勇者なのに雑魚キャラとして追放されたので、せっかくだから悪の組織で世界征服やっちゃいます

たなかくんハイパー

第1話 飯にたかるはパーカー少女

「……米がほしい」


 なぜか焼肉の味がする草をムシャムシャしながら呟いた。


 俺、山田彰人ヤマダアキトが第32回勇者召喚とかいうのに巻き込まれてからもう1週間。

 せっかく異世界に来たってのに、「お前のスキルは役に立たん」とか「魔力が低すぎて使い物にならん」とか「ただの雑魚」とか言われて、あれよあれよとお払い箱。


 ちなみにスキルは『不死身』らしい。文字通り死なない、以上。魔力の高さが単純な戦闘における強さに直結するから、俺は攻撃性能皆無の、死なない肉壁ということらしい。


 異世界来たんだからハーレムとか期待したのに、このザマ。非モテは別世界でも非モテですか、そうですか。


 王城から追い出された俺は、テレポートとかその類の魔法で森に捨てられた。街に行けそうな道は見つけたが……金がないから意味ない。だから自然のものを食いながら飢えをしのいでいるのだ。


 この焼肉の草も最初は感動したが、4日目くらいから飽きてきた。肉だけで食えるタイプの人間じゃないもんで。どこかに寿司味の葉っぱとか落ちてないかな?


 そんなわけねぇ、とワンチャンあるよ、の両方を抱きながらぶらぶらと歩いていると、視界にキラリと光るものが見えた。


「……ん?」


 近づいて見てみると、それは金ピカのコインだった。拾い上げると、駄菓子屋のメダルチョコサイズのわりにずっしりと重い。

 明らかにただの小銭じゃないぞ。


 100%草由来のエネルギーを脳に送り、少し考えた結果、俺は答えを出した。


「金貨だな、これ」


 ◇◆◇


 俺は金貨を握りしめ、森の中の整備された道を走る。


 フハハハハ! ついに俺に運が回ってきたぞ! この緑の森とはおさらばだ! レッツゴー飯屋!!


 道があればその先には街がある。街があれば飯がある!


 一心不乱に走り続けると、やがて森の静けさがなくなっていくのがわかった。

 そして……ビンゴ!


 木々の合間から屋根が見えた。煙突から白い煙がのぼり、人の声やら馬の嘶きやら、文明の香りが漂ってくる。


 更にスピードを上げて街に突撃すると、畑作業をする第一村人、いや街人? なんでもいいや。住人発見!!


「すみません、飯食えるところありますか!?」

「そ、それならここを真っ直ぐ行ったギルド酒場ちょうどいいが……。そんなに急いで一体――」

「ありがとうございますッ!!」


 しっかり感謝を伝えてギルド酒場とやらに猛ダッシュ。

 そして両開きの重い扉を開けると、凄まじい熱気が伝わってきた。


 大剣を背負った屈強な戦士、身長より長い杖を持った魔法使い、修道服に身を包むシスター。

 ここに来てようやく感じられる異世界のファンタジー要素に感動……するはずもない。今はとにかく飯だ、飯。


 EAT、という看板を掲げ、厨房をバックに控えたカウンターに金貨を叩きつける。


「これで食えるだけ食わせてくださいッ!」


 店員の女性に伝えると、俺が鬼気迫る表情だったのか、あるいは生まれつき悪い目つきのせいだろうか、あるいはその両方か。店員さんは「は、はひぃ……」と怖気付けながら注文を届けにいった。申し訳ない。


 適当に空いている席に座ってしばらく時間を潰すと、唐揚げ、ステーキ、エビチリ、その他諸々。色々運ばれてきた。もちろん白米もあるぞ。


「うおっ……うまそぉ……! いっただきまーー…………す?」


 ナイフとフォークを握って早速食べようとしたその時、ぐにっとした何かが足に当たった。


 なんだこれ、と思ってテーブル下を除いてみると。


「こんちわッス」

「こ、こんちわ……?」


 体育座りの美少女が、気さくな挨拶をしてきた。


 水色のサラサラロングヘアーに、透き通った青のジト目。整った顔立ちに一発で落とされそうになる。お肌はプルプル。ゼリーみたいだ。年齢は……14,15くらいか。


 服装はこの世界から少し浮いてるグレーのパーカーと、黒のジーンズ。パーカーは少しサイズが大きいのか、萌え袖気味になっている。他の日本人がここで服の展開でもしてるのか?


 さて、そんな女の子が俺のテーブル席の下にいたわけだが……どういう状況?


「えっと……君は誰かな?」

「ジブンはエミリス。ご飯を分けてもらいに来たッス」

「お、おう……。俺はヤマダアキト……なんだよその顔は」


「さぁ、はよ飯をよこせと」という目でこちらを見るエミリス。さては俺が金貨を出したときから目つけてたな……!


 無視してエビチリを口に運ぼうとすると、下からエミリスがこんな提案をしてきた。


「もし料理を分けてくれたら、ジブンの身体、好きにしていいッスよ」

「……ッ!」


 澄ました顔でサラッと言った。

 料理を分けたら、この美少女を好き放題……ッ!?


 ……フフフ、ハハハ、フハハハハ! 俺がそんな提案に乗るほどチョロい男に見えたか? 生まれてこの方女性とは無縁のこの俺が、そんな提案に乗るとでもッ!?




 俺はニッコニコでエミリスに料理を差し出した。

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