第3話 カチコミ

「ガチャッ」


校門の鍵があいた。

門を開き中へ入る。第2管理棟はグラウンドから少し離れたところにある。辺りは既に暗くなっており、3人の足音だけが響く。


古びた建物を見て呟いた。


「第2管理棟、ここだ」


「ガチャリ」と扉の鍵をあけ、中へ侵入する。

すると傾場かぶきばが口を開いた。


「ねぇ、本当に管理棟に廿日市がいるの?管理棟って、電気や水の管理をする場所だよね?」


「もとは人形だから、学校とかに疎いのか。ああ、第1管理棟はそうだな。でも、第2管理棟は違う。ここで管理されるのは、生徒だ。まぁ管理棟なんて言ってはいるが、実態は校則違反者用の檻だ」


俺がそう言うと、傾場は面食らったような表情になった。


「檻...?犯罪者を逮捕するのは警察の仕事でしょう?なんで学校に檻があるの?」


「学校の敷地内では生徒会による自治が認められている。うちの学校の場合は校区全域が自治区になっている。自治区内では主に風紀委員が警察の役割をしているんだ。だから、校内での校則違反者はここの第2管理棟か、門外刑務所に収容される」


それを聞いて、傾場は首をかしげた。


「でも、なんで─────」

「キキーーーッ」


その瞬間、傾場の声を遮るほど大きな音で警報が鳴り始める。


けいがにやりと笑い呟いた。


「お、もう鳴りだしたか。急ぐぞ、風紀委員どもがやってくる」


そう言い、啓が走りだしたのに続き2人も走り始めた。

そうしてしばらく探していると、「ガタガタ」と格子を揺らす音が聞こえた。


「───おーい!俺だ!廿日市はつかいちだー!!」


3人は檻の前へ駆け寄り、門の鍵をあける。


「ありがとう邦子くにこ知広ちひろ...それと...」


夷谷啓えびすだにけいだ。よろしく」


「おう!おれは廿日市徒然はつかいちつれづれ!ありがとうな啓!」


そう言うと、ふたりはその場でCoCoAの連絡先を交換した。


啓があたりを見回しながら言う。


「もう奴らが来る頃合いだ。早く逃げよう.....っっ!?」


「逃がさないよぉ〜。あたしがみんな牢屋にぶち込んでやる」


暗くてよく見えないが、そこには魔女帽子を被った黒髪長髪の長身な女が立っていた。


「君たちみんな捕まえてそのまま牢屋に入れてやろう。ここでやると手間が省けて助かるよ」


すると、その女の身体を這うように「バチッバチッ」と電気が走りだした。


啓が叫ぶ。


「お前ら先にいけッ!!俺が引き止める!」


俺がきく。


「でもお前はどうすんだよ!?」


「俺はなんとかする!考えがある!とにかく先にいけッ!!」


俺たち3人は走りだす。


「逃がさないよっ!!」と女が手を振りあげ、廿日市のほうへ電気が走る。


「ボン!」と廿日市が炎を吹き、電流を防ぐ。


「お前は俺に集中しろよ!」と啓が本を投げる。


その隙に、知広、廿日市、傾場の3人は出口へかけ出した。


「あらら、3人には逃げられちゃったけど、君は逃がさないから」と女


「そうかよ、″伊賀真冬いがまふゆ″」


そう啓が言うと、途端に女の顔色が変わった。


「名前ぇ〜、、、教えたっけなぁ?」


「伊賀、思春期症スペシャルの名は″電子旅行エレクトロリップ″、能力は電子を操ること。さっきの電気もそれだろ?」


伊賀は冷や汗をかきながら答える。


「分かったところでどうするの?君1人じゃ、あたしには勝てないよ」


「ああ。絶対勝てないだろうな。だが───」


啓が続ける。


「逃げることはできる」


啓は空中に鍵をさし、「ガチャリ」とひねった。


「″世界図書館″」


すると、啓はこつぜんと姿を消した。


「はは、やられた。あいつ何者なの?でも─」

──でも、あの3人を逃がしたってことは4対1でもあたしに勝てないって判断したということ。なら、まともにやれば負けることはないね。

それに、わざわざひとりで逃げたってことは″あれ″はあいつしか使えないってことかも。

切り札は隠してるだろうけど、彼、ミステリアスに見えて意外と底が見えてきたね。


伊賀は「くすり」と笑った。


──────その後、知広宅─────


「ガチャ」と家の扉が開いた。


「ただいま」


そこには啓が立っていた。


「驚いた。まさか本当に逃げられるなんて」


と俺が言うと「信じてなかったのかよ。俺を見捨てるつもりだったわけ?」と啓は呆れたような口調で言った。


とりあえず俺たちは4人で自己紹介や情報交換をした。

あの女...伊賀の能力は電子の移動であることやそれに対する対策について。

しばらく経って、啓が口を開いた。


「そういえば、徒然つれづれくんの思春期症スペシャルってどんな感じだっけ?」


「あぁ、火を吹けたり、気合いいれたら爆発も起こせる。俺は発火はっかって呼んでるぜ」


啓は少しの間考える素振りを見せ、神妙な声色で言う。


「お前の思春期症スペシャル、多分火を吹くことじゃないと思う。俺が思うに、お前の本当の能力は、″蓄積された力の発散″だ」


廿日市は「え?」と首をかしげた。


「というと...どういうこと?」


「つまり、摩擦とか、代謝とか、静電気とか、日光とか、そういう力が少しずつ身体に蓄積されていって、溜まった力を火や爆発として発散させられるってことだ」


3人は目を見開いた。


*********************


その夜、啓は自宅で考えていた。

あの女は多分、今日の戦いから俺たちは4人がかりでもあいつに勝てないと予想するはずだ。もちろん、俺の知る限りでは確かにそうだ。

だが、あいつらは何か切り札を隠してる。今日で確信した。

あの3人がただのコウモリと人形と炎なら、風紀委員に見つかった時点で即逃げの判断をしていただろう。それをしなかったのは勝てる見込みがあったからじゃあないか?

俺が思うに、知広と邦子ちゃん、あのふたりは切り札を隠してる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る