第2章【王都アレキサンダー編】

第20話 王都アレキサンダー

 「これは圧巻だな。」


 俺が今見ているものは現実だろうか。そもそも異世界に来た時点で、現実なのか非現実なのかを判別するのは困難であろうが、少なくとも現実世界には存在しない景色を目の当たりにしている。

 白亜の塔がいくつも固まって天に向かって伸び、巨大な城を形作っている。いわゆるゴシック建築風だ。遠目でもわかるその最大の高さは、現代のスカイツリーよりもやや高いくらいか。いくつかの屋根の先端から小さな旗がはためいている。

 その巨大な城を発端とし、円状に城下町が形成されている。その広さは、目算20km以上。街並みは、大小様々な建物で城と同様にゴシック風で一体感がある。その城下町が壁で覆われていないのは、周囲が湖に囲まれ、そこからさらに山々に守られているからだろうか。天然の防壁のようになっている。そして、城下町から複数の橋が湖上に設けられ、対岸へと移動できるようになっているようだ。

 これほど広大な都市だ。必ず転生薬に関する情報はあるはずだ。骨が折れそうなのも事実ではあるが。


 「私、白狼の森も広くて美しい場所と思ってましたが、外の世界にもこんな場所があったんですね。」


 ティルも俺と同様、この景観に圧倒されているようだった。

 ここまでの道のりは、イエローチョコボで移動できたのは良かったものの、楽な道のりではなかった。

 まず、モンスターとの遭遇が多かった。今までが極端に少なかったせいもあって、余計に感じたのかもしれないが、多くは小型の雑魚モンスターだった。と上から言ってはいるが、戦ったのはティルだ。俺の後方支援も特に必要としないくらいだった。戦闘の中、プラントマザー戦では詳細がわからなかったのだが、ティルの固有アビリティについてある程度理解することができた。

 当初、ティル曰く、『孤高の狼』のアビリティを使用すると力とスピードがみなぎってくるらしい。それはステータスを見ると判明したのだが、ティルの言うように『攻撃力』と『素早さ』が1.5倍に上昇していた。しかし、永続的なものではなく時間制限があるもので、かつSPの消費量も1.5倍になるようだ。諸刃の剣とまではいかないが、使うタイミングには少し注意が必要だ。

 それでも道中の雑魚モンスターを倒すには問題なかった。ティルにはいくつかスキルがあり、プラントマザー戦で見せた、突き攻撃『ウルフアタック』、上から下へ振りかざす攻撃『ウルフクロー』、下から振り上げすぐさま下に振りかざす攻撃『ウルフバイト』だ。白狼族の基本スキルらしい。

 一方俺はというと、道中にいろんな収穫があった。まずは新しい薬を4つ作製することができた。

 

 薬草:スキル草→『名称:テクニション 効果:SPを小回復する』

 薬草:ハヤブサ草→『名称:ハヤブサ薬 効果:素早さが20%上昇する』

 薬草:ヨロイ草→『名称:ヨロイ薬 効果:防御力が10%上昇する』

 薬草:コブシ草→『名称:コブシ薬 効果:攻撃力が10%上昇する』


 ポーション、キツケ薬、毒消し、マヒナオシを含めて8つの薬を所持しているわけだが、バッグやマントが重く感じてきた。これ以上は旅に支障が出る。アイテムボックスでもあればいいんだがな・・・

 

 「ユウスイ様、王都に着いたらどうしますか?」

 「とりあえずは情報収集だな。骨が折れそうだが。」

 「手分けしますか?」

 「いや、ティル単独で動くのは色んな意味で危険だ。効率は悪いが一緒に行動しよう。」

 「はい!」


 俺たちは再び王都へと歩き出した。

 

 『アレキサンダー』、それがこの王都の名前だ。アレキサンダーへと繋がる長い石橋には多くの人々が往来している。多くは冒険者らしき旅人や商人だ。この王都で生計を立てているのだろう。甲冑を身に纏った衛兵も随所に配置され、守りは堅牢のようだ。

 俺たちはイエローバードを降りて、手綱を引きながら石橋を渡っていく。王都へ入る大きな門に近づくと、長い列が形成されていた。どうやら初めて入る人はここで検問を受けるようだ。


 「随分と人がいますね。」

 「大きな街だ。職や品を求めて多くの人がやってくるに違いない。」

 「私たちみたいな人ってことですか?」

 「そういうことだな。まぁ俺たちは情報を求めて、だがな。」


 列が徐々に進んでいくとわかったが、全員が全員入れるわけではないようだ。項垂れながら門を引き返す人間が何人かいる。何か基準があるのだろうか。

 俺たちの番になり、衛兵二人は俺たちを品定めするかのように見てきた。


 「えーと、何かギルドカードはありますか?」

 

 衛兵は気だるそうに口を開く。

 

 「ギルドカード?」

 「冒険者ギルドでも、商人ギルドでもなんでもいいから。」

 「持ってないです。」

 「無所属ね。そっちの獣人は?お前の奴隷か?」


 当然のように決めつけてくる態度に苛立ちを感じたが、ここはグッと堪えた。


 「そうです。」

 「珍しいな。見たことない。種族は?」

 「狐族です。」


 実はここの口裏合わせは旅の道中でティルと決めていた。アルバートが言っていたように、白狼族は外の世界にとってはかなり珍しい種族だ。見る人間が見れば、その希少性からティルを狙ってくる可能性がある。それが王都なら尚更だった。ということで、外見的にも似ていることからティルは狐族という設定になった。

 

 「狐族?白い狐族なんて見たことないぞ?」

 「俺の意向です。わざと脱色してるんです。」


 もちろんこれもそういう設定だ。俺が特殊な性癖があるように見られるのは少し癪だったが仕方ない。


 「ほう、面白いなお前。」

 「どうも。」


 どういう意味の面白いという発言かは、衛兵の顔を見ればわかる。だから嫌だったのに。


 「それで、どういう目的で王都に?」

 「冒険者なので、職を探して。」

 

 これはアドリブだ。話の流れ的に自然になる理由を考えた結果だ。


 「そうか。それなら通行料で金貨4枚だ。」

 「よ、4枚!?そんなに?」

 「ギルド未入会でギルド入会希望者は金貨1枚、奴隷は金貨3枚の通行料だ。王都のギルドに入っていれば行き来は自由になるがな。」


 なるほど、この通行料が王都に入れるか否かのラインになっているのだろう。それにしても、俺たちにとっても金貨4枚は大きな出費だ。金貨はイエローバードを借りる際に2枚支払って5枚に、ここで払ったら1枚になってしまう。だいぶ心許ない。


 「いや、ギルドに入るつもりはなくて、ただ職を探しているだけです。」

 「職を手に入れるには必ずどこかのギルドに入らにゃ行かんだろう。」


 そういうルールということか。だとしたらアドリブのチョイスを間違えたか。でもいずれにしろ、ティルの金貨3枚は変わりはなさそうだ。背に腹は変えられない。


 「わかりました。払います。」


 金貨4枚を衛兵に手渡した。


 「確かに。それじゃ頑張りたまえ。」


 衛兵から通行証を取得し、俺たちは外へ出た。


 「ユウスイ様すみません。私がいるばっかりに余計なお金を。」

 「いや、仕方ないさ。ギルドという存在も俺も予想していなかった。この際だ、どこかしらのギルドに入ってお金も稼ぐことを考えよう。」


 預けていたイエローバードを受け取って、俺たちはついに王都アレキサンダーへと入ることができた。


 

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