異世界帰りの『茨』属性魔術師〜落ちこぼれが10年を異世界で過ごしたら最強格へと成長した件〜
@aiai66986
柯王 灯 編
第1話 帰還
『まもなく東京、東京。お降りのお客様はΩとお荷物の置き忘れにご注意ください』
電車が到着し、扉が開かれる。
中から雪崩のように人が溢れ出る。
「ほんと懐かしいな」
視線を向ければそこに映るはスーツを着ている大人の姿。
男女でラフな格好をして腕を組むカップルの姿。
外界との関わりを断つようにイヤホンをつけている同い年くらいの男性の姿など多種多様な姿をした人物が溢れかえっている。
灯はキャリーケースを引いて、人だかりの後を追う。
自販機を見るのも懐かしく。
どこにでもある普通の自動販売機。
値段も170円前後と昔と変わらない。
自販機に目を向けていると、周囲の声が耳に届く。
やらこれからどこへ行く? や何を食べる? などごく普通の雑談。
しかしそれを聞いた灯は懐かしむようにうんうんと頷く。
改札でΩを翳し精算を終えると、すぐに東京駅を出るべく、歩き始める。
東京駅を出ると、距離を取り駅に目を向ける。
「ようやく帰って来れたんだよな・・・・・・」
灯は感慨深く東京駅を見つめていた。
昔と何も変わらないことに安心感を覚える。
たった1年。
実際には10年にも及ぶ大冒険を経験した灯は瞼が熱くなる感覚を覚える。
精神的に成長し過激な異世界に染まってしまったと思っていた自分であったが、今でも涙腺というものが存在していることに安堵する。
が、いつまでもここで時間を費やす訳にはいかない。
灯は自身の腕に装着されている腕輪に目を向ける。
目を向けただけで腕輪が点灯し音と共に起動する。
腕輪からホログラムが現れ操作を始める。
メッセージと書かれたファイルを選択する。
そこには東京魔術学園第一高校からのメッセージが映っている。
今日までに職員室に顔を出すようにと言う文言が書かれており、その下の段には注意書きでΩを忘れずに、と書かれていた。
「Ω持たずにどうやってそこまで行くんだよ・・・・・・」
灯はメッセージに苦笑を浮かべる。
携帯用多機能便利デバイスΩ。
それが腕輪の正式名称である。
これは全国民に装着を義務付けられた魔道具である。
形はいくつかあり、腕輪型、指輪型の他にタブレット型やスマートフォン型、カード型と多種多様である。
その中でも腕輪、指輪型は装備式であり両手が空くという理由で主流となっている。
これはとても便利な物でこの変わった世界ではこれ1つで全てを行えるようになっている。
先程のようにメッセージのやり取りが出来るほか、電話やネット検索などが出来る上、他にもこの世界ならではの使用方がある。
「次のニュースです。現在、多発している魔術学校の学生を狙う事件に対して、警察庁魔術課は正式に正当防衛の為に武器の携帯を認めることを発表しました。学生の皆様は遅い時間の外出と一人行動を控えるようお願い申し上げます」
東京駅のすぐ近くの巨大なビル。
そこには巨大なモニターが付いており、ニュースが流れていた。
「学生を狙う凶悪犯・・・・・・ね」
灯は思わず笑みを漏らす。
今の速報は最近巷を騒がしているニュースだ。
最近この辺で学生を襲撃する事件が後を経たないとのことだ。
学園のレベル関係なく襲われているところを見るに学園そのものを狙っているわけではなく、あくまで学生を狙っていることが分かる。
これは学生にとっては命に関わる事件だ。
なんせ相手は犯罪組織だと言われているから。
灯は悪どい笑みを浮かべる。
襲撃犯がどのくらい強いのか確認したいところだ。
なんせ久しぶりでこの世界のレベルが分からないからな。
もしチャンスがあればこちらから赴いてみるのも面白いかもしれない。
などと、自分が負ける事を想定していない考えを持っていた。
少なくとも大人と子供だ。
実力に差があることは断然たる事実。
その上に、実践経験を積んでいる組織の人間と社会の社の字も知らない学生だ。
その間には絶対的な差があるはずだ。
だと言うのに灯には負けないという絶対的な自信があった。
何故なら灯は異世界帰りの魔法使いなのだから。
⭐︎
10年前、いや、この世界では1年前か。
この世界しか知らなかった頃の灯は落ちこぼれだった。
魔術の才がまるで無く、笑いものにされる日々。
それが灯の日常であった。
しかし、そんな日常が突如崩れ去った。
底辺の魔術学校への進学が決まり、寮暮らしのために上京してきた最中であった。
灯は異世界に飛ばされた。
知らない世界だった。
そこには同じように連れて来られた3人の男女。
そして、告げられた真実。
灯達は魔神を倒さなければ元の世界には帰れない。
灯達は突然、命懸けの世界で命懸けの旅をしなければいけなくなったのである。
命懸けの旅は想像を絶するものだった。
中学生の灯達には死闘を経験したことなどなかった。
その結果、どんな目にあったのかは火を見るより明らかだろう。
特に酷かったのが魔物との戦闘。
今でも思い出す。
身体を切り裂かれて内臓が飛び出た時のことを。
雷に打たれ一時的に死んだ事を。
炎に焼かれ生き地獄を味わった事を。
毒に侵され、ひと月ほど生死を彷徨っていた事を。
俺達の旅は心身を激しく憔悴させるものだった。
しかし、道中で見つけた仲間、失った仲間。
そして、異世界にいる友達や家族。
そんな大切な存在のお陰でなんとか生き抜いてきた。
そして、10年と言う長き時を経て、ようやく魔神の討伐に成功する。
そして我々は地球に帰還することとなったのだ。
⭐︎
「今となっては懐かしい思い出だ」
灯は異世界での思い出を思い出してうっすらと笑みを浮かべた。
薄暗い笑みを・・・・・・だ。
この世界に戻ってからは、未だに彼らとは逢えていない。
ただ、帰還の瞬間にお互いの出身地を聞きあった結果、全員バラバラなのは確認している。
彼らは名家の出だと言っていたな。
まぁ、召喚時に俺だけ実力差があったから驚かなかったけどな。
きっと彼らも無事に戻れただろう。
大丈夫、いつか会える。
早いうちに会えたら嬉しい。
そして、ここからが怒涛の連続だったのだが、まず俺は召喚された場所に戻ることとなる。
そして、すぐに気づいた。
俺の身体が一回り以上小さくなっていたのだ。
すぐに気付けたのは当然であった。
なんせ小さくなったせいで感覚が変わっていたから。
その上、身体が若返ったのは良いが、身体能力や魔力も若返り、異世界にいた時の影も形も消えていたからだ。
正直、絶望だった。
あの頃に戻ってしまったんだと。
嬉しくもなんともないと。
そんな訳であの10年はなんだったんだ!? と叫びたくなったが、無駄ではなかったことにもすぐに気づいた。
異世界での生活のせいで忘れていたが、魔力も肉体も縮小していたが、それでも召喚時よりはかなりマシになっていた。
異世界での急成長により弱体化仕切れなかったのではないかと考えるとその理由にも納得出来た。
とりあえず安心したさ。
無駄にならずによかったってな。
で、それから必死に過去を思い出し、手に待っていた荷物を漁った結果、ようやくあの日から時間が進んでいないことに気づいた。
だから俺はひとまず、寮へ向かうことにした。
だが、実際は違った。
学校へ着くと、警備員に呼び止められた。
そして、まずΩの所持を確認される。
俺は持っていなかった。
10年の間で捨ててしまったのだ。
異世界では使えなかったから。
Ωは必需品。
今の俺の状況は簡単に説明すると、免許を持っていないのに車に乗っているのがバレたようなものだ。
当然警察に通報され、署まで連行されることとなった。
その時に気づいたのだが、どうやら時間が経っていないと言うのは勘違いだったようだ。
ちょうど1年が経っていたらしい。
そして、家族が俺の捜索願いを出していることも判明した。
家族が現れた時、両親に泣きそうな顔で抱きしめられた。
感極まって俺も泣いてしまった。
両親は酷くやつれているようでなんだか申し訳ない気持ちになった。
そうして身元の確認が済んだが、俺はしばらく監視下に置かれた。
1年間消息不正だったため、身体検査が行われたからだ。
家と病院、警察を、行ったり来たりであったが、その間家族は一度たりともこの1年間のことを聞いては来なかった。
気を利かせてくれたのだろう。
そして身体検査の結果、どこにも異常が無かったが一点だけ。
魔力総量が爆発的に増えていることが決定づけられた。
警察と病院はなんらかの実験にあったのではと勘繰っていたが、身体になんの異常も見つからなかったので、その時点で自由となった。
ただ、本来行くはずだった高校はすでに1年経っていることもあり、再び入る許可が降りることはなかった。
だが、驚くことに声を上げた高校があった。
それがこれから通うことになる東京魔術学園第一高校と言うわけだ。
聞いた話によると異世界での生活により弱体化しても体内に残った魔力は、同年代の中でもかなり多いらしく、それを知った理事長が勝手に迎え入れることにしたらしい。
⭐︎
そんなことがあり、灯は今日改めて東京魔術学園第一高校に向かうこととなった。
今日は入学式前の4月1日。
寮暮らしとなることから早めに学園へと向かう生徒が多くいる。
目の前にいる学生が1年なのか2年なのか皆目見当もつかないが、彼らについて行けば道に迷うことはないだろう。
黙って彼らの後ろをついて行くことにした。
そして、ようやく第一高校の正門までやって来た。
駅を降りてから30分ほど歩いたところに第一高校はあった。
道中平面ばかりなので歩くことに疲れは全くなかったが、前を歩いている学生が楽しそうに話している姿を目の当たりにすると悲しいものがある。
灯は地方出身であり、此度は上京したと言うことになる。
その為、友達がいない。
と言うか同郷がいたとしても多分、いや間違いなく覚えていないけど・・・・・・。
とは言え、前の学校では良い思い出がない。
まぁ、だからこそ上京を選んだのだが・・・・・・。
だからこそ第一高校ではたくさん学友を作りたいと思っている。
ぼっちは流石に寂しいからな。
だからこれは高校デビューとも言える。
学友をたくさん作って充実した学園生活を満喫出来れば良いなぁなんて思う。
「でけ〜」
正門から見える景色は思わず口に出してしまうほど壮観であった。
とんでもない広さの校舎に思わず呆然としてしまう。
Ωでこの学園のことを調べてみたが、ここはとんでもないところだった。
東京魔術学園第一高校。
1学年400人を要するマンモス校であり、魔術科300人、魔導技師科100人とのことだ。
魔術学園としても最大級の学生数を誇っている為に競争が激しく、結果トップレベルの魔術学園となった経歴を持つ。
学生数が多い上に魔術学園。
その為、敷地がとてつもなく広く。
東京ドーム何個分だ? と聞きたくなるレベルの広さを持つ。
ここの理事長は魔術界で最も発言力と影響力をもつ五大公家が1つ、御剣家の当主が務めているとのことだ。
そりゃ強いわけだ。
俄然楽しみになって来た。
灯は浮き足出す気持ちを抑えて、正門を潜るのであった。
⭐︎
「初めまして、2年A組の柯王 灯です。担任の方はいらっしゃいますか?」
あまりに校舎が広かった為に職員室を探すのに掛かってしまった。
まず校舎が3つある。
魔術科の校舎、魔導技師科の校舎、職員の校舎となっている。
正門から見えた堂々とした佇まいの校舎は魔術科校舎だった。
始めは魔術科校舎に入って行ったがまさかの職員室が見つからない。
その上に校舎だけでかなりの広さがあるのでだいぶ歩き回ってしまった。
結果としては、魔術科校舎の裏に並ぶ形で職員の校舎があった。
魔導技師科校舎は職員校舎の隣にある建物だ。
職員校舎と魔導技師科校舎を合わせると魔術科校舎と同じ広さになるようだ。
魔術科校舎からそれぞれ渡り廊下が繋がっており校舎の間には芝生の校庭が広がっている。
御剣家が理事を務めているのだから、もしかしたら金持ちが多く通っている学園なのかもしれない。
と言うか無駄に広すぎなんだよ。
途中使われてない部屋をたくさん見かけたぞ!
もっと考えて作れよ・・・・・・。
あと、今日はまだ春休み中と言う事もあった為、誰にも聞くことが出来なかったと言うのもある。
職員室に入ると年老いた教師に別室に案内された。
職員室もかなり広かった。
職員校舎だけで5階まであるんだもん。
そして、1年、2年、3年と職員室が分かれていた。
というわけで灯は今2年の職員室。
つまり2階にいた。
そして今は待機中だ。
別室には制服とカバン、そしてタブレットが置かれていた。
灯は担当を待っている間、制服、カバン、タブレットの順に目を通す。
「へぇ〜」
灯は制服に目を向けて面白そうに笑みを溢す。
制服は白い生地にシンプルな黒の縦模様が入っている。
シンプルにカッコ良い感じだ。
悪くない。
そして何より、魔術学園ならではと言うべきだろうか、この制服には魔術耐性が付与されている。
「なるほど。無属性か」
制服に触れて、秘密を暴いていく。
どうやらこの制服には無属性の『
属性魔術に対する抵抗力と、破れたり消滅しても元に戻せる再生力。
「悪くない」
灯は高得点を付ける。
次にカバン。
茶色がメインで柄の類は全くない。
唯一あるのは本校のシンボルだけか。
次にタブレット。
これは教科書代わりとなるものだ。
これ一つで全ての強化に対応出来る為、持ち運びはかなり楽になる。
電源をつけてみてもいいだろうか?
いいよね、だって俺のなんだし。
タブレットに手を伸ばした瞬間、扉が開かれる。
「お待たせしました。・・・・・・どうかしましたか?」
危ない。
タブレットに触れようとしたのがバレるところだった。
「初めまして、柯王 灯です。よろしくお願いします」
「初めまして。私は2年A組の担任を務めている舞原 晶子です。舞原先生って呼んでください」
「はい、舞原先生」
「では、早速・・・・・・」
舞原先生は簡単に説明を始める。
と言っても、制服とカバン、そしてタブレットの使い方についてだった。
「柯王君、Ωは持って来てますか?」
そして、最後にΩの所持を聞いてくる。
持ってなきゃ捕まるっての・・・・・・。
内心その質問に呆れながらも腕に装着されているΩを見せる。
「はい、確認しました。寮に入りましたら、認証画面が出て来ますが、その際はΩを翳してください。Ωがカードキー代わりになりますので」
そう、Ωはカードキーとして使えるのだ。
本当に利便性が高い。
「ありがとうございました」
頭を下げて、職員室を出る。
灯はそのまま真っ直ぐ寮へ向かう。
⭐︎
校舎を出て正門とは逆方向へと向かう。
学内とは思えないほどの木々に囲まれた通りを抜けるとマンションのような寮がずらりと並んでいる。
どうやら各学年ごとに寮が分かれているようだ。
さらに男子寮と女子寮に分かれている。
男子寮へ着くと扉がオートロック式になっている。
灯がΩを翳すとロックが解除され、自動で扉が開かれる。
中に入るとすぐの空間は談話室になっていた。
何人かの男性が話し込んでいる。
男性は灯に気づくと目を向け、上から下まで観察してくる。
値付けされているかのようだ。
いいだろう。
存分に見るが良い!
談話室を抜けると寮母室と書かれた部屋が正面に見える。
窓が開いており、中で作業している男性がいる。
「あの」
話しかけると顔だけこちらに向けてくる。
「今日入寮なんですが」
「ああ、聞いているよ。カードキーのことは聞いたかい?」
声を掛けると男性は優しい笑みを浮かべて近づいてくる。
「はい、聞いています」
「なら1人で平気かい?」
「はい」
「分かった。今日はここにいるから、分からないことがあれば聞いてね」
ここの寮母はとても爽やかな方だ。
清潔感にも気を遣っているのは、この方から香る香水を嗅げば分かる。
女性ウケしそうな良い香りだ。
きっとモテモテなんだろう。
「はい。ありがとうございます」
寮内はかなり広かった。
案内図があるくらいだ。
案内図を見ると全容が見えてくる。
どうやら1階には談話室、休憩室、食堂、銭湯など公共施設が纏まっているようだ。
そして2階から上が生徒の寮となっている。
すぐそばにある階段を登っていく。
3階369号室。
それが俺の部屋だ。
何度もΩで確認したから間違いないだろう。
Ωを翳し、部屋に入る。
中は家電、家具、ベッドは揃っているがそれ以外は何もない殺風景な部屋だ。
「買い出しに行かないとな」
キャリーケースから着替えを出して、仕舞ったのち、買い出しに向かった。
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