無くして 足す

 破局まではいかないが、喧嘩の末に彼女に出ていかれたと、親友が、彼女との共通の親友である俺の家に突然押しかけてきて、泣きついてきた。ちなみに俺はまだ、彼女の方からは泣きつかれてはいない。

 だからてっきり、彼女へ送るメッセージを一緒に考えてくれと言われると思いきや、親友はスマホを取り出し、彼女からのメッセージを俺に見せる。


 親友のスマホにはこんなメッセージが表示されていた。


 ――来ないで。

 ――満たして。

 ――きことのこらいがこえません。

 ――こせてよ、きこのせいい。


「これ、またお前だろ?」


 いい加減、俺が色々と仕組んでいる事はバレているから、今回もそう思われたのだろうが、俺は知らない。


「知らん」

「またまた」

「ほんとに知らんて。これは俺じゃない」

「じゃあ、誰が」


 彼女自身だ、とは毛頭考えていない親友。それは俺も同感だ。

 おそらく考えたのは、先日俺に奥ゆかしい手紙をくれた人だろう。


「お前、今度はなにしたの」

「何もしてねぇよ! ただ、サプライズがバレちまって。説明しようとしたけど、怒って出てっちまったんだよ、彼女」

「なるほど」


 俺には彼女からのメッセージの仕掛けがすぐに分かった。だから親友に、まずは自分の言葉でメッセージを打たせ、それに細工をしてから送信した。


 ――見ないで。

 ――致して。

 ――みみわけじゃなみよ。

 ――さみごまできみて。

 ――みくわけなみだろ。

 ――おまえをおみて。

 ――さぷらみずだったんだ!


 彼女はきっと、あの奥ゆかしい手紙をくれた人にこのメッセージを見せるだろう。あの奥ゆかしい手紙をくれた人なら、すぐに分かるに違いない。


「そろそろ帰れ」

「え?」

「彼女、帰ってくると思うぞ?」

「ほんとに?」


 訝りながらも、親友は自分のアパートへと戻っていく。

 まぁ、問題ないだろう。


 ――来ないで。

 ――満たして。

「こ」無いで「み」足して、だ。


 ――見ないで。

 ――致して。

「み」無いで「い」足して、だ。


 やはりやるな、あの奥ゆかしい手紙の彼女。

 いったいどんな人なんだろな。


【終】

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