トイレの獄門摩擦太郎さん【ボイスドラマ】
初美陽一@10月18日に書籍発売です
第1話 女子トイレの怪異
『
私〝
どこの学校にも一つはあるだろう怪談、そんなものの実在を確かめる肝試しになんて、参加することになっちゃって。
言っちゃえば、くだらない作り話……作り話の、はずだったのに。
私の目の前に現れたのは、
「はっ、はあっ……はあ、はあっ……!」
当たり前だけど、私は息切れするほど混乱していました。
何なのコレ、怖い。
これって現実? ドッキリじゃなくって?
幽霊なんて、本当にいるの?
私、これからどうなっちゃうの?
恐怖と困惑に震えるしかない、そんな私の口から飛び出したのは。
私自身にも、およそ信じられない言葉でした。
「こ、ここって……女子トイレなんですけど……」
『…………』
気にするべきなの、今そこじゃない。自分でも、そう思いました。
……非常に気まずい沈黙が、私たちの間に流れます。
ですが沈黙を破ったのは、獄門摩擦太郎? さんでした。
『
「そ、そうだったんですね! す、すいません、そんなこととは知らず……むしろ逆に、お騒がせしちゃったみたいで……」
『なに、気にすることはござらん。が、そのような
「えっ、あっ。私、
意外と話が分かる人……幽霊さん? なのかもしれません。
何だか急に安心したのもあって、私もついつい口が軽くなっちゃったのか、事情を説明することにしました。
「私、
『うぬぅ。ぎゃる……』
「あっ、言われても分かりませんよね。えっと、ギャルっていうのは――」
『ちょべりば、というやつであろうか』
「意外と知ってますね!? いやまあそれも、だいぶ死語ですけど!」
『
「い、いえ、いじめ、というほどではないと思うんですけど。でも……そう見えちゃうんですか、ね?」
『はてさて、拙者には何とも言えぬが。だが、そうじゃな……うむぅ』
組んでいた野太い腕を解き、大きな手を顎に当てて考え込んでいた
『少女よ……力が、欲しいか……?』
「いや本当に意外と知ってるな! 妙に変な知識に
『ふぅむ。だが先の話を聞くに、ぎゃるという
「目にものだなんて、そんな! ハッキリ断れない私が、気弱でダメなだけで……」
『今風な言い方をすれば、ギャフンと言わせたくはないか?』
「それもだいぶ古めかしい言い方ですけどね! でも言い方を変えると、なんか軽めに思えてきたな……う、う~ん、どうしようかな……」
いえ本当、ここに来ちゃったのだって、私自身の責任です。そう言ったことに、嘘はありません。だけど無理強いされて、少し、ほんの少しだけ、暗い感情がお腹の底にあるのも事実。
現に今だって、こんな目に……という私の感情が見透かされたのかは分かりませんが、彼が一言。
『まあそのせいで、
「その珍妙って、まさにあなたのことだと思うんですけど……え、ええと、じゃあ……ほんの少しだけ、ちょ~っとだけ、驚かせるくらいで……?」
『うむ、任せておくが良い! この
「ちょっとだけ、っつってんでしょうが! 少しですよ、本当に少し! 本当は恨みってほどでもないんですから! やりすぎたら承知しませんからね!」
『がっはっは!』
「聞いてんのか!」
豪快に笑い飛ばす彼に、気弱で怖がりな私とて、つい声を
というかこの幽霊さん、堂々と腕組みしている様子といい、筋骨隆々な見た目といい、なんか幽霊っぽくないんですよね。確かに半透明な部分もありますけど、むしろ生気に溢れている気がしますし。
筋肉の密度が、
我ながらとりとめのないことを考えていた、その時――女子トイレの外側から、第三者の声が響いてきました。
「うぇーい。ちょっとちょっと、遅くな~い? もしかしてビビっちゃってたり? だとしたらウケるんですけど~、キャハハッ♪」
「あっ、この声……えっと、さっき言ったギャルの子なんですけど……」
『ほほう、
「いじめられてるとまでは言ってないわ! いいですか、絶対にちょっとだけですよ、やりすぎないでくださいよ! ……返事しろですよコラ!」
私は必ずや気弱で怖がりではありますけど、あまりの不安に焦ってしまったばかりに、ついつい言葉遣いが乱れてしまうのでした……。
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