第20話 暗雲
「香澄様〜、行くよ〜!」
「もうっ、凛ったら。もう少し落ち着きなさい」
「凛。まるで子供のようだぞ・・・・・・」
翌日、正門の前にて香澄は霜月、雪見と集合する。
雪見は久し振りの外出ということもあり、いつも以上にテンションが高めだ。
誰よりも先に正門の前で香澄達を待っていた。
「もうっ! 冬夜だって浮き足立ってるしっ! 別にいいでしょ、楽しみにしてたんだからっ!」
「なっ! ま、まあ? 羽を伸ばせと香澄様の命令だし?」
「だったら余計なこと言うなしっ! あっ、それより香澄様っ! 今日は顔色良いねっ!!」
「ええっ。昨日は早くに寝ましたから。久しぶりにぐっすりよ」
「そっか! じゃあ、今日は思う存分遊ぼう!」
「ふふっ。じゃあ行きましょうか」
そうして香澄達は移動を開始する。
⭐︎
「さて、まずどこに行きましょうか・・・・・・?」
「私もプラン考えてきたっ!」
「お前のプランか・・・・・・普段は反対したいところだが、今日は付き合ってやるか」
「決まりね。初めはどこに行くの?」
「まずは映画! 面白いアクション映画やってるんだっ! 結構人気のやつ!」
「ああ、テレビで最近CMになってるやつか・・・・・・」
「そうそう! じゃあ香澄様! 着いてきて!」
「ふふ。では案内頼むわね」
⭐︎
映画館に到着する。
券を買い、飲み物とポップコーンを買う。
座席はちょうどど真ん中であった。
「真ん中とは、よく取れたな」
「ふふーん。リサーチ済みっ!」
「ふふっ。流石ね」
映画の前に皆笑みを見せる。
そして、始まる。
内容は面白おかしい類のもので常に笑い声が絶えない様子だった。
香澄達も人目を憚らず笑い声を上げ、年相応の反応を見せる。
「楽しかったねー!」
「そうですね。うぅーーーーん!!」
映画が終わり、感想を言い合う。
皆楽しみたようで笑みが絶えない。
香澄は座り疲れ、伸びをする。
「次はどうするの?」
「次はバッティングセンター!」
そして、直様移動を開始していった。
⭐︎
カキーン!
金属音が鳴り響き、ボールが勢いよく飛んでいく。
カキーン! カキーン!
「うーんっ!! きもちいぃ〜!!」
雪見がどんどんホームランゾーンにボールを叩き込んでいく。
空振りやゴロが一切なく運動神経の良さを遺憾なく発揮している。
「くそっ!」
霜月も負けじとバットを振るう。
ホームランゾーンに飛ぶことはあまりなかったが、センスを感じるような打球が多く彼もまた運動神経の良さを遺憾なく発揮していた。
しかし、雪見に負けている状態であったため、納得していない様子。
霜月は負けず嫌いであった。
そして、香澄は。
「あっ!」
バットを振るが綺麗に空振り、ボールが通り抜ける。
「うーん・・・・・・」
何度か挑戦するが一向に当たる気配がない。
「今度こそ・・・・・・」
もう一度振り抜く。
が、やはり結果は同じ。
「・・・・・・」
「か、香澄様・・・・・・」
「香澄様・・・・・・」
2人はまさかの結果に驚きを露わにするが、次の瞬間には更なる驚きを目にする。
「ウガァァァァァ!!」
香澄が突如唸り出し、闇雲にバットを振り回し始める。
しかし依然として当たることはない。
「ウガァァァァァ!!」
何度も挑戦する。
しかし、当たらない。
「ウガァァァァァ!!!」
当たらない。
「ウガァァァァァ!!!!」
そこから怒涛の2時間ぶっ続け。
「・・・・・・・・・・・・」
結局一球も当たらないと言う結果に終わったのだった。
「「香澄様・・・・・・」」
霜月と雪見は大変驚いていた。
ちょっと運動音痴だとは思っていた。
しかし、ここまでとは思わなかった。
そういえば、球技は苦手だったかも・・・・・・。
選択肢を誤ったことで雪見は冷や汗を流す。
これではストレス発散にならないかもと。
「・・・・・・ふぅ。さて、次はどこ行きますか?」
満面な笑みだった。
そして、だからこそ逆に恐ろしく感じた。
「えっと、ボーリング・・・・・・あっ」
そう、気づいてしまった次も球技だと。
「行きましょうか」
「あ、あの・・・・・・」
「行きましょうか」
「はい」
香澄に言われるがまま雪見達は移動していくのだった。
⭐︎
結論を言うとボーリングは断トツのトップだった。
「香澄様っ、凄い!!」
「流石です。香澄様」
投げるたびにピンを全て倒していく。
香澄はストライクの表示が出るたびに意気揚々な態度になっていく。
そんな姿を見て霜月と雪見はホッとするのであった。
そっか。
香澄様は遠距離タイプだから、狙うのは得意なんだ・・・・・・。
こんなところでも相性があるのかとびっくりする雪見。
それと同時に今まで外であまり遊んだことがなかった事に気づき、反省の色を見せる。
これからは積極的に連れ出してリフレッシュさせてあげないと・・・・・・。
雪見はそう心に誓った。
⭐︎
最後はカラオケだ。
流行りの曲や有名曲を歌っていく。
カラオケでは何か特別なことが起きることはなかった。
3人ともそれなりにに上手く、普通に楽しんでいると言った感じであった。
そして、全てを遊び尽くして早くも20時過ぎとなる。
「ふぅ。楽しかったねっ!」
「そうだな。久しぶりに羽を伸ばせた」
「そうね。来てよかったわ」
それぞれが感想を告げる。
「香澄様っ! また行きましょう!」
「そうね。次は絶対にホームランを打つわ」
「あ、うん」
「香澄様はホームランの前にまず当たるところからかと・・・・・・」
「冬夜?」
「冬夜っ! 余計なこと言わないっ!!」
「すみません」
「ふふっ」
香澄は笑みを漏らす。
気分が良いのか、ウキウキと弾んでいる。
霜月と雪見はそんな香澄を見て来てよかったと感じていた。
そんな時であった。
「ん?」
香澄の足が止まる。
ここは学園への帰り道。
一通りが少ない道ではないが、遅い時間ということもあり、静かさがあった。
香澄は立ち止まり、耳を覚ます。
僅かに感じる戦闘音。
これはもしやっ!
香澄は走り出す。
「香澄様っ!」
「香澄様!」
霜月と雪見は驚きを見せつつ、急いで香澄の後を着いていく。
近づく度にどんどん戦闘音が大きくなっていく。
「香澄様っ! これはっ!」
「戦闘が行われているようですねっ」
霜月と雪見も状況に気づいたのか表情を引き締める。
「いつでも戦闘に入れるように準備なさい!」
「「はいっ!」」
そう告げ、『
飛んで屋根伝いに進んでいく。
霜月と雪見も即座に身体強化を発現して着いてくる。
屋根伝いに走っていた香澄はある事に気づく。
この先にあるのは・・・・・・公園?
戦闘音が急に止んだ事に焦燥感を感じる。
公園のすぐ前までやってくる。
屋根から公園まで跳躍する。
上空から公園の様子が良く見える。
香澄は驚愕した。
そこに映っていたのは、今まさに命が刈り取られそうになっている学生と学生を取り囲む3人の黒ずくめであったからである。
⭐︎
「『
黒ずくめの男に氷の魔術を放つ。
黒ずくめは初めから気づいていたかのように簡単に躱し、倒れている学生から距離を取った。
香澄は公園に降り立つ。
「!?」
しかし、その瞬間、香澄は妙な感覚に襲われた。
何・・・・・・今の?
まるで結界内に入ったかのような感覚。
何かは分からないが何らかの効力がある結界のようなものの中に入った事を確信した。
霜月と雪見も同様に屋根から飛んで公園に降り立つ。
地面に着地すると違和感を感じたのか手足を確認しだす。
やっぱり、これは何らかの結界・・・・・・。
しかし、今はそんなことを気にしている状態ではない。
「冬夜! 凛! そこの方々から目を離さないで!」
「「はい!」」
冬夜と凛にその場を任せ、香澄は倒れている生徒の状態を確かめる。
「大丈夫ですか!?」
そこには3人の学生が倒れていた。
3人とも女性だ。
身体中に酷い怪我を追っており、重症に近いことが分かる。
まだ救急車の音が聞こえてこない。
香澄は倒れている女性のΩに触れ、通報された時間帯を確認しようとするが、Ωが故障しているのか動かなかった。
どうして!?
他の者のΩも触れてみるが反応しない。
香澄は自分のΩにも触れているが、自分のさえ動かなくなっている事に驚愕した。
そして、気がつく。
「まさかこの結界が———」
立ち上がったその瞬間、一歩身体を引く。
今まで自分がいたところを鋭利な刃が通り過ぎていく。
黒ずくめの男は不意の一撃が躱されると跳躍し後退する。
そして両者睨み合いとなった。
⭐︎
躱せたのは偶然だった。
視界の端に偶然何かが映った。
そして気づいたら足が動いていた。
それが刃物だと気づいたのは、彼らが後退した後だ。
危なかった。
相手は警戒してくれたのか向こうから距離を取ってくれている。
「「香澄様っ!」」
霜月と雪見が近づいてくる。
2人とも全く動けていなかった。
2人も冷や汗を流し、焦燥感を表に出している。
「どうやら彼らは気配を消すのが得意なようですね」
「すみません」
2人とも視線を落とす。
「今は気にしている時ではありません。前を向きなさい。さもなければ、命を落としますよ!?」
「「っ!?」」
2人は目を見開き、身体を震わせる。
当然だ。
命のやり取りをするのは初めてなのだから。
「2人とも聞きなさい。あなた達も気づいていると思いますが、ここには結界が施されています。それによって我々は救援を呼ぶことが出来ない状況です。ここで彼らを撃退するしかありません」
「「は、はいっ!」」
「凛は彼女らの応急処置をお願いします。冬夜は私と共に凛の応急処置が終わるまで彼らの足止めを図ります」
「「はい!」」
雪見は直様治療を行う。
雪見が満足使えるのは下級魔術まで。
ここでは応急処置だけで精一杯だろう。
香澄は視線を黒ずくめに向ける。
彼らは動くことなく、こちらの出方を伺っているように見える。
「『
ライフル型の銃を一丁召喚する。
見失ったら、我々には彼らを捉える術はなくなる。
一挙手一投足に集中せねば・・・・・・。
彼らはゆっくりと足を進める。
3人いっぺんにゆらゆらと動き出す。
「・・・・・・」
銃を構え、いつでも放てるように意識を集中させる。
「っ!!」
黒ずくめが動き出す。
緩急を使って変化を生み出す。
突然の変化に目を見開く。
だが———。
見える!
「『
黒ずくめの1人目指して撃ち込む。
黒ずくめは弾丸を躱して尚も近づいてくる。
3人が同時に近づく。
同じ距離感で誰から止めれば良いのか考え、一瞬の間が出来る。
そこを見逃す敵ではない。
黒ずくめはナイフを投げ込んでくる。
香澄はそれを躱す。
しかし、他の方向からもナイフが飛んできている。
しまった。
すべてに対応できない。
タイミングよく投げられたナイフを躱し切れないと踏んだ香澄は身体が固まってしまう。
当たる。
ナイフの攻撃を覚悟し待ち受けるが、それは目の前で何かに弾かれ地面に落ちる。
「香澄様っ!」
「・・・・・・冬夜」
弾いたのは冬夜であった。
手に氷で出来た剣を持っている。
おそらく『
「香澄様。俺が前に出ます。香澄様は援護を!」
「待ちなさい。1人で前衛は危険です」
「大丈夫です! 俺を信じてください」
香澄は霜月の力強い眼差しを見る。
そして、覚悟を決める。
「前に出過ぎないで」
「了解です」
冬夜が前に出る。
黒ずくめは互いに目配せすると一斉に駆け出す。
一直線に重なり合い、先頭の黒ずくめAが背後の黒ずくめの姿を隠す。
「くっ!」
冬夜は剣を振り下ろす。
それに合わせて先頭にいる黒ずくめAが短剣を構える。
短剣には黒いオーラが纏われている。
闇属性の使い手なのだろう。
黒ずくめAが短剣で受け止めると、背後の黒ずくめB、Cが姿を現し両側面から冬夜目掛けて短剣を突き出そうとする。
「『
香澄は黒ずくめB、C目掛けて軌道弾を放つ。
軌道弾は冬夜のすぐ背後で左右に分かれ、それぞれB、Cを狙う。
B、Cに向けて4発ずつ。
しかし、それをすべて漆黒を纏った短剣を巧みに操り、切り裂くと尚も短剣を冬夜に突き出そうとする。
させません!
「『
再び弾丸を放つ。
先ほどと同じように冬夜の背後で左右に分裂し、それぞれ黒ずくめB、Cを狙う。
黒ずくめB、Cもすぐさま弾丸の迎撃に切り替えるが、その様子を見て香澄が笑みを漏らす。
弾丸はBとCに届く直後、再び枝分かれする。
全方位に散るように枝分かれするとさらに軌道を変え、B、Cを狙う。
届いた!
香澄は確信する。
「っ!? そんな!」
しかし、そんな香澄の期待は裏切られる。
黒ずくめB、Cに直撃するがそれは偽物であった。
偽物はその身に触れた途端に黒いモヤとなって消え失せる。
分身!
なら本物はどこに!?
「香澄様っ!」
辺りを見渡そうとする瞬間に背後から自分を呼ぶ声と共に刃を目の端で捉える。
「『
銃を通さない弾丸の嵐。
宙に魔術陣を作り、そこから直接弾丸を放つ。
咄嗟であった為、めちゃくちゃに放たれた弾丸であったが、逆にそれが幸いする。
両側面から狙う刃は懐まで迫っていた。
既に攻撃体勢に入っているため、弾丸を躱すことが出来なかった。
黒ずくめB、Cは弾丸に撃たれ蜂の巣となるが再びその姿がモヤとなって消える。
香澄は片方の刃にしか気が付いていなかったが、咄嗟の場面が逆に彼女を救ったのであった。
危なかった。
モヤとなって消えたことで逆方向からも迫っていたことに気づいた。
そして、身震いを起こす。
もしめちゃくちゃに放たなかったら、と思うとゾッとする。
冷や汗が頬を伝った。
視線を戻す。
冬夜は防戦一方となっており、遂に剣を弾き飛ばされ、蹴りを喰らう。
そして、香澄の足元まで転がっていく。
「『
弾丸を放ち牽制する。
黒ずくめAは一度距離を取る。
Aの背後からBとCが再び姿を現す。
「冬夜!」
香澄は直様霜月を立ち上がらせる。
霜月は腹部を抑えていたが、痛みを堪えて立ち上がる。
戦況は完全に不利となっていた。
⭐︎
新しい魔術一覧
闇属性 下級魔術
『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます