その35
調理実習室を出た凌順と〝ひゅん〟は階段から一階へ下りて王女と芽衣の反応がある校長室を目指す。
歩きながら〝ひゅん〟が言う。
「先に応接室を攻める」
「王女様と芽衣ちゃんがいるのは校長室じゃなかったか?」
「そうだ。そして、そこには〝あいり〟もいる」
確かに〝ひまり〟はそう言っていた。
その校長室ではなくなぜ応接室?――と首を傾げる凌順に〝ひゅん〟が答える。
「〝あいり〟がいるのは校長室。そして、応接室には〝かれん〟がいる。たぶん」
〝かれん〟はいつも応接室にいる――世界の境界から白うさぎが表示させたスクリーンで見たロクデナシたちの会話を思い出す。
〝ひゅん〟が立ち止まることなく空間投影させた学校の見取り図によると、応接室の壁にはとなりの校長室への扉がある。
校長室には〝あいり〟と王女と芽衣。
となりの応接室には〝かれん〟。
「私たちの目的は王女様と芽衣様の奪還。それを考えると校長室攻略を優先すべきだろう。しかし……校長室を襲撃した時に〝かれん〟が応援に来る確率と、応接室を襲撃した時に〝あいり〟が応援に来る確率はどっちが高いと思う?」
「〝かれん〟が来る方、かな。〝あいり〟の方が序列的には上みたいだし。上下関係を無視してもひとりでいる〝かれん〟とは違って〝あいり〟が王女様と芽衣をほったらかして応援に来るとは思えない。つまり〝かれん〟の方が身軽で動きやすい」
「私もそう思う。こっちの事情からしても応接室でやることは既知の能力を持ってる〝かれん〟を片付けるだけでいいが、校長室だと王女様と芽衣様の奪還、必要に応じて王女様への蘇霊剤の投与、そこに立ちはだかるのは能力が未知の〝あいり〟――。どう考えても校長室の方が難易度が高い。さらにそこへ応接室から〝かれん〟が応援に来ることまで心配しなければならないとなると……。先に難度が低い応接室で〝かれん〟を始末して校長室に集中する方がいい。だろ?」
同意を求められた凌順だが――。
「そもそも……だけどさ」
それが遠慮がちな口調になったのは、ここまで自信満々に開陳した〝ひゅん〟のロジックを根底から否定することになりかねないから。
「〝あいり〟が校長室って情報は信じていいのか?」
それは単に〝ひまり〟が言っていたに過ぎないのだ。
しかし〝ひゅん〟は。
「いい」
その即答に気圧されながら凌順が問い返す。
「根拠は?」
「校長室には私たちがここへきた目的の王女様と芽衣様がいる。つまり〝ひまり〟を含めたロクデナシ・サイドから見れば最も私たちに近寄らせたくない場所が校長室。嘘の情報で私たちを誘導するなら絶対に挙げない場所なんだよ」
「なるほど……」
口では納得したようなこと言う凌順だが、その表情が納得していないことに気付いた〝ひゅん〟が問い返す。
「他になにか気がかりが?」
凌順は正直に答える。
「あんまり自信がないっていうか……僕は〝かれん〟に負けてるんだよな」
王女拉致作戦を阻止できず、そうそうに失神させられたのだ。
そんな凌順に〝ひゅん〟はあっさりと返す。
「その件なら気にするな。攻略法は見つけてある」
「攻略法?」
「今から私が言う通りにしろ」
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