第5話:「月名」の音写は?

さて、次は「月名」のほうだ。


まず目につくのがこの4つ:


陬 (*tɕō)


且 (*tɕʰaʔ)


相 (*ɕaŋ)


壯 (*tɕraŋs)


これはもうサンスクリットの「c, ch, ś, cr̥」ということにした。

で、「玄」は例によって「玄黓=Mahākāla(大黒天)」の略で、流音保持のマーカー。

陽(*laŋ), 辜(*kā), 涂→徐(*la)は「lakāra=Lの音」を指すと見て間違いない。


となると残りは「陬」「且」に挟まれたこの4つ:


如 (*na)


寎 (*praŋs)


余 (*la)


皋 (*kū)


位置的に見ても、こいつらは無気音を示してるんだろう。

サンスクリットで無気音は alpaprāṇa(少ない息) か aprāṇa(息なし) で表される。

プラーナって言葉は『シン・仮面ライダー』にも出てたから知ってる人も多いはず。


で、候補は「寎(*praŋs)」「如(*na)」。

……でも「s」が余計だ。なんで?


そこで思い出したのが「月陽」のときの再構成だ。

「修 (*su), 丙(*praŋʔ), 厲 (*ras), 圉 (*ŋaʔ)」を並び替えて sparśa にしたじゃないか。

つまり「-parś-」にふさわしいのは「寎(*praŋs)」の方。


じゃあどうなったか。

誰かがこう考えたんだろう:

「月名は十二個もあるのに、十干と同じ“丙(三番目)”が入ってるのはおかしい!

月陽が十一なのに“寎”があるんだから、“丙”と“寎”を入れ替えればきれいにそろうじゃん!」


……で、実際に入れ替えられてしまった。


ならば「丙(*praŋʔ)」「如(*na)」を並べれば――prāṇa !

つまり「如月(きさらぎ)」の「如」は、実はただの「ṇa」だったわけだ。


残りは「余(*la), 皋(*kū)」。

ここで「皋(*kū)」を、字形の似ている「辜(*kā)」とすり替えてみると……

「辜(*kā)余(*la)」= kāra(〜の音) になる。

「皐月(さつき)」はつまり「辜と皐の書き間違い問題」だったわけ。


「でも alpa は? a は?」って疑問も出るだろう。

けどこれが「月名」として伝わったことを考えれば、


無気音=alpaprāṇa → 「小」alpa → 小の月(29日)


有気音=mahāprāṇa → 「大」mahā → 大の月(30日)


と意訳されて、暦用語と勘違いされて削ぎ落とされた可能性が高い。


そして「玄」。

もし本来は「大玄」だったなら、「Mahākāla」の mahā(大) と kāla(玄=黒=時間) に対応。

つまり日本語の「大黒」と同じ!

「大」が取れて「玄」だけ残ったのも自然な話になる。

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