第十章 新しい私

半年後、ナツキは大きな変化を遂げていた。


相変わらず仕事では完璧主義だったが、プライベートでは少しずつ肩の力を抜けるようになっていた。


特に、コウキとのデートでは、計画を立てることもあれば、その場の流れに任せることもあった。


「今日はどこ行きましょうか?」


いつものように待ち合わせ場所で会ったコウキが聞いた。


「実は、今日は計画を立ててないんです」


ナツキは少し恥ずかしそうに言った。


「え?春木さんが?」


「たまには、森下さんみたいに自由に過ごしてみたくて」


コウキは驚いたような、嬉しいような表情をした。


「いいですね!じゃあ、適当に歩いて、面白そうなところがあったら入ってみましょう」


二人は特に目的もなく街を歩いた。途中で見つけた古本屋に入ったり、公園で猫と戯れたり、偶然通りかかった音楽イベントを聞いたり。


「こういうデートも楽しいですね」


ナツキは素直に感想を言った。


「春木さんが変わりましたね」


「変わった?」


「はい。以前はいつも完璧でいようとしてたけど、今は自然体で。でも、それが一番魅力的です」


コウキの言葉に、ナツキは微笑んだ。


「森下さんのおかげです。完璧じゃない私も受け入れてくれたから」


「僕も春木さんのおかげで成長してます。少しは計画性も身につけようと思って、最近はスケジュール帳を使い始めました」


二人は笑い合った。お互いに影響し合って、少しずつ変化していく。それが恋愛の面白さなのかもしれない。


夕方、二人はカフェに入った。コウキがスケッチブックを取り出した。


「春木さん、描かせてもらっていいですか?」


「私を?」


「はい。今の春木さんを描きたくて」


ナツキは少し照れながらも頷いた。コウキの描く絵は、いつも温かくて素敵だから。


「完璧じゃない私でも大丈夫ですか?」


「完璧じゃないからこそ、美しいんです」


コウキはスケッチブックに向かいながら言った。


「完璧な円よりも、少し歪んだ円の方が人間らしくて魅力的でしょう?春木さんも同じです」


ナツキは胸が温かくなった。そうか、完璧じゃなくても美しいものはある。自分もそんな存在になれているのかもしれない。

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