第29話 ブルードラゴンは編隊で襲ってくる

「ところでブルードラコンですが、次はいつ頃やってくるかお分かりになりますか?」

「俺は今朝、山の向こうにいる奴らの姿を見たよ。あれだと、夕方には襲ってきそうな気がするな」

 村人の一人が手を上げて、不安げな顔で話してくれた。


「教えてくださってありがとうございます。では、私達は迎撃の準備をしますので、皆さんは安全な場所に隠れていてください」

「この村には隠れる場所なんて、もうどこにもないよ……」

 汚れた服を着た年配の女性が、沈んだ声でつぶやいた。


「配慮が足りなくて申し訳ありません。これだけ建物を破壊されているのですから、安全な場所なんてありませんよね。お詫びに私が避難所を作ります。村長さん、この広場を使ってもよろしいですか?」

「もちろんです。願ってもない事です」

 村長は急いで広場から人を遠ざけた。


「許可してくださって、ありがとうございます」

 ウェンディはにっこり微笑み、広場に手をかざす。

「クリエイトシェルター」

 その言葉とともに、広場には四、五百人は入れそうな大きなドームが構築された。

 その表面は鋼鉄で覆われているから、ブルードラゴンが火を噴いても問題なく耐えられるだろう。


「この中にいれば安全です。窓はありませんが、中からは外がはっきり見えるようになっていますから、安心して隠れていてください」

「助かります。今度奴らが襲って来たら、どこに逃げようかと悩んでいましたから」

「領主様は俺達を見捨てなかったんだな。本当にありがたい」

 村人は口々にお礼を言いながらシェルターに入っていく。


「村長さん、今から救援物資の食料と水を用意しますから、中に運び入れてください」

 ウェンディはアイテムボックスから大量の食糧と水を取り出して地面に積み上げた。

「何から何まで、ご配慮いただき感謝に耐えません」

「これは公爵家が領民を救済するために行う当然の支援ですから、遠慮なくご活用ください」

 頭を下げる村長にニッコリ微笑むと、ウェンディはブルードラゴンが降下してくる小山に向かった。


 小山の斜面を眺めながら、みんなで改めて作戦を練る。

「相手はドラゴンだからな。装甲外皮は並みの攻撃じゃびくともしないはずだ」

「私の大剣でも歯が立ちませんか?」

「簡単ではないだろうな。分厚い鋼鉄を斬るつもりでかかるしかないぞ」

「そんなに堅いんですか⁉ でも、かえってやる気がでました」


 ベルは大剣をブンブンと振り回している。

 ベルとリリアの剣技は天才的だが、それでもドラゴンにかすり傷をつけられたらいい方だろう。


「アラン、降下してくるブルードラゴンをファイアーボムで撃墜できるかしら?」

「山を焼くのは避けたいから、上を通過するタイミングで撃つしかないな。連射は無理だから、一頭だけなら撃墜できるよ」

「マイクロファイアーボムなら連射できるでしょ?」

「できるけど、威力が小さいから殺せないぞ」

「片翼を吹き飛ばすだけでいいわ」


「確かに翼は外皮が薄いけど、穴があけばいい方だと思うな」

「それで十分よ。穴が開いた翼では飛べないから、みんな落ちてくるでしょ。それを地上で各個撃破するの。私がウインドカッターで動きを抑えて、アランがファイアーランスで討ち取るというのはどう?」


「良さそうだな。やってみるよ」

「私達は何をすればいいですか!」

 ベルが勢い込んで尻尾を振る。

「二人は村の入口を守って。ドラゴンが村に入らないように、衝撃波と剣で押し戻して欲しいの」


「お任せください!」

 ベルは胸を叩いて不敵な笑みを浮かべる。

「う、腕がなります」

 リリアの目もキラリと光る。


「ここに塹壕を掘るから、中に隠れてブルードラゴンを待ちましょう」

 ウェンディが土魔法で塹壕を作ると、みんなで身を隠した。この中にいれば、小山を降下してくるブルードラゴンには見つからないはずだ。

 これでようやく一息つけた。早朝に湖畔の館を出発していらい、怒涛の一日を過ごしてきたから、さすがに気疲れしている。ほんの少しでも心身を休められるのはありがたい。


「もう夕方なのね」

「山は夕暮が早いからな」

 周囲の風景を眺めてみると、太陽は早くから山の影に隠れて、村には日光が届かなくなっていた。しばらくは残照が村や森を照らしていたが、その光も次第に弱くなっていく。


「そろそろドラゴンがやって来る頃ね。ベルとリリアは村の入り口にいって茂みに隠れていて」

「「了解」」

 二人は素早く村へと駆けていき、入口付近の茂みに身を隠した。

 僕もいつでも迎撃できるようにと、手の平に魔力をためて山頂をにらむ。

 山際の空には夕焼け雲が浮かんでいて美しいのだが、それを楽しんでいる余裕はなく、いつ現れるか分からない敵影を緊張しながら待ち構える。


 辺りが薄暗くなってきた頃、村人の情報通りブルードラゴンが姿を現した。

 目を凝らしている小山の頂きから、いきなり三つの大きな影が飛び出すと、山腹に沿って滑空してきた。

 その姿は頭から尻尾の先まで二十メートルほどもある。

 翼を鋭角にすぼめて飛ぶ姿は、まるでステルス戦闘機のようだ。頭は空気抵抗を最小限にするためか細長い形をしていて、ボリュームがある胴体も無駄な出っ張りを排した流線形になっている。


 奴らは三角形の隊列を組み、先頭に一頭、その後ろに二頭が並んで降下してきた。

「アラン、先頭、右、左の順に撃って。地上に落ちたら、その順番で叩くから」

「了解」

 タイミングを見計らって待っていると、先頭のブルードラコンが平地に入る手前で減速するためにフワリと羽ばたいて浮きあがった。その瞬間、マイクロファイアーボムをそいつの右翼に撃ち込む。続いて、後ろの二頭が頭上を通過するタイミングで二発のマイクロファイアーボムを連射した。


 先頭のブルードラゴンは、片翼の付け根に命中したため肉がえぐれてバランスが取れなくなり、きりもみ状態で僕たちの後方に落下した。

 残りの二頭も翼に致命的な大穴があいて、バタバタとあがきながら村の入り口近くに着地した。


「行くわよ!」

 ウェンディは後ろに落ちた先頭のブルードラゴンに駆け寄ると、ウインドカッターで後ろ足二本の足首を切断した。身動きできなくなったところを、僕が至近距離から強力なファイアーランスを撃ってこんがりと焼き上げた。

「まずは一頭!」


 残り二頭のブルードラゴンは、ベルとリリアが剣と衝撃波を使って村に入るのを懸命に防いでいた。村に侵入されると、人家の破壊を避けるために攻撃を控えざるを得ない。

 是非ともそこで食い止めてくれ。

「二人とも上出来よ!」

 ウェンディは二人に声をかけると、予定通り右のブルードラコンの後ろに回り込んだ。


 しかし、このブルードラコンは一頭目の足首が切断されるのを見ていたようで、尻尾を振り回してウインドカッターを撃たせないように牽制してくる。

 ウェンディが苦戦していると、リリアがブルードラコンの正面から、アゴに強烈な衝撃波を撃ち込んでのけぞらせた。

「リリア、上手いぞ。もう一回!」

 僕はそいつの腹に接近して、ファイアーボムを撃つために手をかざす。


 リリアの二発目の衝撃波が再びブルードラコンを大きくのけぞらせると、僕はすかさず腹の下に潜り込み、手の平を上に向けて、「スモールファイアーボム!」と叫んだ。

 するとスーパーボール大の火球がブルードラコンの腹に食い込み、炸裂して地獄の業火でその巨体を焼き尽くした。


「さ、さすがですアランさん」

 リリアが拳を突き上げる。

「リリアの衝撃波のおかげだよ」

 ウェンディは間髪を入れず、左のブルードラコンに駆け寄っていく。

 こいつが最後の一頭だ。


 しかし、このブルードラコンは前の二頭よりも一回り大きくて、その外皮は戦車の装甲のように硬く、ベルの大剣や衝撃波を受けてもビクともしない。そればかりか、機敏に首を振ってベルを追い回し、噛みつこうとさえしている。

 ベルを守ろうと接近したウェンディは、その首にパワー全開のウインドカッターをお見舞いしたが、強靭な装甲外皮にわずかなかすり傷がついた程度でダメージはない。


 外皮が薄くて唯一ウインドカッターでも切断できそうな足首は、やはり尻尾でガードされていて攻撃がままならない。

 ベルとリリアは、衝撃波をシンクロさせて奴のアゴに撃ち込み始めたが、大半は絶妙に回避されるし、たまに当たっても大したダメージは見られない。

こいつは、前の二頭とは別格の生き物だぞ。おそらく歴戦を生き延びてきた個体に違いない。

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