第14話 山岳温泉地帯

 旅をすすめて、山の中。


 山岳温泉地帯にやって来たはいいものの、硫黄の匂いがするし、まともな道も危うい。


 ここを通るのは予定に入れていたので、用意していた古い服を着ている。


 魔物とかと戦う時に汚れたりやぶけた上着を、顔に巻いている。



「あー・・・くっせぇ!屁っこき岩っ?ありえないっ」


「まさかなぁ~・・・岩が屁をこくなんて発想すげぇなぁ。あとでメモしておこう」


 

 黄色がかった灰色の地面の範囲を抜けると、そこには山岳温泉地帯。


 ふたりで感動の雄叫びをあげる。


 絶景だ。


 白と水色の温泉地帯、『翡翠畑』。


 なんでも昔は湯が翡翠色だったらしく、今に至るに微生物の種類が変わったらしい。


 と言うより、進化して効能が上がったそうだ。


 水色をしているけど、それでも名前は『翡翠畑』とそのままだ、と聞いた。



「なにに効くんだろう?」


「たしか、リンマチ、だ。俺たちにはあんまり関係ない」


「なんだ、リンマチ、って?」


「うーん・・・温泉と言えば『リンマチ』って本で読んだ気がする」


「それって、『リウマチ』じゃねぇの?」


「ああ!そうかも。リウマチって何?」


「知らねぇ」


「・・・・・・うん!とりあえずひと探そうぜっ?」


「そうだなっ。そのひとに聞こう」


「リンマチ?」


「いや、よく分からねぇから・・・」



 山を下ると、温泉宿があった。


 効能は、『疲労回復』『美肌効果』、『特殊栄養生成』らしい。


 特殊栄養生成については、個人別におこるらしい。



「面白そうだ」


「熱すぎたりしないかなぁ?」


「そう言えばお前、全身猫舌だっけ?」


「そうそう」



「できてはんのん?」



「「ん?」」


 

 そこに現われたのは素朴に魅える不思議な美少女。


 美女だと言われれば、誰かに対しては絶世なんだろうな、と思う感じだ。



「おたくら・・・いや、いい、いい。空想しておこうっ」



「・・・は?」とアデルは怪訝にする。


「怖いーーっ」と思わず僕は叫ぶ。


「は?」とアデルがこちらを見る。


「仲を疑われているぅ」


「なに?」


「アデル、俺と関係を疑われてるっ」


「は?何?」


「はっきりと言う、あの女性、腐女子だっ」


「伝説のっ?ってことは・・・俺とお前が親友である件についてっ?」


「多分、そうっ」


「いやーーーっ、気持ち悪いぃ。俺、子持ちなのにぃ」




「ここらへんでは、妻子あるそういうのんも男のペアで来るんよ。仕事や言うて」



 通りがかりのひとが言う。


 その若い女性に僕が聞く。



「それは何の仕事?」


「仕事やって嘘ついてるに決まってるやん」


「はぁ・・・どうも」


「いい、いい、美少年の匂いかげたし」


「硫黄くさいでしょうに。なんだか申し訳ないな」



 大笑いをしながら奥に向かって歩いて行ったひとは、宿の娘さんらしい。


 案外と普通のひとに見えたけど、宿の亭主から相談を受けた。



「どうか娘を救って下さい」


 そんなことを開口一番、三つ指をついて亭主に言われた。




 ・ ―・  ――・・・・  ・―――・・




 依頼主は宿の亭主で、解決したら特別な秘湯に招待してもらえるらしい。


 とりあえず事情を聞いた。


「うちの娘は、ここいらに男っ気がないばかりに、まだ経験がないんです」


「年齢は?」


「16です」


「そんなに焦らなくても・・・」とアデル。


「16っつったら、子供できることしてもおかしくはねぇ」


「うーん、まぁ、なぁ。俺は無理だ。妻とは別れたが娘がいるからっ」


「その年で子供っ?」と亭主。


「16歳で子供できるのおかしくない、って自分でさっき言ったのに、なにっ?」


「すいませんっ・・・あの~・・・どちらが、物書きさんで?」


「俺はアデル、そっちがカイ。カイが物書き」


「そうなんです」


「あの~・・・あの~・・・急なお話ではありますが、娘とちぎりを・・・」


「本当に急な話だなぁ」


「優良な子種が欲しいので」


「ううん・・・姿もなかなか可愛いしなぁ・・・うう~ん・・・子供作ってってこと?」


「はい、できれば!」


「うう~ん・・・まずは、デートからでよければ。するかは分からないけど」


「分かりましたっ」



 そう言ってアデル同行の温泉デートを宿の娘さんとすることになった。


 そこらへんを散歩して、珍しいお菓子を買ってみたりする。


 『翡翠チョコ』はお土産にいいかも。


 食べてみると案外と普通のチョコだけど、後から来る風味がいい。



 温泉、あんまりにも熱いのはイヤだなぁ、とか思っていた。


 それを言い当てられて、彼女との話題は盛り上がりを見せた。


 普通に仲よくなって、一緒に男女兼用の見晴らしのいい温泉に向かう。



 白い岩肌に、プランクトンの関係で青く見える温泉。


 自然の作り出した段々、『翡翠畑』は何かの巣みたいに白い縁で別れている。


 ヘコみに湯が貯まっていて、その湯はなんとなく甘い香りがした。



「秘湯はもっと甘くて、お花みたいな匂いがするんよ」


「「へぇ~」」


「なぁ、あんたたち、父さんに言われて身体の相手の話されたやろ?」


「「うん。されたよ」」



 しばらく間があって、彼女は遠くの風景を見据える。


 僕たちも情緒で黙っていた。


 遠く見晴らす背の高い木の上を、鳥たちが群れで飛んでいるのを発見。


 そんな時、彼女がぽつりと言った。



「男とするのは、やっぱりイヤじゃ。綺麗なお姉さんがいい」



「「・・・はぁっ?」」



 アデルと僕は勢いよく彼女に振り向く。



「大丈夫、大丈夫、したこにしよう。こっちからの依頼じゃ」


「「・・・ああ、そう」」



「そっちもそんな関係なんじゃろ?」


「「いいえ?」」



「なんで?」


「「ううん」」



 結局のところ、『したことにして』、秘湯に浸かった。


 本当にいい温度だし、甘い花の香りがするし、数日は顕著に肌がすべすべだった。

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