案3『ハズレスキルの落ちこぼれハンター、能力覚醒で最強を目指す』~1秒しか時を止められないと馬鹿にされたスキル『時止め』が覚醒して無双な件について~

空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~

第1話 覚醒の日~二回目のキス~

 アギトの塔。虚空の塔とも呼ばれるその塔は太平洋の真ん中にある。天まで伸びるその塔の最上階に神はいると噂される。


 2000年。ダンジョンは世界各地に突如現れた。ダンジョンの中にはファンタジーノベルでよく出てくるような魔物、モンスターがいて、また覚醒者と呼ばれる特殊能力を持つ人間も現れた。


 覚醒者にはSABCDEFの7段階のランクがある。18歳の少年ヨハンはFランクだった。彼の特殊能力は『永遠』。その内容は時を止めるというもの。だが、止められる時間が問題だった。彼は1秒しか時を止めることができない。それは魔力不足だからだ。Fランクのヨハンの魔力は一般的な覚醒者よりも秀でていた。だが、永遠の能力が消費する魔力が多すぎるのだ。


 覚醒の時は時を止められるすごい能力だともてはやされたが、今ではゴミ能力として、彼は落ちこぼれの烙印をお押されている。


「魔力さえあれば」


 ヨハンは今日も最下級ダンジョンで日銭稼ぎをしていた。スライムやゴブリンなど、一般人でも武装すれば倒せるような相手だ。そしてボス部屋につく。ボスはキングスライム。巨体なので攻撃は当てやすい。正直楽勝だった。


 キングスライムを倒す。いつものように帰還ゲートが現れるのを待つが、その時は訪れない。


「なんだ?」


 すると部屋が赤い光で満たされた。


「やっと見つけた」


 すると黒衣をまとい、漆黒の長髪に色白の肌の美女が現れた。彼女は「永遠に定めが来た」と意味の分からないことを語ってヨハンに近づく。


「お前は誰だ?」

「私はパンドラ。神の使い」

「神の使いだと?」

「ええ。あなたのような素晴らしい能力を持つ覚醒者を探していましたの」

「俺の能力は一秒も時を止められないゴミスキルだ」

「でも魔力があれば話は別でしょう?」

「魔力の総量は覚醒時に固定されるはず」

「でも、こんな特殊能力があるの」


『魔力操作』


 そう言ってパンドラと名乗った美女はヨハンに近づき、そしてその頬に手を当ててキスをした。その時ヨハンの体に異変が起こった。パンドラから魔力が流れこんでくるのだ。それも自身の中の魔力総量を押し上げながら。


「あなたなら世界を救える」

「パンドラ。お前は一体?」

「私は神の使い。使命は神を蘇らせること。あなたが終末の日に神になるのよ」


 そう告げてパンドラは消えた。


 ◇


 ヨハンはダンジョンから家に帰る途中、時を止めてみた。すると1秒以上の時間を止めることが出来た。時を止めてすれ違った美女の方へと近づく。美女は固まったままだ。俺は緊張の面持ちで、その美女の胸に手を伸ばす。


「やっぱりやめた」


 ヨハンは性欲に打ち勝ち、その美女から離れた。そして、止まった時の中、自分の家へと向かった。


「何秒時を止められるかだな」


 時計さえも止まってしまうため、ヨハンはリンゴを片手に持ち、リンゴを離すと同時に時をとめた。


「1秒、2秒……」


 そして、3600秒経つ頃に彼は頭痛に見舞われた。魔力枯渇の初期症状である。そして時間の流れが始まりリンゴが床に落ちる。


「1時間が限界か。だが、これでもう無能じゃない」


 1秒しか時を止められなかったゴミスキル。毎回1秒止める度に魔力枯渇で死にそうになる。それも今日まで。あの謎の女、パンドラのことは気になるが、ヨハンはこれから何をしようか画策した。


 ヨハンはその夜、Eランクダンジョンへと向かった。


 ◇


「お! 落ちこぼれFランハンターの登場だぜ」


 Eランクダンジョンの入口にはヨハンのことを執拗に「落ちこぼれ」と揶揄してくるEランクハンターのアキラとその友達のナミがいた。


 アキラは金髪のチャラ男。ナミは金髪長髪の所謂ギャル。


「もうあの男と関わんなよ」


 ナミがアキラにそう告げる。


 ヨハンはその二人を無視してEランクダンジョンへと向かった。それもソロで。


「え、落ちこぼれくん。まさか、一人で行くの?」


 ナミがヨハンの肩を掴み尋ねた。その顔には呆れというより、むしろ心配の方が強い感情としてあった。


「そうだ」

「え、でも、あんたFランクでしょ?」

「それがどうした」

「Eランクダンジョンの適正人数! Eランク以上3人、Fランク7人以上なんだけど!」


 ナミは相当心配のようだった。


「おい、ナミ。何、本気になってんだよ。ただの落ちこぼれ相手に」

「それはそうだけど……」

「俺は一人で行く」

「なら、私たちがついてくから」


 ナミはそれでも引き下がらない。


「ね、アキラ。このままだと、こいつ死んじゃうよ」

「勝手に死ねばいいだろ」


 アキラは呆れてどこかへと去っていった。


「俺は一人でも行くからな」


 ヨハンはナミに告げる。ナミは仕方ないなぁと諦めてパーティー申請をヨハンにしてきた。


『ナミとパーティーを組みますか?』


 ヨハンは「はい」を選んだ。


 ◇


「で、なんで自殺しようとした訳?」

「自殺しようとは思ってない」


 Eランクダンジョンに入るとナミはヨハンにそう聞いた。ヨハンの返答にナミは不信感を抱く。


「でも、Fランクで落ちこぼれのあんたがソロでEランクダンジョンクリアできる訳ないじゃん」

「それは昔の俺の話だろ。今の俺は違う」

「どう違う訳? 早く帰還ゲート潜って帰ろうよ」

「なら君には見せるか」


 そう告げてヨハンは時を止め、ナミの後ろに回る。


「ナミ、見えた?」

「えっ!」


 ナミは戸惑う。急にヨハンが消えて、後ろに現れたからだ。


「止められる時間、1秒じゃ……?」

「今は1時間止められる」

「マジ?」

「大マジだ」


 ナミは固まってしまった。時を止めてないのに。


「待って、それ最強じゃん」

「俺は最強を目指す」

「このこと私にだけ?」

「何が?」

「だから、1時間も時間を止められるの、私にだけ話したの?」

「そうだ」

「そう。ならさ、これから私とパーティー組みましょうよ。私、こう見えてもヒーラーなの」


 そう言ってナミはくるりとひと回転した。スカートがめくれて赤色のパンツが見えた。ヨハンは時を止めて、ナミの元まで向かい、しゃがんでそのパンツを凝視した。


 Tバックかよ、とヨハンは思わず興奮した。だが、手は出さずに時の流れを元に戻した。


「あれ、移動してる」

「ああ、それより、この秘密守れるか?」

「秘密って? 時止めのこと?」

「そうだ。俺の能力は伏せてくれ」

「わかった」

「それと、前から気になってたんだが、アキラとは付き合ってるのか?」

「え? 何、もしかして私に気がある系?」

「まぁ答えてよ」

「アキラは遊び友達でそういうことはしたことないよ。てか、赤ちゃん出来ちゃうようなこと、結婚してからでしょ、ふつーに」


 ギャルの割に貞操観念しっかりしてるのだなぁとヨハンは驚く。だが、つまり、ナミは処女ということである。


「え、したことないの?」


 ヨハンは問いかける。


「え、ないけど、あんたはあるの?」

「いや、ない」

「なら一緒じゃん」

「そうなるね」


 ヨハンはこのまま時を止めて、彼女の処女を奪うことも出来ると考えたが、実行には移さなかった。それはヨハンが純愛を望んでいたからだ。よくある時間停止のAVのようなことはしたくなかった。


「ね、ヨハンさ。私と付き合ってよ」

「えっ」


 ナミはヨハンの元まで歩き、そして突然キスをした。


「あなた、将来絶対に大物になるわ。だからこれは約束のキス。あなた、これ初めてのキスでしょう?」


 ヨハンは応えられなかった。実際にそのキスは特別なものだった。だから忘れられない記憶として残ることになる。だが、ヨハンは既にファーストキスをパンドラという謎の美女としている訳で。


「ダンジョン攻略しないと」


 ヨハンはそう言ってナミから離れ、ダンジョンの奥へと歩き出した。ナミはその様子を「ふふふ」と微笑んで見守っていた。


 ――ダンジョン攻略が始まる。

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