第13話 死戦
合計17人のニセルディンの犠牲の元、俺たちは何とか王の母がいるという門の前に到着した。大きな柱に隠れて様子を伺うと、2人の護衛が門に立っていた。
流石にここまで来れば本格的に緊張もするようで、リナとローニャが俺の裾をつかみ、かすかに震えていた。
俺だってそうしたいのを必死でこらえてんだよ。
もうすぐで決戦だ……必勝法はある。リナが足止めし、俺とローニャで袋叩きにするという、ずっと温めてきた最低最悪の作戦だ。
これで相手は何も出来ずに即退場。どんな格上でさえこれにハマれば勝てる。
今回は相手が人間ということで若干の抵抗はあるが、ブルりと顔を振り、改めて覚悟を決める。相手は極悪人。俺たちは正義の味方なのだ。
何度も自分の姿をした分身が殺されるのを見るのはこたえるのだろうか、本物の方のハイルディンもなんだか調子が悪そうであった。
「ハイルディン、大丈夫か?」
「あ、あぁ……戦場も死ぬのも慣れてはいたが、何度も俺の断末魔を聞いていると流石に来るものがある」
「そうでしょうね」
「ただ、そうも言ってられない。仲間の為にも、私の帰りを待つ家族のためにもな」
仮にハイルディンの力をそのままコピー出来れば、騎士団員など何人かかろうが全く問題ないのであろうが、分身は大して強くない。
攻略本によればたったの10分の1程度の能力値である。さすがのハイルディンでも、この衰弱しきった状態でそれだけの足枷を付けられていては戦うこともままならないのだろう。
「家族にも会って元気な姿見せてやらないとな。さて、いよいよか」
さて行こうか……。
と思った瞬間、背中にゾクリと悪寒が走る。俺は咄嗟に指示を出しながら、戦闘能力に乏しいリナを庇う。
「気をつけろ! なにか来る! 【狂戦士】!」
眩い閃光が走ったかと思えば、ガラガラと大きな音を立てて崩れる!
これは俺のスキルの説明ではない。
門だ。
王の母が居るという門に無数の亀裂がはいり、次の瞬間音を立てて崩れ落ちた。その様子に、俺はただならぬ恐怖を感じる。
つ、強い! 今まで戦ってきたやつとは全く次元が違う!!
それは雑魚専ローニャも敏感に感じ取ったようで、先程までの勇敢な姿はどこへやら、俺の脇腹まで巻き込んで凄まじい力で肉を掴んでくる。
いてぇ!
だが、そんなこと言ってる場合ではなかった。
「やぁ、来たんだね。ハイルディン。もうとっくの昔に死んでたと思ったんだけどね」
「き、貴様! あいつだ! あいつが現騎士団長、キザン・ヒビネス!! 私の宿敵! 良くも、私の仲間を!!」
俺たちがビビっている中、今にも切りかからんとばかりにハイルディンは剣を構えていた。だが、素人目からしても、その実力差は歴然。魔力量が圧倒的に違うのだ。
ヒビネスの圧倒的な魔力放出に、胃が押し上げられるような錯覚を覚えた。
こ、これからはじまるのが、人間同士の本物の殺し合い!!
「まずいよ! あんなのと戦ったらハイルディン死んじゃう!」
「そうよ! さすがにあんなの聞いてないわ! あれはレベルがちがう!」
「ハイルディン! 1人で飛び込むのはやめろ! みんなでかかれば勝てる相手だ!」
「……いいや。…………戦わせてくれ」
「しかし!」
「私の最後の願いです。万が一、万が一にも私が敗れるようなことがあれば、その時は頼みましたぞ。【身体強化】!」
ハイルディンの体がいっきに膨れ上がる!
おっさん、そういやスキル使ってなかったもんな! 本当の実力を隠していたんだ!
だが、それでもヒビネスは遠い。
「うるあああああ!」
「懐かしいね。元、団長」
ハイルディンが地面に穴が空くほどの勢いで飛び掛り、必死に切りかかるも、簡単にかわされる。踏み込みで空けた亀裂をゆうに過ぎ、一瞬で往復する。
それどころか、剣の柄の部分で胸を突かれ、ハイルディンは地面を削って壁にぶつかる。
「ハイルディン!! リナ、回復魔法だ!」
「ひ【ヒール・極】! 」
「ハイルディン!! サポートはするが、文句言うなよ!」
瓦礫から出てきたハイルディンは、キリリとヒビネスを睨みつけた。
どうやら俺たちの声はもう届いていないらしい。
しかし、どれだけ立ち上がろうともその実力差は一向に埋まるどころか、徐々にギアの上がっていくハイルディンが全く相手にされていないところを見ると、ヒビネスは相当な実力者。
何度目か、もう数え切れないほどの突撃を繰り返しては簡単にあしらわれ、その度にリナがヒールをかけ直す。
目を覆いたくなるような惨状にも関わらず、俺はその戦いから目を離せないでいた。いま、ハイルディンは戦っているのだ。
目の前で。
皆の無念を背負い、必死に戦っているのだ。人が命を燃やして宿命を果たそうとする姿。そこから目を背けるなど、俺には到底出来なかった。
「そろそろ止めよう……あの人、もう限界よ。スキルで減り続ける体力を無理やりヒールで回復している状態。そんな無茶苦茶なこと、もう壊れてもおかしくない。死んでないのは相手が、ギリギリのところで手加減しているからよ」
「ハイルディンは何度も何度も、僕たちの声が聞こえないほどに集中して、全力で突撃している。それを簡単にあしらわれてる。彼が死んでいないのは……ヒビネスが手を抜いてるから」
「止める時は、俺が止めるさ。お前たちはただ、アイツの生き様を見届けてやってくれ」
納得してくれたようだ。何も返事はなかったが、ひしりと手を握りしめたのを確認した。
「ぐるああああ!」
「悲しいね。俺とアンタはここまで差がついてしまった。どんな気分だい? スキルすら使わない元部下に、軽くあしらわれる気分は? 昔はアンタの方が強かったんだけどね」
再び弾かれたハイルディンは、無様に床に転がった。再び立とうとするが、もう魔力が限界のようで、徐々に体が縮んでいく。
「……おま、えは……なぜ……」
「今更聞かないでよ。なぜ、アンタ含め女王派を殺したかって? 正義感溢れるアンタが死ぬほどにくかったからさ。いつも正義ヅラして、どんなに小さな違反すら許さないアンタがな。そんなあんたは俺たちなんかより遥かに強かった。背伸びしても勝てないくらいにね。あんたのせいで俺は長年副団長止まり。驚いただろう? 女王派が圧倒的少数派だったことに。アンタのせいだぜ。アンタがいつまでも団長の座に居座り、息苦しすぎるやり方を続けたから、反対派についたやつが多かったんだぜ?」
「私が…………?」
「ほんとバカだな気づいてなかったのか。まぁ安心しろや。アンタが死んで悲しむやつはもう一人もいねえから。なんせ、お前の親も、妻も、娘も、仲間も全員殺して家畜のエサにしちまったからな」
絶望に染るハイルディンの変化に、邪悪な笑みを浮かべるヒビネス。
俺はもう限界だった。
「私のせいで…………父様、母様、アンネ、クルール……私も今から行くよ……」
「随分惨たらしい最後だったぜ?」
「ころ、し…………て、やる…………」
「もう十分闘ったさ。あとな、あんたのせいじゃねーよ。みんなが死んだのはあんたのせいじゃねぇ」
スタスタと歩いていき、魔力切れで立つのもやっとなハイルディンの肩に触れる。
「あ…………あぁ…………ロジン……私はまだ…………たたか、」
「アンタは生きて奥さんたち供養してやれ。後は俺に任せろ。あいつだけは、あいつだけは俺がこの手で殺してやる」
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