第10話 仮想宇宙

昼休憩も終わり、みんなは正門のある筒状の施設の中に入った。


「本来なら仮想宇宙メタバースに直通のポータルで行くが、訓練も兼ねて正門から入るぞ。アクセスとかその辺はアンタナにまかせるから安心しろ。」


「それでは皆さんの認証を行います。」


ミルが指示を出し、アンタナによってみんなは仮想宇宙への認証を済ませた。


そして、


「よしっ。それではしゅっぱーつ!」


とミルが言うと、みんなの体が光だし、コードとなって門に吸い込まれるように消えていった。


「さぁ、ここは『MTメタボイド』。話してた通り世界の裏側。デバックルームみたいなものさ。」


ボイドに着くと、そこは限りなく広い平坦な世界で、どこまでも水平線が広がっている。床はグリット線が書かれており、全体的に暗く何も無いまさに虚無空間だ。


目の前には地面から突起した大きな四角い部屋がある。


「ここがボイド...」


初めて見る光景にみんなは唖然としている。


「みんなの目の前にある部屋が管理室。ここに『MTアカシックレコード』と『GOD』があるんだ。詳しいことは中で説明するよ。入って。」


ザイオンから言われるがままに中に入ると、正門にあったようなメカメカしい機械と、向かいに仰々しい目玉のような装置がある。とても大きく、部屋の壁に張り付くように設置してある。


「手短に説明するよ。こっちの機械がアカシックレコードで、こっちの目ん玉みたいなやつがGODだ。


そして仮想宇宙が出入り自由な理由なんだが、そもそもこの世界は我々が作った世界というより、下々の生命体の『意思』によって生まれた世界。故になんでもありなこの世界で異常が起きることはほぼ無いと言っていい。存在自体が異常だからね。」


「だから娯楽施設として解放されてるんですね。」


「まぁ、ちゃんとルールもあるけど、営業中は天者てんじゃがこの管理室で見張りをしているから問題は無いんだ。見張りというのはGODに異常がないかの確認と、観光客が『未知領域アンノウンゾーン』に近づかない様に行動可能区域を調整、管理することだね。


ちなみに仮想宇宙は『想像可能な事象』を内包する『既知領域ノウンゾーン』と、『想像不可能な事象』を内包する『未知領域』から構成されていることは知っているね。だがこの未知領域の危険性を知っている者は少ない。僕たちが見守っているとはいえ、ゼッッッタイに近づくなよ。2領域の境目は一目瞭然。見つけたら即逃げるんだ。」


ザイオンの普段出さない強めの口調にみんなは息を呑んだ。


「そ、それが仮想宇宙に出入り自由な理由と運営の裏側ですか?」


「そうだね。話はこれでお終いだ。」


「じゃあ、今から自由じk...」


「その前に――。」


ミルが食い気味に口を開いた。


「俺の作ったゲームで遊んでもらう。その名も『無限迷路』だ。これをクリアできた者だけに自由時間を与える。そうでないものは、俺とザイオンとの仮想世界バトルだ。」


「「えーーー!?」」


ミルの急な話にみんなは思わず叫んでしまった。案の定、絶望の顔をしている。


「なんだ、別におかしい話ではないだろう。今は強化合宿中だろ?俺は全員に自由時間をやるなんて言ってないしな。」


みんなはしてやられたと嘆いた。


そうして地獄の訓練が始まるのだった。




「まずは4、5人のグループを作ってもらう。ただし昨日のチームから最低2人は変えること。」


ミルがそう言うと、みんなはグループを作り始めた。


「最低2人変えるってことだから、男女で分かれましょ。」


ネリンの提案により、ヴィジ達のチームは男女に分かれて行動することになった。


「4、5人だからあと1人は確保しなきゃなぁ。」


男子組が仲間を探していると、


「あの〜。」


と、後ろから声をかけられた。振り返ると2人の男がいる。


「良かったらチームに入れてくれないかな?俺たち合わせてちょうど5人だし。」


「おう、いいぜ。2人もいいだろ。」


「もちろん!」


「当然だよ。」


「ありがとう。」


チームが揃ったところで再び集合がかけられた。ネリンとフラクタも女子4人組ができているみたいだ。


集合が完了し、概要説明が始まった。


「ルールは簡単。迷路を脱出すること、ただそれだけだ。


仮想宇宙は想像の世界。限度はあるが思ったことは何でも実現する夢のような領域も存在する。今回の目的は、能力を使いこなすのに欠かせない想像力を鍛えることだ。この世界でもイメージできないものは実現出来ない。


迷路は無限に続く。途中に敵やトラップもある。行動しなければ永遠にでることは出来ない。もし一人でもやられたらその時点でチーム全員ここに強制帰還だ。


制限時間は3時間。健闘を祈る。」


「え、それだけ!?」


「最後にひとつ助言しておくが、前も言ったように俺の言動には全て意味があると思うことだ。


それでは、いってらしゃーい!」


ミルはそう言うと指をパチンと鳴らした。みんなはちょっと待ってと口を開くが、たちまち出現した暗いワープホールに引きずり込まれてしまった。




迷路に転送されたヴィジ達はとりあえず自己紹介から始めた。


「えっと、自己紹介がまだだったな。俺の名前はゼノシュ。神ノ加護フォースは『剣神けんじん』で、それぞれ違った能力を持つ剣を生成できる能力だ。ちなみに階級は『大天者アークエンジェル』だけど、タメ口でよろしく。」


「僕の名前はサーガ。神ノ加護は『万糸ばんし』で、色んな種類の協力な糸を操ることができる能力。ちなみにこいつとは幼なじみで、同じく『大天者』さ。」


2人の自己紹介が終わり、3人も自己紹介をする。


「いやー、すごい能力ばかりだね。」


「そっちこそ。」


「じゃあ、そういうこと5人で攻略を目指そう!」


「「おーー!」」


みんなは気合いを入れて、迷路攻略に挑んだ。


「とは言ったものの、どうやって攻略するか。」


「とりあえず、動くのは危険じゃないか?どんなトラップがあるかわかんないし、無限に続くんだから無闇にあるいても意味が無いんじゃ。」


「いや、それはダメだと思う。」


「ウェントくんどうしてだい?」


「ミル様の言葉を思い出してみて。『行動しなければ永遠に出ることは出来ない』って。」


「ミル様の言動には全て意味がある。行動しないと何も始まらないってことか。」


ウェントの言う通りにみんなは歩き始めた。


「しっかし、迷路と言うより迷宮って感じだな。」


「そうだね。」


「どこかにヒントでもあるのかもしれないな。」


特に何も起きないまま進んでいくと、少し広めの通路に出た。


「なんか妙に広いなぁ。」


「こういう所は丸くて巨大な岩に襲われそうだ。」


「サーガ、不謹慎だな。でもわかる気がするぞ。」


「レイだって思ってんじゃん――。」


そんな会話をしていると後ろからガコンという音がして、ゴゴゴゴゴッという地響きが近づいてきた。


5人が恐る恐る振り返ると、通路いっぱいの巨大な岩が転がってきている。


「うわーー!?言ったそばから!」


「逃げるぞぉ!!」


5人は叫びながらも何とか逃げ切ることができた。


「はぁ、びっくりした。」


「よくよく考えたら力づくで止めれたかもね。」


「そこまで頭回んなかったわ。でもミル様のことだから一筋縄ではいかねぇんじゃないの。」


「確かに、逃げた先に落とし穴とかあぁぁぁぁぁ!!!」


「サーガくん!!」


喋りながら歩いていると、サーガが落とし穴に落ちた。だが能力を使ったため、かろうじて這い上がることができた。


「言わんこっちゃない。この迷路、かなり厄介だな。」




――その後もことごとく罠に翻弄される5人。


「ハァハァ、どんだけトラップあるんだよ。」


「流石に休憩したいな。脱出方法も考えたいし。」


ゲーム開始2時間ですでに疲労困憊ひろうこんぱいだ。そんなクタクタになった5人の目の前に巨大な石積みが見えてきた。


「...あのゴーレムみたいな石、動き出さないよね?」


「ハハ...ウェントくん、そんなわけ...」


レイがまさかと苦笑いするとゴゴッと石が動き出し、巨大なゴーレムになった。


一同はですよね~と口をそろえる。


「こんな状態で勝てんのか?」


5人は不安に思いながらも戦った。


電糸拘束でんしこうそく〉〈雷撃〉〈爆炎〉〈霊心撃オーラインパクト〉〈焦熱剣〉


しかし、次々に攻撃を繰り出すも傷一つ付かない。


「さすがに強すぎない?」


ヴィジが息を切らしながら声を出した。


「そうだね。これも何か試されているのか?」


ゼノシュが考えごとをしていると疲労で足がもつれ、倒れてしまった。ゴーレムはすかさず攻撃をしようとする。


「危ない!!」


「まずい...やられる...いや、そうか!」


ゼノシュが攻撃を受ける瞬間あることに気がついた。そして誰もがダメだと思ったそのとき、


「みんなぁ!何も考えるなぁ!!」〈焦熱一閃〉


と叫び、攻撃をした。物凄い速さで繰り出された斬撃はいとも簡単にゴーレムの腕を切り落としてしまった。


その光景にみんなは驚いている。


「え?おまえどうやって...」


「ミル様が言っていたことを思い出せ。この領域は想像を現実にする。普通は様に制限されているんだが、恐らくその制限が解除されている。つまり、罠がありそうだとか負けそうだとか考えた時点で終わりなんだ。死ぬかもと思っても死なないあたり多少は加減してあるようだが。」


「なるほど!だからあんなに連続で罠にかかってたのか。そうとわかれば負ける気しねぇ!!」〈炎撃〉


レイはそう言うと一撃でゴーレムを倒してしまった。


「やはりな。」


「想像力を鍛えるというのは、そういうことだったのか。つまりこのゲームの唯一の攻略法は、無限に続く迷路から脱出するイメージをチーム全員がすることだ。」


ウェントが言ったようにみんなはイメージを共有した。思いっきり壁に激突するとすり抜けバグのように脱出できるというイメージを。


「よし、みんないくぞ。」


レイの掛け声と共に一斉に壁に激突した。すると一瞬目の前がバグり、ボイドの集合場所に無事変えることができた。そこにはクリアした人達とそうでない人達で分かれて座っている。どちらがクリア出来なかったかは一目瞭然だ。


「クリアおめでとう。残り時間30分で気づき、よく10分足らずで攻略までたどり着けたね。君たちで3チーム目だ。」


5人で喜び合っていると、ミルが拍手をしながら称えてきた。


ザイオンも嬉しそうな表情だ。




制限時間が過ぎ、残り隊士達は全員転移させられゲームが終了した。


「さあ、ゲームが無事終了しました。クリアできたのは3チームだけ。ということで今からは...」


クリアできなかった隊士達は腹を括っている。もはや全てを悟った表情だ。


「全員自由時間だーーー!!!」


「「は?...えーーー!?!?」」


急すぎる展開にみんなは一瞬間を置いて叫びだした。泣いて喜んでいる隊士もいる。


「やっぱり君たちのトップは凄い人だよ。ザイオン様が気に入ってるわけだ。」


みんなはミルに感謝をして、残りの自由時間を楽しんだ。


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