第10話 旅仕度
翌朝、俺は旅に出るために身支度を整えることにした。といっても、旅なんてしたこともないから、何が必要なのかも分からない。そこで、ティルにもついてきてもらって、助言をもらうことにした。
まずは装備なのだが、そもそも俺は戦闘職ではないため、前衛は全てティルに任せる。俺は武器としては心許ないが、護身のためナイフくらいは所持しておくことにした。今後、薬草採取にも使えるだろう。
防具については、戦えないのなら完全鎧で身を纏って、守りを徹する、という案もあったのだが、移動が難しくなるし、いざ逃げるとなったら邪魔になる。ティルの提案で、ティルが身につけているような胸当てと、革製の上下の軽装備を選んで、動きやすさを重視した。
お店を物色していると、ふと緑色の大きなマントに目が入った。軽くて丈夫でかつ、内側に複数のポケットがあって、物が入れられるようになっている。薬師としてこの機能性はかなり魅力的だ。おそらく今後作れる薬の種類が増える。俺がティルにできることは、回復役としてのサポートだ。そうなると複数の薬を所持して、いつでも使えるようにしておく必要がある。それにうってつけなのだ。
一通り装備が整って自分の姿を見ると、なんだかそれっぽくなって少しワクワクした。ちなみに全てティルが物々交換で手に入れてくれた。いつか返さないとな。
一番興奮したのは道具屋だ。薬を保管できそうな小瓶に、調合に一緒に使えそうな素材がたくさんあった。素材を鑑別していくと、自然と経験値が溜まって、いつの間にか2から5にレベルが上がっていた。
素材の中には薬草もあった。ティル曰く、昔から白狼族の里で栽培されている薬草で、白狼族の間では
鑑別スキルを使うと
『名称:キツケソウ 効能:忍耐が一時的に上昇する』
と表示された。忍耐とは、と思ったがステータスを開くと、新しく『忍耐』という項目ができていた。どうやら今のステータス表示は完全ではなく、関係のあるワードを認識するとそれが表示されるようになるらしい。忍耐は、持久力を示す数値で、これが減ってくると動きが鈍くなったりするようだ。あながち白狼族が、疲れが取れる、と言っているのは間違いない。
ちなみにこのステータス、俺にしか見えていないようで、それも『エンシェント・マスターアビリティ』の影響かもしれないと、バルトウィルは言っていた。
『キツケソウ』含め、いくつかの道具を買って店を後にすると、時刻は昼くらいになっており、お腹も空いてきた。
ティルに連れられて入った店は、例えるならケバブのような料理がメインの店で、小麦粉の生地ようなものに肉や野菜がたっぷり詰まっている。名前はゲバフというらしく、昨日のビーラといい、何か惜しい。でも名前が近いから、親近感も湧いて個人的に助かる。
それにしても、まるでデートではないか?こんなに若い娘と買い物をして、あーでもないこーでもないと喋りながら過ごす時間は、すごく久しぶりだ。いや、今の俺はティルと同じくらいの年齢という設定だ。あまり自分は自分のことをおっさんとも思ってないし、それなりに若作りもしている。が、精神年齢は35歳だ。
ティルも終始楽しそうで、なんだか背徳感を感じているのだが、これは旅を始めるのに必要な作業でもあるから仕方がないことだ。と、言い聞かせて納得させる。
「あとは何か欲しいものあります?」
手を後ろで組み、数歩先を歩くティルが振り返りながら尋ねてくる。
「俺はもう十分だ。ティルはどうなんだ?」
「んー、そうですねー。強いて言えば剣が刃こぼれしているので、新しい剣が欲しいくらいですかね。」
「じゃあ、行ってみようか。」
「そんな、私の買い物なので私一人で行きますよ。」
両手を顔の前で大きく振って申し訳なさそうにする。
「いや、一緒に旅をするんだ。他人事じゃいられないさ。」
「それでしたら・・・ありがとうございます。」
ニコッとはにかむ表情には毎回ドキッとする。
先ほどとは違う武器屋に着いた。ここは武器の販売と鍛冶屋もやっている。店内に入ると長剣や槍など大型の武器が揃っていた。ティルはまっすぐに店主の方へと向かい、刃こぼれがあると言っていた剣を机に差し出した。
「おや、ティル様、新しい剣かい?」
「えぇ、この剣と交換いただきたいのですが・・・」
店主が剣を抜くと刃先をじっくりと観察する。少し眉間に皺を寄せながら、んーと唸っている。
「ティル様、なかなか激しい戦い続きだったのではないですか?剣もだいぶ傷んでます。」
「はい。手入れはしていたのですが、それ以上に摩耗が激しくて・・・」
「んー、質はいいのですが、このこぼれ具合からすると・・・」
カウンターから出て、店内に多く並んでいる武器から一振りの剣を持ってきた。
ティルはそれを抜いたが、あまりしっくりきていない様子だ。
「うーん、少し大きいですね。重さも・・・もう少し軽いのはないですか?」
「あるにはあるが、ティル様の摩耗スピードからすると耐久力が心配だ。」
「打ち直すのはどうです?」
「これに見合う素材が今はないなぁ。集めればできるが、少し時間がかかる。」
「そうですか・・・」
残念そうに俯くティルは見るに耐えない。俺は辺りを見渡すと、ガラスケースに入った銀色に輝く一本の細長い剣を見つけた。
「あの、これはなんですか?」
俺の質問に店主が、あぁ、といった具合に近づいてきた。
「これは『シルバーレイピア』だ。うちで一番価値のある剣なんだ。ってあんたティル様の恩人様か。」
「まぁ、えぇ。それで、どうやって手に入れたんです?」
「んー、いやーそれが俺にもわからんくてな、この里の鍛治士が作った訳でもないみたいなんだ。親父の代からあって、それきりずっとここに。」
「誰も買わないのですか?」
「正直、白狼族にとっては細すぎる。もう少し太くて重い方が好まれる。だから売れ残ってるんだろうなぁ。」
ふーんと密かにステータスを覗いてみると、店主の言うように、圧倒的に価値の高い武器であることは確かだ。素材がプラチナとなっているあたり、他の鉄製の剣とは耐久力が段違いだ。おまけに攻撃力も抜群に高い。こんなところにあるのは、まさに宝の持ち腐れだろう。
「ティル、これ新しい武器にどうなんだ?」
「え?うーん、この手の武器は扱ったことないですが、長さと・・・重さもピッタリではありますね。」
ケースから手に取ると、その様は悪くない。むしろこっちの方が、ティルのすらっとした体型にも似合っている。
「これと交換はできないのか?」
店主は半笑いで困ったように答える。
「流石に価値が違いすぎるね。いくらティル様の恩人様といえど無償で与えることはできんしなぁ。」
「価値か。」
この里での物々交換は、その人にとっての価値で判断される。統一がされているわけではないので、人によってはお得に交換できれば、損をする場合もある。要はその人にとって、価値が高いものを提供すれば何も文句はないわけだ。
「親父さん、鍛治士もやってるんですよね?」
「あぁ。」
「一回鉄を溶かして打ち直すとなるとなかなか体力を消費するのでは?」
「まぁそうだな。」
「疲れたら針金草を食べてを繰り返してるのでは?」
「そうでもしないと打ち続けられないしなぁ。」
隣で黙って聞いていたティルも勘づいたらしい。
「ユウスイ様!もしかして・・・」
しっと人差し指を唇に当て、俺に任せろと合図を送る。
「親父さん、ちょっと裏に行ってくれないか?」
「んぁ?いいけど、まさか盗むんじゃないだろうな?」
「まさか!まぁ本当に少しだけだから。」
渋々と裏へ入っていく店主を見届けてから、準備を進める。
「ユウスイ様、いいんでしょうか?お父様も言ってましたし・・・」
昨日の夜、屋敷を後にする際に、バルトウィルに忠告されたことがある。
「ユウスイ様、この力についてはこの里においては私とティルだけの秘密にしておいてください。この力は失われた力、他の者が知ったら間違いなく欲しがるでしょう。そしてそれは、外界においても同じです。あなたを狙い、利用しようと近づいてくる者が必ず現れます。あなたの旅が少しでも良いものであるように、その力を不必要に見せず、使わないようにすることです。」
それは俺も危惧していたところだった。この能力でどこかの国の陰謀に巻き込まれたら元も子もない。慎重に扱わなくては。
「大丈夫。」
そして加え、俺がここまで自信満々でいるのには理由がある。
実は昨日、部屋に戻った後に実験をしてみた。『カイフクソウ』をそのまま食べるのと、調合した『ポーション』どちらが効果がいいのか。
ティルに手伝ってもらって飲み比べをしてもらった。まず、どちらも使うと水色に発光するが、ポーションの方が発光が濃かった。そして回復量、これはHPをよく見るとわかったのだが、たとえ満タンでも、回復量は表示される。『カイフクソウ』は50回復するのに対して、ポーションは100、なんと2倍も違ったのだ。
これが全てに適応されるとは限らないと思うが、調合により明らかに効果が上がる。きつけ薬においても同様と信じている。
先ほどの道具屋で購入した小瓶を準備して、『キツケソウ』を選択。調合スキルを発動すると、薄い黄色に発光し、黄色い液体が小瓶を満たした。
『名称:きつけ薬 効果:対象の忍耐を20%上昇させる』
「よし、できたぞ。」
ティルと目を合わせて無言で頷き合う。
それにしてもこれはいい。思ったよりも効果が上昇している。この効果と希少性なら・・・
「親父さん!もう来ていいですよ!」
「なんだ随分と早いな。」
奥から戻ってくると、俺の目の前までやってくる。
「親父さん、これと交換してくれないでしょうか?」
きつけ薬を差し出すと、無言で受け取り、ライトに透かすなど品定めを始めた。
「これはなんだ?」
「これは、針金草をすり潰して、私が魔法で少し効果を高めたものです。」
「針金草を?こんな色になるのか?」
怪しそうに覗き込む店主を見ると、鼓動が早まる。
「うーん、これとシルバーレイピアと価値が見合うと?」
「えぇ。飲んでみればわかるかと。」
店主は恐る恐る、きつけ薬を口につけ、液体を喉に通す。体はうっすら黄色に発光し、ステータスを見ると、忍耐が100から120に上昇した。
「な、なんだこれは。力がみなぎってくるぞ。いつもの針金草とは全然違う・・・一体どんな魔法をかけたんだ。」
「親父さん、それは内緒です。とにかく、この効果実感してくれたでしょう。俺のこの力を誰にも言いふらさないと約束してくれるなら、10個ほど作ってお渡ししますよ?」
悩んだのも一瞬、すぐに両拳を胸の辺りでぶつけて勢いよく言い放った。
「よし!交換成立だ!持っていきな!」
約束通り、きつけ薬を10個作って、シルバーレイピアと交換した。
受け取ったティルは目を輝かせて、何度もその剣身を見る。夕日に照らされると、より一層の輝きを放っている。それを持つティルも、さながらモデルのように優美である。
「ユウスイ様ありがとうございます。私のためにこんないいものを。」
「俺もこの装備やら道具はティルに任せっぱなしだったからね、これくらいやらせてよ。」
「この御恩は必ず・・・!」
「もういいって笑」
嬉しそうに大事にレイピアを抱き寄せる。
「それにしても大丈夫でしょうか?本当に他の人に言いふらさないでしょうか?」
「大丈夫だろ。親父さんからしてみれば、この薬を独占したいほど希少なはずさ。そう簡単に言いふらしはしない。
「だといいですが・・・今後このようなことが増えるでしょうか?」
「そうならないように気を付ける。」
茜色の帰り道、希望を胸を膨らます傍ら、少しの不安を心に抱き、明日、可能性の冒険へと出立する。
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