第捌話 「闇の時間と光の時間」


 我々は、遭難船の捜索に来ていた。

 この宙域は遭難注意域として広く注意喚起がなされていたが、この船もご多分に漏れず遭難してしまったようだ。

 現在、隊員総出で生存者の捜索をしているが、絶望的と言っても良いだろ。

 なぜなら、完全にエンジンが停止し、船体動力が落ちていたのだ。


 捜索を続けながら、もう一つしなければならないのは、船体回収と原因の究明である。

 だが、十中八九この宙域における次元パラドックスの問題だろう。つまり次元の矛盾が引き起こすエンジントラブルに他ならないからである。良くあるトラブルである。


「隊長!生存者はいませんでした。コールドスリープも全滅です。」

「そうか。やはりな。奇跡を信じたが、無理だったか。」

「はい。残念ながら。」

 隊長の私はカスケットの使用を指示した。このままコールドスリープに入れたままであれば、遺体の腐敗が進んでしまう可能性があるためだ。

「これ以上は、我々の手には負えない。ご遺体を運び出したら、曳航の準備をしてくれ。」

「分かりました。」

 隊員は命令を復唱し敬礼をすると、作業へと戻っていった。


 隊員を見送ると、船体中央部にある艦橋で隊長の私はこの船の航海ログを調べた。

 案の定、航跡は危険宙域を通っており、次元パラドックスに捉まったことは明白だった。

 ここは、暗黒星団と多重恒星系が存在する場所であるため、遭難する船は後を絶たないのだ。

 こうして、救助隊に発見されることはまれで、ほとんどが宇宙の藻屑と消えてしまう。

 私はそのことを思うと、心が痛んだ。

 だが、今回は幸いにも、ご遺体の回収も出来、船も曳航出来る状態で発見出来たのだ。遺族もさぞ安堵することだろう。


「隊長!大変です!」

 船内の調査をおこなっていた隊員から緊急で報告があった。隊員が見付けたのは一幅の油絵であった。電子絵画ではない手書きで描かれた、前時代の美術品が運ばれていたことに私は驚いた。

 闇と光をモチーフにしたこの絵画には、星が爆発し闇が包み込むように、一隻の船がボロボロに描かれていた。それはまるで生きることを赦さない、時の悪魔がこの船の運命を翻弄しているかのようだった。

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