二章

第11話 ストーリーから外れてきている

 前回のあらすじ


 ロジンら3人は、水の滴るやたら頑強なオリに入れられていた。


 ☆


「どうするかなぁ」

「どーするって、ひとつしかないでしょ? 脱獄して王にあって、次の街への行き方を教えて貰うのよ! こんな汚くて臭いところ、早くでないと 」

「ローニャのスキルで抜けられるとして、王にあってすんなり話が進むとは思えん。あれだけの荷物だ。当然、報告は行くだろうし」

「……じゃどうすんの」

「いつ出られるかもわからんしな。しかしイベントをクリアしないと次へは行けない。どうしたものか。とりあえずここを出て、それから考えるのも悪くないか。地面が硬すぎてそろそろ腰が痛い。ローニャ?」

「……あ、あ、え? なに? あ、脱合? はいはい」


 心ここに在らずという感じだった。そういえば街に近づくにつれ口数も減っていた。心無しかテンション下がってた気がしたな。


 考えてみればそらそうか、コイツは森で山賊やってた身。ここの被害者も少なくないはずだ。顔も割れてるだろうし、検問で捕まってもおかしくなかった。


 気が気じゃないんだろう。


「よしな」


 ローニャが柵に手をかけたその時。


 正面に位置する牢獄から、1人の男が話しかけてきた。半裸で髭をはやし、手足は鎖で繋がれている。えらく憔悴している様子だった。


 壁にもたれかかり、片膝を立てだらりとした姿勢で、しかし威厳のある声で続く。


「もし脱獄が見つかれば、お前たちは全員奴のおもちゃにされる」


 奴って誰だ? そんな危険なやついたっけな。


「奴は、大義名分の名のもとに濡れ衣を着せては、なんの罪のない人間を拷問し、殺してきた。見たところ、お前たちはまだ若い。なぜ捕まったのかは知らんが、どうせ濡れ衣だろう。遅かれ早かれ俺たちは死ぬ。だが、脱獄するのはやめておけ、少しでも長生きしたいだろう」


 濡れ衣では無いことは確かなのだが、あえてここはスルーする。

 てか、死ぬ……だって?! 死んでも生き返るんじゃ?


 リナが質問する。


「そもそも、あなたはだれなの? 他の囚人と比べてすごく厳しい拘束されてるけど」

「私は、この国の騎士団団長、ローズ・ハイルディン。いや、元、と言った方がいいか。クーデターによって立場を追われ、見ての通り今はただの犯罪人さ」

「クーデター?! 説明しろ!」


 先程まで心ここに在らずだったローニャが気迫の籠った声で叫ぶ。俺は思わず体がビクッとなってしまった。


「どうした急に。落ち着けよ」

「元々は王位継承の話だった。王には2人の娘がいた。本来なら1番初めに生まれた子供、男女問わず、その子が王位に着く予定だったが、長女が失踪したため次女が王となる運びだったのだ。もちろん、2番目であれば当然男が優先されるべきだと、男でないことに反対するものもいたが、他に子も居なかったので槍玉にあげられることは無かった。しかし、継承日の直前で王の息子だと主張する者が現れたのだ」


 なるほどな。争いなんかは王族らで勝手にやってくれって感じだが……、


 この場合どうなるんだ? 攻略本の王は確かおっさんだったはず。


 それが継承された場合はその次の王に合えばイベント発生してくれるのか?


 わかんねえな。


「そこから、女王派と反対派との抗争が起こり、徐々に激化。圧倒的数を前に、我々は敗れた。そして、現王の命令で、女王派だった我々は皆牢獄へ入れられ、元王ですらも城の地下深くに幽閉されている。その後どうなったかはわからない。同士達も私以外、みな殺された」

「その、殺されたってのは、どういう? 死んでも生き返るはずだろ?」


 ずっと抱いていた疑念をやっと言えた。


「死んでも生き返るなら犯罪者は減らないだろう。処刑も意味をなさなくなる」


 確かにそうなんだけども!! その殺し方というのを聞きたいんだよ。


 もう少し深堀したいと思っていたのに、ローニャが柵を握りしめて動き出したせいで話を中断せざるを得なくなった。


「僕は行くよ。【死神の手】」

「ローニャ!?」

「まてまて! ローニャ急ぐな! 面倒事に突っ込んで行ってんじゃねーよ!」


 瞬間、その部分が砂となり、パラパラと地面につもる。


【死神の手】無機物を殺し、砂と変えるスキルだ。ゲームの世界では壊せるものも触れるものも限定されていたため、強スキル扱いはされてないが、一応取らせておいた。


 結論、なんでも触れるしなんでも壊せるこの世界では、取らせておいて良かったスキルだ。


 ハイルディンは、そのスキルに驚きつつも、声を上げる。


「待ちな! 元は騎士団の長として、若者が死にに行くのをみすみす見逃すことは出来ない。行くなら、私を倒してからだ!」


 その言葉に、俺は驚いた。なんせ目の前にいるのはガリガリにやせ細り、もはや歩くことすらままならないのではないかと思うほど衰弱した男である。


 大して俺たちは、まだまだ序盤というのにゲームクリア後しか手に入らない装備やスキルをたんまりもち、もはやクリアまではノンストップで行ける実力者である。そして俺はこの世界の全てとも言える攻略本の知識を頭に叩き込んだ男だぞ。


 確かに、一般人がどれ程の強さを持っているのかは気になるっちゃ気になる。攻略本には書いてなかったし戦闘する場面もなかったから。


 ローニャは黙ってハイルディンのいる柵に手をかけ、次に鎖に手をかけその男を拘束から解放する。


 見かけによらず軽やかに立ち上がり、手首や足を確認し始めた。凄い強者感だ! だが!


「私は強いぞ。この鎖が証拠だ。一対一ならば冒険者を含め、この国に私に勝てるものなど居ない。その私が敗れたのだ。お前たちがどれだけ強かろうと、死ぬ運命は変わらぬのだ」


 俺はスっと、ローニャの前に出る。


「そんなに強いのか。だったら、仲間に怪我をさせる訳には行かないな。かと言って親切心で俺たちの脱獄を止めようとするあんたに怪我をさせる訳にも行かない。そこで、腕相撲でど、」

「問答無用!」


 言い切る前に、ハイルディンが飛びかかる!


 俺は目を見開いた。


 遅い。あまりにも遅いのだ。飛んでから、こちらに攻撃が届くまで、何度殺せただろうか。

 それはリナ達も同じなようで、突然の奇襲に、特に表情変えることなく俺を見守っている。


 目をかっぴらき、その骨とくたびれた乾皮のようなやせ細った手は一点に俺の喉仏を的確に貫かんとしている。


 ようやく、ハイルディンの攻撃が届いた時、俺はゆっくりと人差し指を立て、鋭い突きを受け止める。スキルを使うまでもない。


 ビタりと、当たった瞬間に運動法則を無視したかのごとく静止する。


「お前、いや、キミの守備動作が全く見えなかった。衰えているとはいえ……こうも軽々受け止められては認めざるを得ないな」

「言っとくけど、あんたじゃどう頑張っても俺たちに一撃すら与えられないぜ」

「そ、そうか……」


 ゆっくりと膝をおり、ハイルディンは俺たちの前に跪く。え、え! なに! やめてよ!


「王を、女王を救ってくれ」


 頭を下げる男。あたふたする俺に、リナがコソッと耳打ちしてくる。


「どうするの? 急がないと行けないんでしょ? たぶんだけど、そう簡単には行かないわよこの頼み事。おそらく、今の騎士団長をやったところでどうにもならないわ」

「俺もそれは思ったんだ。もう味方が居ないんならどうしようもないよな。かと言って、強引にやれば俺たちずっとおわれる身だぜ? それはさすがに鬱陶しい。味方もいない以上、王座に戻ってもまた失脚だ」

「うん、申し訳ないけど、現王に会ってサクッとイベントすすめましょ」


 しかしな、それでほんとにイベント進むのか? と迷っていると。

 ローニャが前に出て答えた。


「僕がやるよ。おっさんついてきて」

「本当か!? ありがとう。心より感謝する」

「一時お別れだね、おっさん雑魚だから僕から離れないでよ」


 覚悟を決めたような、なにか思い詰めたような顔をして、俺たちに背を向けた。

 確かにおっさんは雑魚。


 ローニャの雑魚センサーは信用できる。


 とか言ってる場合ではない!

 そう言い残しスタスタと歩くローニャを追いかける!


「な、なに?」

「1人で行かせるわけないだろ。俺たちも行く」


 こうして、めんどくさい王族の争いごとに巻き込まれるのであった。急がないといけないのに。

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