第10話「侵攻2」

「わお」


 中央付近の建物が燃えに燃えまくってる。大規模な魔法を使える奴が人間の中にいるんだろうな。


 だが,怖がっていたら行動できない。俺は仲間に指示をする。


「『中級戦闘指揮』,『号令』,このまま攻めろ! 皆殺しだ!」



 俺は右手に魔力を集め,『炎槍』の準備をする。

 良いところで俺がこれを放って,人間や強い小鬼を少しでも殺したいところだ。




「ゴリャアガアア!」「ゴギャガヤアア!」


 前線で戦闘が始まる。今のところは問題なく敵を殺せているようだ。

 こちらの被害も少ない。


 今の戦況の確認だが,西から俺たち骸骨が攻めていて,東から人間が攻めて来ている。

 その間に小鬼達が挟まれている感じだ。だが,前からも後ろからも攻められていることで,彼らの指揮系統は機能していない。

 そのおかげで,俺たちはほぼ無抵抗の敵を殺し続けることに成功している。


「…今のところは順調だが,油断はできないな」


 人間の強さが未知数であること,そしてデカ小鬼がいることが気がかりだ。ここから奴の姿が見えないことから,多分,反対側で人間達の対処のためにでているんだろうけどな。


 …あと,徹夜の影響か,集中力が足りない。気を抜くとぼうっとしてしまいそうだ。



「おっと,隙があるな。『炎槍』!」


 炎で形作られた大きな槍が,勢いよく小鬼目がけて飛んでいく。


「…!!」


 武器を持った小鬼の上半身めがけて放った槍は,小鬼の腹を突き破り,地面に突き刺さって分解される。黒焦げになった頭と下半身だけになった小鬼が,地面に転がった。


「わーお。初めて使ってみたけど,めっちゃ威力高いな。あとかなりグロい」


 少し使うのを躊躇する威力だったが,これならデカ小鬼も倒せそうだと安心する。


 消費魔力は12か。あんまり多用できる感じじゃないな。


「次は『火矢』を使ってみるか。…『火矢』!」


 今度はガロガと戦っていた小鬼めがけて放つ。先ほどの炎槍よりも細い火の矢だったが,その分まっすぐに,そしてすごいスピードで小鬼へと突き刺さる。


「──ッ! …」


 先ほどのように小鬼を黒焦げにするほどの威力はなかったが,心臓あたりに穴を開けるくらいの感じだ。この辺の魔物相手にするなら,このくらいで問題なさそうだな。消費魔力も4か。これなら『火矢』の方が良さそうだ。




 前線に目をやると,ガロガがこちらを振り返り,手を振っているのが見えた。

 ナイスとでも言っているような感じだな。


「『号令』…ガロガ! あんまり油断するなよ!」


 俺の命令でガロガが前を向き直す。可愛らしい一面のあるあいつだが,ああいう油断が命取りになるかもしれない。一応釘を刺しておく。




 そんなこんなで敵を減らし続けて5分が経つ頃,改めて戦場全体を見てみると,戦うのを諦め,逃げ惑う小鬼の姿が多いことに気が付く。しかし彼らは西,南,東を囲まれてしまっているので,北へ逃げていくものが大半のようだ。


 そして,その先に見えたのが,人間──冒険者風の格好の者たちだ。見える限りで10人いないくらいだろうか? そしてそれと相対するのがデカ小鬼。

 しかし見た感じ,もう決着がつきそうな感じだな。デカ小鬼がボコボコにされちまってるみたいだ。


「よし,コクロ。俺たちも前に出るぞ。俺は『隠密』と『黒煙』で姿を消して人間に近づくから,小鬼を倒して油断しているところをお前たちは襲ってくれ」

「了解ダ」

「カカラは俺について来い。目立たないようにしろよ」

「了解シマシタ」


 俺は『隠密』を発動させ,火で燃えている建物の近くに『黒煙』を少しずつだけ発動させる。こうすることで俺の周りの黒煙を目立たなくさせて,バレずに近づけるようになるはずだ。




 建物と火の間をすり抜けるようにして,人間に近づく。もう声も聞こえる距離までは近づけたな。


「जल्द ही इसे हरा सकते हैं। मैं करूँगा!」


 …ああ,ああ? 俺は人間の言葉も理解できないのか。これは…。

 俺が困惑していると,謎の言語を発した男の剣が雷を帯びる。


 デカ小鬼はそれに対して警戒を示すように,下段に構えるが──


「अर्याऽ!!」


 男の姿がブレて,身体が雷のように光る。すると刹那の後,雷がデカ小鬼の方向に飛んでいって,通り過ぎたかと思えば,奴を一閃して横に両断した。


「…わぁお」


 思わず声がこぼれてしまう。

 男はその技の反動でか,膝と片手を地面につけ,肩で息をしている。


 …今やらないと危ないかもな。


「…『炎槍』×3」


 俺はすぐさま炎槍を三つ発動させ,その全てを男に向かって放った。もう少しで奴に突き刺さるというところで──


「आर्थर! मैं बचाऊँगा!!」


 体の大きな男が炎槍と雷男の間に入る。本体は雷男に突き刺さるはずだったそれが,大男の腹に突き刺さってしまう。


「くそ,ミスったか。だがあいつは死んだな。もう一発──ッッ!!!」


 俺がもう一度炎槍を放とうと準備をしたら,炎の塊がこちらに勢いよく飛んでくる。

 近くにいたカカラが俺の横っ腹から俺にぶつかって来て,そのままの勢いで俺とカカラは地面に転がる。

 一瞬の後,俺がいた場所で爆発が起こる。


「तुम बिल्कुल नहीं बच पाओगे!!」


 遠くで女性の悔しがるような声が聞こえてくる。


「あっぶね!! カカラナイスだ,一旦引くぞ!」

「急イデ撤退シマショウ!」

「ああ! 『黒煙』!!」


 俺はあたりに黒煙を撒き散らし,まずは生き残ることを優先する。


「『中級戦闘指揮』,コクロ!! こっちにくるな,引け!!」


 コクロがこっちに向かって来ていることを思い出し,引かせる。あの魔術の餌食になったら,俺たち骸骨ではひとたまりもない。


 俺は再び右手に魔力を集め,『炎槍』を唱え,奴ら人間に向けて放つ。これで一瞬だけでも時間稼ぎができるはずだ。


「『号令』! 全員,撤退! 全員,撤退!」


 俺はカカラとともに走りながら,号令で撤退を命令した。


「カカラ,俺よりも先に行け。みんなが無事撤退できるように補助してやってくれ」

「──了解シマシタ」


 俺は『黒煙』のおかげで人間が追って来ていないことを確認し,カカラに命令する。

 その後,南から大回りして,弧を描くように自陣へ戻った俺は,コクロやガロガ達とも合流し,そのまま全力で撤退を始めた。


 ──が,しかし,人間の魔法がこちらに飛んできていることに気が付く。


「『号令』,伏せろ!!!」


 俺たち骸骨軍の中央,大爆発が巻き起こる。




「तुम लोग यह तो नहीं सोच रहे हो न कि भाग जाओगे? मैं तुम सबको ख़त्म कर दूँगी!!」


 ──魔術師の女が鬼の形相でこちらに歩いて来ているのが見えた。





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