第17話「取引」

『待て,お前,プレイヤーか?』







 …どこでわかった?


『…なんとなく,だ』




 …というか,お前もプレイヤーか。


『…隠していたが,まあな。てかお前,骸骨選択したのかよ』



 奴は半笑いで俺を小馬鹿にしてくる。




 いや,お前だってそうだろ。悪魔も骸骨もそんな変わらないぞ。


『いいや,骸骨はめちゃめちゃ弱い。悪魔は初めからある程度は強いんだ。──ってか,話が逸れたが,プレイヤーなら話が早い。早く撤退させろ。細かいことは後で話し合おう』




 …──まあいい。一応聞くが,お前の他に悪魔はいるか?


『街に一人だけ仲間の悪魔プレイヤーがいるが,この部隊にはいねえ』


 わかった。んじゃ後で。






「…『号令』『中級戦闘指揮』…全員,撤退!」




 ── ◇ ◇ ◇ ──




 俺たちは,悪魔プレイヤーの出現によって一時撤退をすることにした。この撤退は,事前に作戦で決めていたように,北側へ撤退する形だ。


 しかし,突然の対話に加え,そいつが悪魔であり,しかもプレイヤーだと言う怒涛の展開に疲労を感じる。特に初めの不快感のようなもの。あれにすごく体力を奪われた。




 まあ,それはさておき。元々の話では何度も撤退を繰り返し,北に拠点があると誤認させるつもりだったが,人間側に裏切り者の悪魔がいるなら都合がいい。

 あいつに誤情報を伝えさせることで,何度も繰り返さなくても良くなったかもしれないしな。




 しかも,俺の夢である「大金を稼ぐ」という目標が,人間に紛れ込むあの悪魔と協力できれば実現可能になるやもしれない。

 俺の無限の労働力と戦力,そしてあいつの人間社会での立場を上手く使えば──。




「──主。さっき変な感じだったけど,大丈夫なのか?」


 俺の思考に割り込む形で,コクロが心配をしてくれる。


「…ああ,大丈夫だ。意図を伝える魔法みたいなのを人間というか悪魔からされてな。多分その影響だと思う」

「…?」

「ふーん」



 その会話を聞いていたカカラが色々と聞きたげな表情をする。


「まあ,もう少し待ってろ。もうすぐあいつが来るはずだから」




 ── ◇ ◇ ◇ ──




 それから数分後。

 せかせかとした様子で,カカラの偵察兵とともに例の騎士──悪魔のロアとその仲間の騎士二人がやってきた。


「あいつが悪魔か。めちゃめちゃ強かったあの騎士だよな」


 コクロが感想を溢す。


「अरे, देर हो गई न」

「…? すまん,さっきのアレをやってくれ」

「क्या?」


 奴が意味のわからない言語で話す。この世界,こういうところが謎に現実志向なせいで,国や種族が違うだけで言語が通じない。

 世界観は好きだが,少し不便だ。




 ***──*。


 脳にノイズが走る。例のアレだな。だが今回は不快感がない。




『すまんすまん。そうか,言葉がわかんねえんだもんな』

「ん,理解できるようになった。これはお前のスキルか?」

『そうだ。『念話』ってやつだ。──まあそれは置いといて──あの人間どもは今,被害の確認と怪我の治療をしてる。俺は偵察してくるっていう名目でここにきてるから,そこまで時間がねえ。話はさっさと終わらせるつもりだが,大丈夫か』


 急いでいそうな雰囲気だったのはこれが理由か。


「当然,大丈夫だ。だが,その二人の騎士は大丈夫なのか? 俺と取引してるところを見られたらまずいんじゃないか」

『いや,大丈夫だ。こいつらは俺が洗脳してるから,傀儡かいらいみたいな感じなんだよ』

「なるほどな,ならいいか」

『おう。それじゃあこれからのことについてだが──』




 俺たちはまず,彼ら人間が俺の正体を突き止めるために来ていることを教えてもらった。まあこれは事前に掲示板でも言われていたことなので,既知の情報だ。


 他にも,俺が魔神の使徒と考えられている理由,そして使徒だった場合は侯爵が確実に討伐に来ることなども教えてもらった。


「なるほど。それなら,中途半端に勝っちゃうと殺されうるのか」

『そうだ。まあお前はプレイヤーだからいいだろうけど,お前の仲間の骸骨は違うんだろ? その,召喚能力でやったんなら,死なせない方がいいはずだ』

「うん,その通りだ」




 ロアは,『ならば』と言ってから少し言い淀む。が,意を決したように続ける。


『妙案がある。お前,一旦死んでみないか?』

「…」

『いや,別に敵対したいとか,そういうんじゃない。お前は死んでいいんだから,死んだ姿をみんなに見せるんだよ。そうすれば,確実にお前への警戒は解かれる』

「…一理いちりある,かもしれない」


 死亡によるデメリットは,永久的なステータス低下しかない。あとは,アイテムを死体から盗まれることもあるが,それはまあ些事だろう。

 逆に,俺の仲間達──コクロ,カカラ,ガロガにジャランらは,一回死んだら復活しない。それは他の骸骨達も同じだ。


 侯爵に目をつけられて骸骨が全滅するよりかは,俺だけが死ぬこちらの方が合理的で良い選択に思える。




『プレイヤーなのを知られてない今だから使える手だが,実現可能性はかなり高い。それにこっちには最強格の一撃必殺プレイヤーがいる。俺が偽情報──つまり,骸骨軍が油断していることを発見したと伝え,さらにそのアーサーっていう超強いスキル持ったやつに殺させれば…』

「…確かに妙案,いや,かなりいい案だと思う。し,成功する確率も高そうだ。でも──」


 俺は続ける。


「なぜ俺のためにそんなことを?」


 ロアは首を横に振って,同時にニヤりと笑った。


『それはさっきも言ったが,お前の力を借りたいんだよ』

「俺の力を借りたい?」

『そうだ。元々はお前を洗脳して俺のものにする予定だったんだが,事前情報よりもお前が強くてな。それに洗脳も効かなかったもんで取引を持ちかけたってことよ』




 俺はなるほどと頷く。そして先ほどの戦闘で感じた,謎の不快感のようなものが洗脳魔術によるものだったことを知って納得した。


「…力を貸すってのは具体的に何をすればいい?」

『…本当は俺が昇進するための道具として使おうと思ってたんだが,お前が──てか名前はなんだ?』

「カインだ」

『そうか,カイン。カインがもっと協力してくれるっていうんなら,俺の悪魔仲間のベリアルと手を組んで,街を裏から支配するっていうのもありかもしれない』

「…」






 俺はここ三週間ほど,ずっとソロプレイをしてきたからこれからもそうするもんだと勝手に思っていたが,手を組めるならそうするのもありかもしれない。

 それこそ,俺の──いや,に近づくために,経済に食い込む選択は魅力的だ。




 だが──


「お前が裏切る可能性は?」

『…それは,契約すればいい。悪魔の契約は,基本的に魂を縛るから破棄できない』


 …どうやら,嘘をついている雰囲気はなさそうだ。


 それに,よくよく考えてみれば俺だけでなくやつにも利益がある。それなら,わざわざ裏切りを心配するものでもないかもしれない。


「…そうか。なら,協力しよう」

『本当か! それは嬉しい。じゃあ,ひとまずは目の前の問題から解決だな。ここからの具体的な流れだが──』




 俺とロアは,どのようにして人間たちを騙すかなどを詳しく決めた。数分後,ロアは満足そうにして,『じゃ,急いで準備しろよ〜』と言って帰っていった。




 ── ◇ ◇ ◇ ──




「…えと,主様。結局どうなったのです?」


 そう溢したのは,カカラだ。

 先ほどの会話では,ロアが念話で話し,俺が独り言を返すようにして意思疎通をしていたので,彼らは側から聞いてたら何も理解できない。




 俺は時間も押しているので足早に作戦を伝えた。

 すると──


「──は? 主様はこれから死なれるのですか!? だめです,だめです!」

「エ,主サマ死ヌ?」


(ジャラジャラ)(ポコポコ)(バタバタ)


 いつも冷静なカカラが,珍しく気を動転させる。

 周りにいた骸骨達も,それにつられて必死の抗議をしてくる。


「いや,大丈夫なんだよ,俺は復活するから──」

「そんな,信じられません!」

「いや,ええとね,落ち着いてくれ!」

「──!」




 俺はその後,限られた大事な時間を消費して,彼らに事情を説明する羽目になった。

 しかし,俺は同時に──少し,ほんのちょっとだけ,幸せを感じた。







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