うそっぱち

αβーアルファベーター

嘘か誠か

プロローグ 虚勢の声


◇◆◇


「俺は勇者になる!

 魔王なんて、一撃でぶっ倒すんだ!」


村の広場。


夕焼けの空に、少年リクの声が響いた。


手には木の枝。剣術の型も知らないのに、

胸を張って振り回す。


村人たちは笑った。


「口だけだな」

「勇者様ごっこか」


リクは顔を赤くしながらも、

虚勢を張り続けた。


その背後で妹のミナが

ぱちぱちと手を叩いている。


「お兄ちゃん、ほんとに勇者みたい!」


――その言葉だけが、リクを支えていた。


第一章 紅蓮の襲撃


◇◆◇


ある夜。


大地を震わせる咆哮と共に、

漆黒の軍勢が村を襲った。


オークが家々を踏み潰し、

魔族の槍が村人を貫く。


炎が天を焦がし、血の匂いが辺りに満ちた。


「ひ、ひぃ……!」

リクは剣を握ったが、

腕が震え、足が一歩も動かない。


父が剣を振るい、

母が盾となり、妹を庇った。


「リク! ミナを連れて逃げろ!」

だがリクは――動けなかった。


炎に包まれ、

刃に呑まれ、家族は次々と倒れた。


最後に聞こえたのは、妹の泣き声だった。


「お兄ちゃん、助けて――!」


リクの世界は崩壊した。


第二章 瓦礫の誓い


◇◆◇


廃墟の中でリクは膝を抱え、嗚咽した。


「……俺は嘘つきだ……。勇者?

 守る? 全部嘘だったんだ……!」


血に濡れた手で剣の欠片を握りしめる。

幻のように、妹の声が蘇った。


――「すごいね!」


「……そうだ。俺は嘘っぱちだ。勇者でもなんでもない。

 でも……嘘でもいい。俺は必ず魔王を倒す!」


それは嘘から生まれた誓い。

だが、その嘘こそが彼の全てとなった。


第三章 血の修行


◇◆◇


リクは旅に出た。

剣術を学び、魔物に挑み、

敗北しては這い上がった。


「ぐっ……! まだだ……!」

腕を裂かれ、骨を砕かれ、

それでも立ち上がる。


夜は血を吐き、昼は剣を振り続けた。


時に仲間を得て、時に失った。


そのたびに心は折れそうになったが、

胸の奥の声が支えた。


――そう。妹たちの…


虚勢はやがて肉体を鍛え、嘘は真実へと近づいていった。


第四章 魔王軍幹部戦


◇◆◇


魔王城に至る道。

リクの前に、魔王軍の幹部が立ち塞がった。


漆黒の鎧を纏う剣士ヴァルガ。


「ここを越えることは許されん。

 勇者気取りの小僧よ」


両者の剣が交錯する。

金属音が火花を散らし、砂塵が舞った。


「ぐっ……!」

ヴァルガの一撃は雷の如き重さで、

リクは地に膝をつく。


だが立ち上がり、反撃の斬撃を放つ。


幾十合もの斬り結び。

リクの頬を裂き、血が飛ぶ。

それでも瞳は揺らがない。


「嘘だとしでも……!俺は勇者だ…!」


気合と共に放った渾身の一撃が、

ヴァルガの胸を貫いた。


巨躯が崩れ落ちる。


息を荒げ、

血を流しながらリクは歩みを進めた。


「待ってろ……魔王……」


第五章 魔王との死闘


◇◆◇


玉座の間。

漆黒の魔王が立ちはだかる。


「人間よ……ここまで来たか」

圧倒的な魔力が空気を押し潰す。


魔王の剣が振り下ろされるたびに、

石床が砕け、大地が震える。


「ぐぁっ……!」

リクは吹き飛ばされ、

血を吐きながら壁に叩きつけられた。


(やっぱり……俺は嘘っぱちか……)

その時、心に妹の声が響いた。


――「お兄ちゃん、すごいね!」


「違う……嘘でも、俺は戦える!」

ボロボロの体を起こし、リクは剣を構える。


剣と剣がぶつかるたびに、

腕が裂け、骨が軋む。


魔王の一撃で床が陥没し、

衝撃波で瓦礫が吹き飛ぶ。


それでもリクは退かない。


「虚勢で我に挑むか!」


「そうさ!俺は嘘つきだ!

 臆病で、守れなかった!だけど――

こんな俺でも∞の可能性があるんだッ!」


最後の力を振り絞り、渾身の一閃を放つ。


剣が蒼白の光を放ち、魔王の胸を貫いた。


轟音と共に魔王が絶叫し、崩れ落ちる。


第六章 嘘が真実に変わる


◇◆◇


リクは血に塗れた床に倒れた。


もう体は動かない。


「父さん……母さん……ミナ……」

霞む視界に、朝日が差し込む。


その光の中、家族の幻影が微笑んでいた。


――リクは涙を浮かべ、

口元に笑みを浮かべる。


「……嘘っぱちでも……

 最後は、本当に"出来た"んだな……」


そして静かに目を閉じた。

剣だけが光を放ち続けた。

虚勢の言葉が、未来を切り拓いた証として。


エピローグ


◇◆◇


後に人々は語る。

「勇者リクは、最初は、嘘つきだった。

 だが、その嘘が世界を救った」と。


それは、虚勢から始まり、

真実に至った物語。


「嘘っ8」――嘘っパチでも、

∞の可能性があることを示した、

ひとりの少年の伝説だった。

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