40話(繋がった心)

「美優、今日大学が終わったら一緒に食事に付き合ってくれないか?」

 と聞くと

「今日は外食ということですか?」

 と聞かれたので

「勿論、そのつもりで聞いているのだが」

 と言うと

「分かりました。では大学が終わり次第、お兄様に連絡すればよいのですね?」

 と聞かれたので

「そうしてくれ」

 と返した。そして

「マーサー、そういうことだから今夜の食事の支度はしなくていい」

 とマーサーに伝えた。

 夕方になり、美優から大学が終わったと連絡がきて、大学の前まで迎えに行き、その後、行きつけのブティックで美優に似合いそうな服を買い、そのままその服に着替えさせて目的のレストランへと着いた。すると美優が

「お兄様、今日は何が特別な日なのですか?」

 と聞いてきた。私は

「美優、誕生日おめでとう」

 と言って、包装された箱を手渡した。すると美優は

「え、今日は私の誕生日なのですか?」

 と驚いている。私は

「昨年は何だか美優が私を避けていて祝ってやれなかったから、今年は二年分だ」

 と言った。すると美優は

「ごめんなさい、そうでした。私、あの時お兄様と血の繋がりがないこと記憶になくて…あ、何でもありません」

 と言って、途中で話をやめてしまった。しかし、今日はこの穏やかな雰囲気を壊したくなくてそれ以上は追及しなかった。だから私は

「美優、箱の中開けてみて」

 と言った。

 すると美優は嬉しそうに包装紙を開け、箱の中から私が送ったネックレスを取り出した。すると美優は

「わー、素敵です! お兄様、これすごく高そうですね」

 と言って驚いている。私は

「二年分だから気にしなくていいよ」

 と言うと

「それでもこれは豪華過ぎて私に似合うでしょうか?」

 と言うので、私がそれを受け取り美優の首につけてあげた。そしてスマホのカメラ機能を逆にして美優に見せると

「わー、とても綺麗です」

 と言って喜んでくれている。そんな姿を見ているだけでも幸せを感じている自分は『かなり重症だな』と思わず苦笑してしまった。

 そうして楽しい食事を終える頃、私は今日の昼間に父から連絡があったことを思い出し

「そういえば今日の昼過ぎにお父さんから連絡があり、来月お母さんと一緒にこちらに来るそうだ」

 と伝えた。すると

「え、来月ですか? 何かあったのでしょうか」

 と言うので

「勿論、美優のことが心配で様子を見に来るんじゃないかな」

 と言うと

「本当にお優しいですね」

 と言うので

「確かにあのお二人はいつだって優しいよ。この私のことを本当の息子のように育ててくれたしな」

 と答えた。そして付け加えるように

「美優がこちらに来てからも何度も美優の様子を私に聞いていたんだぞ」

 と伝えた。それを聞いた美優は「何だか心の中が温かく感じます」と言うのだが、その様子は親子の情愛とは違う、不思議な違和感を感じた。やはり記憶が戻らないせいなのかもしれないと思った。

 そんな風に考えていたら美優が突然

「実はお兄様、私がお兄様と一緒に住む少し前まで、私はお兄様のこと血の繋がった本当の兄だと思っていたんです」

 と驚くべきことを言われた。私は

「本当の兄妹だと思っていたということか?」

 と思わず聞き返した。すると

「はい、そう思っていたらある日大和さんが血の繋がっていない兄妹だと口にしたので、どういうことか問い詰めてしまったのです」

 と言う。そして

「記憶をなくしてからの、まだ私が忘れている話を全て大和さんから聞きました」

 と言い、更に

「そしてお兄様と血の繋がりがないことを知り、正直嬉しく感じました」

 と言ってくれたが、果たしてその言葉を素直に喜んでいいのか? それとも、もっと違う意味があるのか、頭の中で考えていると美優は顔を赤らめて

「私、お兄様を兄としてではなく、好きになっても許されるのだと知りました」

 と言ってくれた。

 それを聞き

「これは夢ではないのだな?」

 と思わず美優に聞いてしまった。すると美優は意外そうな顔で、それでも嬉しそうに

「お兄様はそんな気持ちを迷惑だとは思われないのですか?」

 と聞かれ

「そんなはずあるわけない。寧ろこんなことがあるなんて」

 と言葉が詰まってしまうほど驚いていた。そして私は覚悟を決めて

「私は、美優がこちらの国に来てからは一度も妹だと思ったことはなかった。いや、思えなかった」

 と言ってから

「私は女性として美優を好きになっていた」

 と告げた。すると美優は嬉しそうに、今までのことを素直に話してくれた。

 それは、兄妹だと思っていたから許されないと思い、私を遠ざけていたことや香苗への嫉妬心など、包み隠さず全てを。

 それを聞いた私は美優を抱きしめたかったが、ここは店の中だと気づき我に返った。

 それから私たちは店を出て、歩きながら色々な話をした。私はそっと美優と手を繋いで

「ずっとこうして美優と歩きたかった」

 と言うと、今度は美優がその手を解いて私の腕に自分の腕を絡めてきて

「私もずっとこうしてみたかった」

 と言ってくれた。私はそんな中、今までこれほど満たされ、幸せを感じたことはなかったなと思っていた。

 こんな幸せが自分に訪れる日が来るなんて。そんな風に考えながら歩いていると、美優がふと

「お父様とお母様が私たちのことを知ったらどう思われるのでしょう?」

 と言うので

「多分、喜んでくれるはずだよ」

 と返した。すると美優は

「何故、そんなにはっきりと言い切れるのですか?」

 と聞くので、過去に父から言われたことを話すことにした。

 実は私のことを養子にしてから、父は自分の跡を私に継がせると言ってくれたが、私は美優がいるのだから美優に継がせて私が美優の補佐をすると伝えた時に、父は『美優と一馬が結婚してくれたら一番いいのにな』と言われたことを告げた。そしてその時は、私と美優はとても今のような関係ではなく、それこそ本当の兄妹のようだった。それに大和の存在もあったからな、と言った。それを全て聞き終えた美優は

「だったら、来月お父様とお母様に二人のことを話しても問題ないのですね?」

 と言ってくれた。私は

「本当に後悔しないな?」

 と念を押すと

「後悔だなんて、私はお兄様のことが好きなんですから」

 と笑顔で言ってくれた。私たちは来月二人で両親に報告することを確認し合った。そんな美優の首には、私が送ったネックレスが輝いていた。私はこの輝きが二人の未来のようで『必ず美優を幸せにする』と心に誓っていた。

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