第7話
誰かが死んだとき、その後には何が残るのか。何を残せていたのか。それを指折り数えることが、時に冒涜のようなことになったとしてもいい。何も残せなかったのだとしても、生きている限り、心に生きた証だけは紡ぎ続ける。言葉や文字や写真、映像媒介記憶、はたまた夢。なんでもいいのだ。
私の死んだ後、誰かが泣いていたらそれでいいと思う。私が死んだ後、何かが変わったらそれでいいと思う。彼の世界に変化と情緒を与え、真っ白なキャンバスに私の心と瞳で色を付けるのだ。それこそが、私の死の意味でもあると確信している。
私は世界に関与できないのかもしれない。彼の心が私を見ないからだ。
忘れてしまったわけでもないだろう。嫌いになってしまったのではないだろう。この瑠璃色の瞳が、彼を見なかったことはない。それでも、世界に関与できないのならば、彼の心に私は寄り添えなかったということだろう。
何を恐れているのだろう。何を怯えているのだろう。
死ですら受容した彼が、何を拒んでいるのかがわからない。
恐れているのは私だろうか。私は、彼に覚えていて欲しくなかったのだろうか。そんなことはないと信じている。それは私の、私たちの思い出を否定することになるからだ。
終わってしまった彼の世界を、それでも真っ白なキャンバスに記憶という名の色を刻もうとしているのはなぜだろうか。エゴでもいい。理由を教えてほしい。この気持ちに名称を付けてほしい。願えどされど、あなたは遠く。
名前がわからないのならば、自分で名前を付けよう。どっちつかずの揺れる心。振り子のように繰り返す思い。亦繰り返す斜陽に目を覆えば――
「......そうか、だから私は―――」
杏子色の夕焼け 霧のような女は 山猫のような影となった。その思いに、生きた足跡を乗せて。
誰かがまた振り返ったとき、彼女の答えにたどり着く。
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