お菓子配り②
双葉さんと理事長に渡してからは色んな人に渡した。でも、ありがたいことに色んな方から欲しいと言われるので、じゃんけんをしてもらったりして選別させてもらった。
全員に配ってあげたい気持ちはあるものの、作ってあるものに限りがある。
でも、今回の僕はそこまで量を作っていないので、ここは仕方なく、じゃんけんで勝敗を付けてもらわないといけない。
そんなこんなで時間が過ぎていき、4限の講義が始まるタイミングで僕は声を掛けられた。
「葉山くん!」
「あ、花里さん。こんにちは」
「こんにちは」
僕が名前をしっかりと覚えている女性のうちの一人。そして今回のお菓子を渡そうと決めていたうちの一人でもある。
なぜなら、花里さんを僕はフッてしまった。
それなのに花里さんは前と変わらずに話し掛けてくれて、僕としては本当にありがたい。告白された日はこれから疎遠のような空気になるのかなぁとか恨まれても仕方ないと思っていた。だって僕は花里さんの気持ちに答えることができなかったのだから。
だけど、花里さんはそんなことなくて普通に話し掛けてくれる。それは僕にとってどれだけ嬉しかったか。
そしてこれからも友人として過ごしていきたい。その気持ちを伝える上でもお菓子を渡して親睦を深めたい。
「あの花里さんに渡したいものがあるんだけど、いいかな?」
「渡したいもの?」
「うん。それで今更なんだけど、花里さんってお菓子とか食べれる?」
「食べれるよ」
「クッキーも?」
「うん。食べたりはするかな」
「それならよかった」
双葉さんと理事長はあんな風に喜んではくれたものの、クッキーが苦手な可能性だって全然ある。世の中にはアレルギーだって存在するわけだし。
これからは渡す前にしっかりと確認を取った方がよさそう。変に気を遣わせて、アレルギーなのに食べてしまうかもしれないわけだしね。
二人に渡す時と同じようにカバンから包装されたものを取り出して、手渡す。
「これは?」
「手作りのクッキーです。上手くできているかは分かりませんが、よろしければどうぞ」
「あ、あたしに?」
「はい。花里さんにです。お口に会わなければ捨ててしまっても構いませんよ」
「そ、そんなことするわけないじゃん!家宝にして飾るよ!末代まで絶対に残すとここに誓うよ!」
「…そんなにすごいものではないので、ちゃんと食べてくれると嬉しいです」
家宝として飾られても僕が困惑してしまうだけ。それにそんなに放置したら、さすがにクッキーから悪臭がしだすと思うし。
「よろしければ、これからも声を掛けてください。花里さんみたいに声を掛けてくださる方は珍しいので」
双葉さんがボディーガードとしている影響なのか、僕に話し掛けに来る人はそんなに多くはない。今日はクッキーという産物があったから声を掛けられることも多かったものの、普段はこんな感じじゃない。
そういう意味でも花里さんの存在は希少。相手がよければ、これからもお話して、中を深めていきたい。
「…こちらこそ、これからもあたしと話してね、葉山くん」
「はい。もちろんです」
―――――
時間は過ぎていき、今日受けるべき講義は全て終わった。
いつもだったら、このまま帰路に付くところだったが、今日は行くべきところがある。
「月森先輩は今日もテニスコートかな」
月森景都さん。僕よりも一つ年上でテニスが得意な人。最初はサークル見学のつもりでテニスコートを見に行ったところで初めて会った。あれから何度か縁あって会うことがあって、月森先輩との付き合いは続いている。
年上の方でよく話すのは月森先輩ぐらい。
なので、この仲は大切にしていきたい。
テニスコートに行くとそこにはいつも通り、練習に励んでいる姿があった。邪魔するのも申し訳ないのでひと段落するまで待つことにした。
練習風景を見ていると本当にスポーツに対して真剣に向き合っているのだとわかる。月森先輩の話を聞く感じだとサークルに所属しているものの、他のメンバーの方とはほとんど関わっていないらしい。他の方は遊び半分、真剣半分くらいの気持ちでやっている。そして月森先輩に関しては100%真剣なので、相容れないと前に言っていた。
そんなことを考えながら待っていると…月森先輩がこちらの視線を気付いて練習を止めてしまった。申し訳ない気持ちがありつつも、近付いていく。
「今日もさすがですね」
「そう?」
「すごいです。見ているだけでもすごいと分かってしまうほどに」
「そこまでじゃない。ただのウォーミングアップ」
「あれがウォーミングアップなのがすごいんですよ」
普段からスポーツをやっている人に取ってはそんな感じなんだろうけど、全然スポーツをするようなタイプじゃないのであれがウォーミングアップなのが信じられない。
「それで今日は何か用があるの?」
「あ、そうでした。月森先輩に渡したいものがあるんです」
「渡したいもの?」
「はい。手作りのクッキーを作って来たので、よろしければどうぞ」
月森先輩で最後だ。ちょうど持ってきたクッキーは全てなくなってしまった。次に作って来る時はもっと余裕が持てるぐらいに作るべきかな。
「…ぼくにこれをくれるの?」
「もちろんですよ。この場には僕と月森先輩しかいませんし」
「お金をあげればいい?」
「いらないですよ。ただ月森先輩とこれからも仲良くやっていきたいので、その想いです」
急にお金をあげると言われたのはさすがに驚いたものの、急に贈り物をされたことで疑っているのかも。
「ほんとに、タダでもらっていいの?」
「はい、もらってください」
「ありがとう。大切にする」
「あんまり大切にされ過ぎても困りますけど、そんな風に言ってくださるのは嬉しいですね」
花里さんの時も思ったけど、あんまり大切にされ過ぎると困る。でも、『大切にする』と言われて悪い気はしない。自分が作ったものにそんな感想を貰えるのは本当に光栄で、次も作ってこようという気持ちになる。
「これからも仲良くしてくださいね」
「こっちこそ、仲良くしたい」
そして僕は少し離れたところで待ってくれていた双葉さんに話し掛けて、帰路に付くことにした。
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