第10話 巨大橋での戦い
ヴィクトリアでうわさの『ラテ』を買って、アデルはご機嫌。
他にも保存食なんかを購入した。
僕の家はなぜか経済的に妙に余裕がある。
父がもたらしたものらしいけど、英雄全盛期に謝礼を貰った分の一部らしい。
保護区を出るともらえなくなるのかな、と思ったけど、今のところ困っていない。
うわさでは、父は物書きをしていて、印税が発生しているらしい。
本屋におもむいて父の出版した本がないか探索。
するとカウンターにいた店員がそっと近づいてきて、一冊の本を示した。
「作者・・・カイト・オン・ジョニエル?父さんの書いた本っ?」
目を輝かせて顔をあげると、店員さんは「プレゼントです」とその本をくれた。
古本屋に行っていつものように取引をしようとすると、腰の剣を見た店長が言う。
「持ってる絵本を、今ここで売るな」
「ん?」
「いいから、いいから」
「村の子供達にはあながちあげておいたのに?」
「察した」とアデル。
「なに?」
「いいや、気にするな。昼食にしよう」
古本屋を出て通り横、そこに
そこからは自然と透明な石を含む場所が所々あって、魚影が見えて面白い。
巨大橋を渡れば、保護区から出たことになる。
別の世界、とも呼べるのかもしれない。
その巨大橋は大きな湖を渡すもので、その湖はひとが泳げる清潔な水だ。
何層にも広がりを魅せる碧。
なぜそんな色をしているのかは知らないけれど、怖いくらいに美しい。
そう言えば父の書いたと言う本を読みたいな、と思っていると・・・
「食事中」
と、アデルに注意されたので断念。
天候は素晴らしく目が痛くなりそうな快晴。
赤鬼灯は茂って風に揺れて、わいわいとした喧噪が少し遠目に聞こえて。
地面の透明な部分からは美味しそうに見える魚影。
アデルおすすめの額角牛のステーキを食べて、時々サラダをつまむ。
昼間からキンキンに冷えたビールで乾杯して、気分はいい。
本を荷物の中にしまって、関所を通る申請。
「カイ・ラヴィンガーデン?聞いてる、聞いてる。通ってもいいよ~」
「俺、付き添いのアデル」
「聞いてる、聞いてる~。通っちゃいなよ~」
「案外と申請って簡単なのか?」
「ん~・・・いや、よく分からない。なんか、なんかなんか」
「うん、とりあえずここを出よう」
橋を歩き出す。
ひそひそと話す。
「危ない人なのか?」
「わっかんないなぁ。とりあえず、向こう側って関所あるのか?」
「知らない」
橋はクリーム色で、天使の像とかが点在している。
植物を模した彫刻なんかもあって、花があながち立体的だ。
「なんの花だろうなぁ?」
「おい」
「植物図鑑・・・」
「おい、おいっ」
「虫眼鏡のほうがいいのかなぁ」
「おい、ってばっ」
「なにっ?」
アデルの声にやっと振り向いた僕は、目の前に魔物を見つけた。
「・・・カバ?」
「バカか!あれは多分、馬の魔物だよっ」
知ってる限り近所で見かけるカバでは、ない。
牛みたいな、って言えばよかったのか。
カバ風味が強い猛牛。
さっきステーキを食べてきたところだったので、なんだか心の端、切ない。
隆々とした人の上半身にカバ風味猛牛の頭、下半身は毛深く、前足は『腕』だ。
「カイト・オン・ジョニエルの息子、カイ・ラヴィンガーデン・・・」
「喋ったぁー!!えー!?なにっ?」
「貴様を倒せば、英雄の息子を狩ったと目立てるわい」
「目立ってどうするの?」
「『闇女:やみにょ』たちに好かれるに決まってるだろうに」
「なるほど~」
「さーてっと・・・」
腰に携えた剣を抜き、アデルは弓矢を藏之助から出して
ふたりで息を合わせた。
「「いざっ」」
走り出した僕の補助で、アデルが魔物の片足を射貫く。
うめいた魔物を捉えるに、飛び込んで飛翔気味に斬り込んで一刀両断。
戦いはすぐに終わり、その
これは不思議なことだけど、上級の魔物は、倒されると灰になる。
なぜなのかはまだ分かっていないけれど、命の決まりらしい。
父が、小さい頃に言っていた。
上級の魔物を倒したら、風を読んで呼吸の仕方を考えなさい、と。
もしかしたら魔物の灰が混じった風は、危ないのかもしれない。
向かい風の吹き方が変わったので、アデルと一緒に深呼吸をした。
「正常な空気って素敵だね」
「俺もう、ステーキ食べる気がしないっ」
・ ―――・・・―――――――・・―
まぁ、後日談になるんだけど、アデルはめっちゃステーキを食っていたよ。
あえてツッコミとかは入れなかったけど、笑い話にするために書いておこう。
アデル、あれから「カバ食べたい」って冗談欲はなくなったようだった。
この話は酒の肴にしても、いいと、思うんだ。
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