サイコパス転生 ― 将来俺を殺しそうなキャラは物語開始前に出来るだけ葬ってしまおう ―
茶電子素
第1話 誓い
目を覚ました瞬間、視界に広がるのは見慣れぬ木造の天井。
鼻を突くのは干し草と薬草の匂い。
寝返りを打とうとした体は小さく、柔らかく、まるで赤子のように頼りない。
……いや、実際に赤子なのだろう。
「――ようこそわたしの天使ちゃん、ママはここよ」
柔らかな声。俺を抱くのは若い女――どうやら母親らしい。
背後に屈強そうな男が立ち、優しくも誇らしげに俺を見下ろしていた。
その時、奇妙な既視感が俺を襲う。脳裏に流れ込む断片的な映像。
――魔法、剣戟、裏切り、血。そして最後に俺の首を刎ねる影。
そうだ。俺はここを知っている。
物語だ……俺が前世で読んだファンタジー小説、その世界そのもの。
しかも俺は、数多の悪役や噛ませ犬がひしめく中で、
生き延びることなく退場する”不幸な脇役”に転生してしまったようだ。
普通の転生者なら、ここで「運命を変えて生き延びよう」と
真っ当な努力をするのだろうか。
だが俺は違う。もっと簡単な方法があるじゃないか、
なぜ物語の住人になった者たちは、その選択をしなかったのだろうか。
「……やることは一つだ」
俺は心の中で呟いた。
物語が始まる前に、俺を脅かす連中を出来うる限り消す。
善人だろうが悪人だろうが関係ない。
将来俺を裏切る者、俺を利用する者、俺を殺す可能性のある者、
――原作開始前に、ご退場いただこうではないか。
もちろん今の俺は赤子の身で剣も魔法も扱えはしない。
だが、この世界における俺の”役割”は覚えている。
俺は魔術に秀で、特に精神系の魔法に長けていたはずだ。
つまり、俺が力を覚醒させれば、人の心を操り、動かし、殺すことすら容易い。
にやり、と口角を上げる。母はそれを「赤子の微笑み」と勘違いし、頬を緩めた。
――間抜けなものだ。この笑みの意味に気づく者など、誰一人としていない。
俺の最初の標的は決まっている。
物語の裏で暗躍し、俺の一族を裏切りに導く男。
こいつの手で家は没落し、俺の運命は暗闇に沈むのだ。
ならば――物語が始まる前に、葬ればいい。
赤子の俺は誓う。
血で血を洗おうと、この手が、いくら汚れようと構わない。
誰よりも冷酷に、この物語を塗り替えてやるのだ。
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