九話「王国騎士団長の華麗なる仕事模様」
桜の色めく春のある日、スザクくん達は今日はお客さんとしてきた。
「よっす。」
「おはよ。今日はみんなで依頼を?」
「いや、今日は勇者の情報が欲しい。記憶が正しければ既に十一人が死んだ。その内の四人を俺達で倒してきたんだ。そろそろペースを上げようと思ってな。」
スザクくんはいつの間にやら勇者殺しの異名をつけられていた。事情があるとは言え、勇者を殺して回っているという事実だけはどうやっても覆らないからそんな異名をつけられ、人によっては恐れられていた。勿論私達は別に恐れる理由も必要も無いので仲良くしてるし、事情を知った人の中にはスザクくんのやってる事を肯定する人もいた。勇者の中には特権とでもいうように大暴れする人が多いため、本心では嫌っている人もまぁまぁいる。
「頑張り屋だねぇ。あと八人だったよね?」
「あぁ。その中の二人は勝手に人生が破滅してたからあえて殺さず生き地獄を味わってもらってるから残りは六人だな。」
「そう考えると色んな理由で減ったよねぇ。」
「まぁな。……それで、今はどんなやつの情報があるんだ?」
「人単位なら揃ってるわよ?新しいか古いかは差があるけど。」
「んー……。確かララとメリーのアルバイト代で今かなり余裕はあるんだよな?」
「そうだね。色々出しちゃう?」
「いや、全員の最新情報だけ教えてくれ。そこから取捨選択をしていく。」
数ヶ月と接していけばスザクくんの人となりも何となくわかっていく。スザクくんはかなり慎重派で、自分の力量を絶対に見誤らなかった。そうして確実に勇者を少しずつ殺していた。……進捗自体は遅いから過半数が別の理由で死んでるけど。
「…………………で、最後の一人がこいつね、アラマキヤヒコ。こいつは魔王軍幹部の一人、デュラハンのラハンと一度対峙しているわ。倒せてこそいないけれど、そこまで到達した勇者が初の事例だし、深追いせず撤退する勇気ももちあわせている。正直、一番の難敵ね。」
「荒牧か……。前の世界でも文武両道の万能人間だったからな……。」
「どうする?挑むの?」
「……いや、今はまだ早い気がする。俺は弱い。ここで急ぐような真似をすればこいつらも危険だからな。」
スザクくんはメモだけ書いて畳んだ。誰の所に行くのか目星をつけたのだろう。
「……っし!んじゃララ、メリー、また今日から少し遠征する事になるけど平気か?」
「私はいつでも。」
「わたしも……いいよ……。」
三人は頷き合い、いざ店を出る。……というタイミングで、別の人が来た。
「あ、こんにちは。」
それはランスさんだった。
「ふむ。魔王軍四天王、ネクロマンサーのももよ。抜き打ちで申し訳ないが素行調査だ。協力してもらおう。」
「はーい。」
私達は魔王軍四天王にもかかわらず人の輪の中で生活している。よからぬ事を考えていないかとかを定期的に王国騎士団が調査に来ていた。とは言えほとんど形だけのもので、私達は別に人間の倫理に反する行いはしていないので問題が起きたことがない。
「………ふむ。今回も素行は良好である……っと。急な来訪で失礼した。……………って事で仕事終わり!悪ぃけど紅茶を一杯くれねぇか?」
そして一通りの仕事を終わらせたランスさんは一気にくだけてさくらちゃんに紅茶を催促する。
「ウチは喫茶店じゃないわよ。」
「堅苦しい事言うなって。……あ、そうそう、そこの勇者殺し。」
「は?え?俺たち?」
ランスさんが来てうっかり外に出るタイミングを逃したスザクくんは急に呼ばれて驚いていた。
「そ、お前ら。俺が仕事を終わらせてラッキーだったな。もし仕事中だったら俺はお前らを捕縛、あるいは殺さなきゃならなかった。」
「みのがしてたのに……?」
メリーちゃんがツッコミ……でも無いのかな?素直に思った事を口にした。
「ははっ、そう見えたか?今の俺を見ろ、規律厳しい堅物に見えるか?」
「王国騎士団団長ランスロット……厳かなイメージしか見た事がないから意外だな……。」
「おっ、そこまでしっかり分かってるのか。……ま、そりゃそうだよな。勇者殺しの正体は以前召喚された勇者の一人の謀反である。対象は同じ勇者であり、王国に危害を加える可能性は現時点では低い。……これが王国の堅物の出した答えだ。仕事中で尚且つ部下の一人でもいたら危険人物だからそれ相応に対処しなきゃならねぇけど、今は部下もいないし仕事中は気付かなかった振りしてりゃいいのさ。俺個人としても増えすぎる勇者の扱いに手をこまねいていたし、もっと大胆に殺し回ってもいいぜ?危険度が増せばこっちは手出しが出来ない理由が出来るし、勇者だけが対象なら勇者以外に手を出さない限り安全と判断できるからな。」
ランスさんはケラケラ笑う。そしてさくらちゃんが用意した紅茶を取る。
「ありがとよ。」
「金貨五千枚ね。」
「ぼり過ぎだろ。国家予算根こそぎ取る気か?」
「それこそもう千倍くらいはあるでしょ?だから千杯飲みなさい。」
「腹壊すだろ。」
さくらちゃんは別にランスさんの事を嫌ってるわけではないけれど、たまに来る時に毎回紅茶をせびられるのでその時だけ不機嫌になる。毎回だから嫌気がさしてるのかな。
「まぁ……いいか。命拾いしたって認識でいさせてもらうよ。」
スザクくんはランスさんが危害を加える気がない事を知り呼吸を落ち着かせる。そして軽く手を振って店を出ていった。
「うん、あいつはまだ伸び代がありそうだな。」
「そうだね。」
ランスさんは紅茶を飲み干し、険しい顔をする。
「……さて、ここからが大事な話だ。」
「ただ冷やかしに来たのかと思ってた。」
「同じく。」
「まぁまぁ、さっきはスザクが居たからな。一応魔王軍最重要機密だからあの場はあぁするしか無かったんだよ。……昨日の話だが、ラハンの旦那が敗走した。」
「……!」
さくらちゃんも表情を変える。勿論ラハンさんとも会った事があるし、さくらちゃんは実際戦って負けている。それでも五分五分くらいの実力者だったため、そんなラハンさんが負けたのにはある程度のショックがあるみたいだった。
「……もしかして、アラマキヤヒコとか言うやつ?」
「話が早いな。そうだ。あいつは一回旦那の所まで到達したが、今回遂に旦那を追い詰めやがった。」
「かなりの実力者だね……。」
「まぁ旦那もその程度で死ぬ程じゃない。とっくに魔王城まで帰還済みだ。」
「そうなんだ、よかった。」
「そうだな。今後旦那は四天王から一線を退き、魔王軍の防衛部隊に移るらしい。」
「勇者との再戦は諦めてないのね。」
「あぁ。……まぁそういう訳で四天王が減ったわけだ。が、そうなると、次期四天王は誰にするかって問題が発生する。」
「適当でいいんじゃない?」
「実力主義だから当てずっぽうは下手すりゃ壊滅するっての。……実はその候補に逢いに行くのが今回の目的の一つなんだよ。」
候補者に逢いに行く?つまり、魔王城にはいない人材をスカウトするってこと?
「ももみたいなかなりのレアケース程じゃないが、直接スカウトってのもかなりレアだよな。」
私の疑問を察してランスさんがすぐに答えてくれた。
「そう、実は昔から魔王軍に属さないもののかなり強い吸血鬼の一族がこの近くの城に住んでるんだよ。あまり人間には危害を加えない変わり種で、人間側も刺激しなければ特に有害足り得ないって事で静観してるんだが、次期四天王に加え、魔王軍に更に新たな風を取り込もうという考えが出ている。ももみたいに価値観が違うからこそ寄り添えば強力になるって考えだな。」
「へぇ……それでランスさんがスカウトに?」
「そんなとこだな。人間側は四天王一人退かせた事でお祭り騒ぎだからな、その機に乗じて一週間ほど休みを貰った。その間にスカウトしつつ、スザクの方を鍛えてみようかなって。」
ランスさんは名前の通り槍を扱う。多分スザクくんの修行には噛み合わないんじゃないかと思った。
「ついでに……というか、因果関係によるものだが、俺はしばらくこの辺で寝泊まりしてるから、もし俺に頼み事があったら言ってくれ。可能な限り手伝うよ。」
「ん、ありがとう。」
そうしてランスさんはお店から出ていった。一週間ほどは休みを取ったってことは、またこっちに遊びに来るかもしれない。さくらちゃんも同じことを思ったのか、商品の中の紅茶パックを一つ持って行った。一体何回さくらちゃんはランスさんに紅茶を淹れるのだろう。
しかし、ランスさんの用事は結局失敗に終わることになった。……厳密には失敗じゃなくて、続行不可能だった。
「な……な……なんでお前がその吸血鬼を連れているんだ!?」
「だから、これから説明するって。というか、王国騎士団団長が未だにここで油を売ってるって、今暇なの?」
そう、勇者殺しから帰ってきたスザクくんが、ランスさんの目的だった吸血鬼を連れていたのだ。艶やかな深紅の髪にこれまた美しい紅色のドレスを身にまとい、唇の間には鋭い牙がチラリと見える。体付きはすこし華奢で、だけど美しい女性の特徴的な部分はしっかりと強調していた。
「くっ、サキュバスにメリア種に吸血鬼……?なんで希少種がお前の周りに集まるんだ……?」
「ララは成り行きだしメリーも成り行き、キュラもこれから説明はするが、結論で言えば成り行きだな。」
「いや待て、名前を付けたのか!?つまり、契約を結んだってことか!?」
ララさんの時もそうだけど、魔族との何かしらの契約は相手に名前を付けることで行われる。目の前の吸血鬼はキュラさんと呼ばれた。つまり、契約が結ばれているんだ。
「ん、まぁな。ララの時と同じで、体裁上主従の契約を結んだ。勿論体裁上ってだけで、別に縛り付ける気は無いんだが。」
「ほむ、その考えは素晴らしいが主様よ、あまり奔放が過ぎると寝首を掻かれるぞ?」
「お前そんな事する気ねぇだろ。初めから暇潰しでついてくるだけで飽きたら帰るって言ってたし。」
「ふふ、そうじゃな。主様は随分と面白いからな、少なくとも数年は楽しめそうじゃ。だからついて行くと決めたからの。」
「ながいね……。」
「まぁ、ご主人様に何か変わった魅力を感じるのは共通認識ですから。」
スザクくんを取り囲む三人はそれぞれに笑う。こうして見るとスザクくんハーレムってやつを形成してるなぁ。
「マジか……埒外にも程があるぞ……。」
「まぁ、俺自身ちょっとイレギュラーな奴という自覚はあるよ。」
「おう……いれぎゅらーってなんだ?」
「まぁそこはいずれ……。んで、キュラとの出会いなんだが、勇者の殺害を終えた帰り道で少し道に迷ってな。何とか野宿を考えていたがそこに城があってさ。まぁそこがキュラの根城で、頼んでみたら普通に一泊させてくれて、んで朝になってまたこっちに戻ろうとしたら悪魔祓い?って奴らが乗り込んできてな?一宿一飯の恩って事でそいつら追っ払ったんだよ。そしたら気に入られて、ついでに城にはちょくちょく悪魔祓いが来るって話で、なら城自体も無用の長物だったから俺達についてくってなって、んで主従の契約も成り行きで行ったんだ。契約を結んだ魔族なら人間もそう易々と手出し出来ないって事でな。」
「悪魔祓い……セレスティア大聖教の奴らだな。人としては信用はあるんだが、話が通じない暴徒紛いの連中だ。」
ランスさんの言葉にスザクくんは唸る。
「だから話が通じなかったのか……俺が人間だと言っても魔族と主従契約を結んでいるならお前も悪魔だーとか、超理論で殺されそうになったよ。」
「それは仕方ないよ。一目見ただけでその魔族は人間を襲わないなんてわかるわけないし。」
「そうですね……サキュバスの私もサキュバスという立場をひた隠しにしてたくらいですし。」
「それで、その悪魔祓いはどうしたんだ?」
「全員殺した。話が通じない、その上で殺しにくるんなら殺さないように加減する余裕は無いし、そもそも俺の実力じゃそんなこと出来ねぇよ。」
「つまり、セレスティア大聖教に牙を剥いたわけか。……いや、ホント今俺が休み中で良かったよ。お前を即殺さなきゃならない程度まで危険度上がってるよ。」
ランスさんはため息をつく。このままじゃマズいと思ったのだろう。
「……スザク、三日間お前を鍛えてやる。易々と手出し出来ない存在になれば、俺もお前に手を出せない建前が出来る。ももと同じくらいの実力者になれとは言わない。それでも埒外になれ。」
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