第18話

 入れ違いの雨が今日も世界を濡らす。ゆっくりと絞首台が近づくが、僕の心は落ち着いている。これがきっと僕本来の姿だ。世界を断定的に決めつけ、他人とかかわらない。神様も信仰も、祈りも薫陶も希望も、すべては人生の振れ幅であるから。捨てていった。捨てざるを得なかったのだ。


 すべて、自分が傷つかないために。


 世界から彼女は弾き出されたように姿を見せない。そのことが答えである。


 僕は席を立つ。今日は、今日こそは、僕は絞首台に立つ。彼女が二度もいなくなった世界では、僕はここにいてもできることはないだろう。


 そう決めつけ、それ青見上げる。見れば、遠くの方で晴の隙間が光を浴びせている。文字通りの神々しさ。まるでそこだけ世界が異なるようだ。


 この世界でたった一つの晴れの理由。それは―――


「そこにいたのか......」


 僕は目を開く。燦燦と輝く太陽の暈が、絞首台に続く光の階段を照らし出す。


僕は窓を開け、光の指す方へ歩き出す。物理も重力も、斥力も置いていく。


 僕は一歩踏み出す。硬質な音が響き、世界には僕と彼女と社だけが残る。


ボロボロと崩壊していく世界を横目に、僕たちはまた再び会える。

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