部隊には当分の間無理のない範囲で内勤職や休暇を取ってもらう予定だったからな」

「自分の方も問題ありません。幸い今八咫烏は手が空いているメンバーも多いですしそもそも八咫烏が出動する様な案件今の所ありませんから」

「そうかでは今日は解散するとしよう。晶、悠を本人の部屋に連れて行きなさい。間も無く目が覚める頃でしょう」

そう言われて晶は悠を背負って広間から出て行き悠の部屋のベッドに悠をおろす。その間に相澤と外川が2人で話していた。

「で、残された時間は?」

「最長でも2年かな。それ以上は俺の眼で見れなかった。それが俺の眼の限界なのかそれとも本当に残された時間が2年なのかはわからないがな」

外川の質問に相澤が答える。

「長い様で短いな」

「俺は俺で出来る事をする。それと俺は後1年以内だ」

「そうか」

2人は意味深な会話をした後転移陣を使ってそれぞれ帰っていった。

悠の部屋に暫くいた晶は悠が目を覚ますのを待った。そして30分くらいして悠が目を覚ましたので晶は悠と話をした。

「また発作を起こして倒れたんですね義母さん」

「うん。今回は命関わる程危なかったってお父様に感謝しなさい。それに外川と相澤にもね」

「勿論です。で、残された時間は恐らく2年が限界ね。今のままでは」

「短いなぁ。だから今のうちに出来る事をやっておかないといけない。明日からの予定はそのまま決行します」

「本当なら止めるべきなんでしょうけど貴方を家に迎え入れた時から私もお父様も悟も貴方の好きにさせようと思っていたから。その代わり絶対にやり遂げて見せなさい。それだけは守りなさいよ」

「わかりました。ありがとうございます。」

「それじゃあ今日はもう寝なさい。明日の為に」

そう言って悠に布団を掛けて晶は部屋を出た。そして自分の部屋に戻った晶は自己嫌悪に陥っていた。今日の霊魂の治療の際も結局は何も出来ず今日も発作を起こしていた事を知ったのはついさっきだった。今でも悠の事を悪く言う輩はそれなりにいて嫌がらせなどの行為だって稀にある。なのに自分は何も出来ない。そんな自分が嫌になってしまう。それに私は逃げた人間だ。かつて八咫烏の執行官だった時に気づいた。外道魔導士との戦闘で1人殺した時は誇らしかった。2人目で何かおかしいと思った。3人目ではっきりと理解した。自分に執行官の仕事は向いていないのだと。確かに執行官は外道魔導士との戦闘以外の仕事もある。けれどどうしても殺しの仕事が多かった。周りがどれだけ褒め称えようとどれだけ正しい事をしたと言ってくれても人を殺した際に感じる罪悪感に耐えられなかった。それが例えどんなに外道でも。そして暫くして悠と出会い接していくうちに悠や自身の大切な人だけは守り抜きたいと思う様になるのと同時に執行官を辞めて悠を身近で見守る事の出来るグリモアの学園長になり悠が進学してグリモアに入学した際に養子として引き取った。そして義理とはいえ親子の時間を過ごしていった。その後、悠が死ぬ程辛い経験を何度も何度もしていくのを間近で見ながらそれでも自分の様にならない様にケアをしながら育てた。それでも偶に思ってしまう。本当に悠の為なのか?自己満足になってしまっているのではないか?そして本当に悠の事を養子に迎えてよかったのか?自分の家ではなく他所の家に引き取られた方が良かったのではないか?そう思いながら晶は収納魔術の収納空間から麦酒の缶を取り出してそれを一気に煽り飲み干す。そして昔撮った妹との写真を眺めながら1人呟いた。

「貴女だったらどうするの真那」


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