鏡よ鏡

 願いを聞いてくれる鏡に、私はおねがいをする。


「鏡よ鏡。私を綺麗にして」


 願いを聞いてくれる鏡は、今日も私自身を映しながらこう告げる。


――自分がどうすれば美しくなれるか考えてごらん? 綺麗になりたいなら、努力しないと無理だよ。


 そんなこと分かってる。出来るならとっくに行動しているし、どうしたらいいか分からないから今のダサい私がいるわけで。

 ぼさぼさの眉毛に薄いメイク。リップは薄い桜色付きで、主な用途は保湿がメイン。ちいさなそばかすがあちらこちらに出来て、鏡を見るたびにため息が漏れる。


「鏡よ鏡。私を綺麗にして」


 何度聞いても同じ答えしか返ってこない。本当に願いを聞いてくれるのか怪しくなってきた。

 何度目かの質問で、私は鏡に聞くのを諦めた。もう同じ答えを聞くことに辟易したからだ。


「願いを聞いてくれる鏡? うそっぱちじゃない」


 鏡を伏せて、私はふてくされて。そうこうしている間に時が経ち、メイクも上手くなった私は久しぶりに鏡を手に取った。


「鏡よ鏡、私は綺麗?」


 手に取った鏡には、完璧なスキンケアのおかげで綺麗な肌にベースメイクから丁寧に整えられた顔、美しく切りそろえられた眉毛に大人びたブラウンのリップをした私が映る。


――とても綺麗になったね、努力したんだね。これからも、自分自身の魅力を伸ばしていって。


 今日も自分自身を映した鏡は、淡々と……ううん、ちょっと嬉しそうにそう言った。


 願いを聞いてくれる鏡は、おねがいをしてもただの鏡。


 それでもずっと私のいてくれたのはこの鏡だけ。

 ただの鏡をもう一度覗き込んで満点の笑顔を浮かべた私は、同じ位置に鏡をふせて元気に家を出た。

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