グランドシエル -蒼空を翔ける旅団-

麒麟

Prologue

空で生活することなど、当たり前のことであった。

これは祝福なのかはたまた呪いなのか——誰にもわからない。


この世界には、大地と空と海がある。

だが、それらは常識の範疇はんちゅうに収まるものではない。


例えば、空にはつねことわりでは説明すらはばかられるほどの渦が巻き、眼下には果てしない雲海が広がり、島々が空に浮かんでいる。

陸や海もまた異形いぎょう異常いじょうに満ちているが、語り尽くすにはあまりに深く、広すぎる。


ただ一つだけ確かなことがある。

この世界のあるゆる場所には——竜や魔獣と呼ばれる存在が、跋扈ばっこしているということだ。


それでも人々はそこに暮らし、狩りをし、耕し、笑い、そして祈る。

だが、空だけでは生きていけず、陸も海もまた同じだ。

燃料も、武具も、食料も——それぞれが交わり、繋がることでようやく人々の暮らしが成り立っている。


それが今この世界の“かたち”である。


この世界で、空へ生きる者たちの物語を、ここに記していこうと思う。


……その前に、どうしても皆に伝えておきたいことがある。


権威と秩序を守る〈騎士団〉。

空では〈誓翼騎団〉、陸では〈狗兵団〉、海では〈海衛隊〉

——そう人々は呼ぶ。

自由を掲げ、空を生きる〈旅団〉。

報酬のために剣を振るう〈傭兵団〉。

そして、まだ見ぬ遺跡と千載一遇を求め、空を彷徨う〈冒険者たち〉。


この世界では、目的を持って生きる者たちを、そう呼ぶのだ。


空にも大地に大陸があるように、海に洋があるように、人々は空の境界を〈空域〉と名付けた。


そして——空域もまた、静寂とは無縁である。


風は牙を剝き、空賊が航路を狙い、空の竜が、獣が島影に巣食う。


そして今日もまた———

霧の彼方から、空をかける船が姿を現し、一つの物語が始まりを告げる。


これは、数ある空域のひとつ———アエリオス空域に生きる、ある旅団。

『セレストエクリプス空艇旅団』が紡ぐ、空の物語である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る