第3話

推し始めて数年、推しは地下アイドルグループから卒業した。

2ヶ月ほどSNSの更新もなく、このまま終わってしまうのかな、と思っていたある日、SNSの通知が鳴った。

2ヶ月ぶりの推しの更新に心を躍らせながら開くと、大手アイドル育成会社の社長にスカウトされ、ソロデビューするというお知らせだった。

私は帰りの電車の中、小さくガッツポーズし顔が緩みきらないようにするのでいっぱいなほど幸せな気持ちでたまらなかった。


お知らせから数ヶ月、シングルの発売と共に握手会が行われた。そこで久しぶりに再会した推しは生き生きとして、あの頃と変わらない輝きを放っていた。ソロとして人気が出る前から3ヶ月に1回のペースで行われていた握手会。

だんだんと人気が出始め、1ヶ月に1回の定期的なものに代わり、1ヶ月開催になってから3回目の握手会。とは言いつつまだまだ倍率が低く、毎回来ている人はほぼ同じでファン同士でも交流があり、すぐにいつもの集団で固まって談笑していた。握手会と共にファンのオフ会としても使われているこの場所が1年でこんなに人気になるなんて、同じ年数を推してきた誰も予想できなかった。

私は地下アイドル時代から1回も欠かさず並んでいる。

「当日券2枚お願いします」前売りと合わせて3回並べるようにチケットを買い、周りにいる人に軽く挨拶をしつつだいたい3周並んでも前に人がいるよう、中間になれるよう並ぶ。会場の雰囲気や推しに会えるというふわふわとした熱気を前後で感じられるのが好きだった。

後ろには顔見知りの人が並んでいて、「今回も楽しみですね~」と声をかけられ「ですね、毎回少しずつ人が増えてて嬉しいような、寂しいような……」と返すと「人気が出てたくさん会えるのは嬉しいんですけどね〜」と軽く会話をしてから、ふと前を見ると見たことのない人が並んでおり、酷く緊張しているように見えた。

私は初めての人なのかな? と思い、初めて並んだ時は話しかけられても、怖くてまともに話せなかったこと、何を話すか考えるのにいっぱいいっぱいで周りなんて見えていなかったことを思い出し、あえて声をかけなかった。


しかし私は後悔することになる。

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