第13話 戦いのその後

合宿5日目。アレスとの戦闘から一夜明け、今日は緊急報告会が開かれた。隊士達は本部にあるホールに向かう。


「昨日の光景が未だに信じられないぜ。あの後、ダクラ様は何事も無かったかのようにミル様の元へ帰っていったし。」


「ホントだよ。これからは僕達、ダクラ様に逆らわないようにしないと。」


「そ、そうだね。」


いつもの5人で話していると、


「おぉ、お前達!」


と、後ろからカローラが話しかけてきた。


「カローラさん!あれ、部隊のみんなはどこです?」


「あぁ、各部隊からは代表としてプリンスヴァーチェパワーなど上級隊士が来ることになってるんだ。君たち合宿組はちょうど本部にいたからついでに呼ばれたんだね。」


「そうですか。その...怪我などは大丈夫ですか?」


「心配ないよ。軍には回復の能力者もいるんだし。それに、俺達の部隊は全員下級だから敵の少ないあの場所に送られたのに、ドミニオンの、それも他軍の隊士の手を煩わせてしまった...もちろん君達も。迷惑かけてばかりだ。」


カローラは感情をグッとこらえ、静かにそう言った。


「だから、俺ももっと強くならないとなー。じゃあまたな!」


そして明るく取り繕ってさっさとホールに向かっていった。5人はあぁ...と心中を察して見つめている。




みんながホールに集まると緊急報告会が始まった。前にはミルとザイオンが立っている。


「はいはーい、みんなちゅうもーく。」


ミルがパンパンと手を叩く。そしてザイオンが資料を見せながら話し始めた。


「じゃあ、話を始めるよ。まず戦争についてだけど、2国間に不可侵条約を結ばせたからこの件は問題無し。問題なのは戦争意志『アレス』の発生について。


最終発生は革命の時代末期、約74億年振りの復活だけどおかしな点がいくつかある。


1つ目は大規模な戦争でないにもかかわらず発生したこと。まだ研究段階ではあるもののこの条件下での発生はまずありえない。しかも階級もΦファイ級上位としっかり規模が大きかった。


2つ目は複数体同時に発生したこと。これは言わずもがなだね。


そして3つ目。僕達が発生の予兆を確認できなかったこと。バグが発生する場合、その場がグリッチなどによって不安定になるんだ。これは本来非常に微弱だけどここまでの規模になると容易に観測できる。バグの規模によるけどアレス級ならだいたい3日前から予兆が発生する。」


「つまり俺達は自然発生ではなく、何者かが故意に発生させた可能性があると考えている。」


それを聞いた隊士達はあり得ないと顔を見合わせる。


「そ、そんなことあり得るんですか!?もし本当なら、我々のような上位階級天地者てんちしゃレベルが数十人規模で関わっているということになりますよ。」


その場にいる各部隊の代表は混乱した。それほど今回の事態は異例たったのだ。


「今回アレスと戦闘したスパルームとアンタナとダクラくんからは特に違和感がなかったと聞いている。だがそれがおかしいんだ。強い念の放出が観測されたのは2国のみ。何者かが念を供給、増幅してないと辻褄が合わない。」


「じゃあ、その何者かって一体...」


「今の段階では見当もつかないね。だから今回は報告だけだ。捜査は研究班に任せるとして、この話は終わりだな。」


「え、それだけ...てかこの話『は』?」


みんながざわざわしていると、ザイオンが話始めた。


「ちょうど全部隊の代表がいることだしついでに話しておこうと思ったんだけど、今から約1ヶ月後に親善大会があるでしょ。その親善大会なんだけど、毎回色んな種目をやる中、今回は下級隊士のバトルロワイヤルと一騎討ちトーナメントのみになった。


理由は...」


「「えーーー!?」」


理由を話す前にみんな騒ぎ出した。特に上級隊士が。


「な、何でですか!あの必要以上の地獄の訓練の意味はーー!!」


「俺達の神液しんえきを吐くような努力は無駄だったのかーー!!」


「死んだ方がマシだと思った私達の日々はーー!!」


「そ、そんなに...」


「上級隊士も大変なんだな。」


「アタシ達のがまだマシに思えるわ。」


上級隊士の悲痛な叫びにヴィジ達も引いている。


「ざ、ザイオン様も結構スパルタなんですね。」


「いや僕じゃないよ。ここにいるミルと天界ヘブン第六階層の大君主オーバーロードロウの仕業だ。」


「へっ!?ロウ様ってあの、大君主四天王の第三柱、『最狂』のロウ様ですか!?」


「そう。あの人とミルは混ぜるな危険。僕といる時と違って、やばい人×かけるやばい人だから、巻き込まれた隊士達は君たちの比にならない程の地獄を見たはずだよ。」


「なんか...同情します。」


その話を聞いて上級隊士達が少し可哀想になってきた。


そしてみんながざわざわしていると、ミルがビリビリッとグリッチの様な強烈なオーラを一瞬放ち、みんなを静かにさせた。


「人の話は最後まで聞きましょう。」


「「は、はい。」」


「続けていいかな。


で、そうなった理由は、親善大会の翌日に『大君主親善大会』を開催することにしたからだ。」


「え?いまなんて??」


その言葉に隊士達は耳を疑った。


「大君主親善大会だ。」


「「...」」


隊士達はシーンとして、固まってしまった。


「おい。お前らは『どんぐりと山猫』のどんぐりか。うんとかすんとか、なんか反応しろ。」


「「すん。」」


「ミル...それは何?」


仮想宇宙メタバースに行ったときに読んだ本だ。中には入ってないぞ。」


「相変わらずのセンスだね。」


「あ、あの~。大君主親善大会って具体的にどんなやつですか?」


唯一生き残っていたヴィジが質問をした。


「ああそっか。お前は知らないか。まっ、かく言う俺もよく知らない。」


「え?」


「大君主親善大会が最後に開催されたのは神話の時代中期。ミルが大君主になったのは神話の時代の末期だからあんまりわかってないんだよ。


簡単に説明すると大君主同士の一騎討ちちトーナメントだね。出場は志願者のみで最低4人集まらないと開催しないから不定期開催だったんだ。まぁ革命の時代は忙しかったから、親善大会の話をしたの自体超久しぶりだったけどね。」


ヴィジと話をしていると、


「「うぉーーー!!」」


と、いきなり隊士達が息を吹き返した。


「あの伝説の聖戦を自分の目で見れる日が来るなんて。」


「生きてて良かったぁ〜。」


「そういうことなら、僕達の努力も報われたようなものです。」


上級隊士はすっかり機嫌を直していた。むしろニコニコと嬉しそうだ。


「上級隊士って意外と短絡的なんだな。」


「うん。僕も冷徹な人達だと思ってた。」


「まぁ、一通り言いたいことは話したし、なにか質問ある人?」


「誰が出るんですか?」


「それは当日のお楽しみだ。


他に質問はないかな?ないなら緊急報告会はこれにて終了だ。みんなお疲れ様。」


緊急報告会が終わり、みんなはそれぞれ元の場所に戻って行った。




合宿組はそのまま残され、これからのスケジュールが伝えられた。


「今回は事情が事情だから、今日は訓練なしで明日と最終日は1日目のようにひたすら俺達と特訓だ。」


「終わった〜。」


「俺達生きて帰れるかなぁ。」


みんなはその言葉に不満の表情を浮かべる。トラウマがよみがえりそうだ。


「つべこべ言わない。それに零階層組とゼノシュ、サーガ、アストラ、ミカはダクラくんの力を見たんだろ?いつかああなれるように頑張るんだ。」


「あれにかぁ。」


「誰だって最初は下級隊士さ。今の主だって例外じゃない。大事なのは想像力でしょ?無理だと思ったらそこで終わりなんだよ。


強くなった自分を想像するのは簡単な事じゃないかもしれないけど、実際に見たなら何となくわかるはずだ。」


その言葉にみんなは心を動かされ、今まで以上にやる気をみなぎらせた。


「よしっ、やってやるぞーー!!」


「「おーー!!」」


その様子を見て、ミルとザイオンも笑みを浮かべていた。

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