第4話 最後の既読は、3年前でした


婚約者が死んだ。

交通事故。即死だった。


遺品整理で見つけたスマホ。

ロック画面は、私との写真。

パスワードは、私の誕生日。


LINEを開いた瞬間、息が止まった。


『下書き(1,095件)』


震える指でタップした。

全部、私宛てだった。


【2021年4月1日】

「今日のスーツ、めちゃくちゃ似合ってた。朝言えなくてごめん」

→未送信


【2021年7月23日】

「実は君のカルボナーラ、ちょっとしょっぱい。でも完食するのは、君の笑顔が好きだから」

→未送信


【2022年1月1日】

「あけおめ。隣で寝てる君に今すぐ言いたいけど、起こしたら怒るでしょ笑」

→未送信


【2022年5月10日】

「ケンカしてごめん。君が正しかった。いや、正しいとか関係ない。君を泣かせた時点で俺の負け」

→未送信


1,000通を超えた。

毎日書いていた。送らないメッセージを。


【2023年8月15日】

「プロポーズ、来月する。指輪も買った。断られたらこれ送信して笑い話にしよう」

→未送信


【2023年9月20日】

「YES!!!!!君が嫁になってくれる!!!!でもなんか恥ずかしいから送らない」

→未送信


そして、最後の下書き。

事故当日の朝。


【2024年11月8日 7:43】

「今から迎えに行く。

ていうか、これ送らないけど、実は昨日から君に会いたくて眠れなかった。

毎日一緒にいるのに、おかしいよな。


あ、そうだ。

今日こそ言おうと思ってることがある。


『君といると、まだ恋してる気分になる』


結婚しても、きっと僕は君に恋してる。

おじいちゃんになっても、たぶん恋してる。


……やっぱ恥ずかしいから、これも下書きw


じゃ、10分後に」


私は気づいた。

彼は、毎日恋文を書いていた。

送らない恋文を。

照れ屋だから、全部下書きに残して。


でも今なら、全部読める。

1,095通の、送られなかった「好き」が。


スマホがバグった。

下書きフォルダが勝手に開いて、最新のメッセージが表示された。


日付を見て、心臓が止まりそうになった。


【2024年11月9日 0:00】

「もし君がこれを読んでいるなら、

たぶん僕は、もういない。


スマホ、定期的にチェックしてたんだ。

もし48時間ログインがなかったら、

この下書きが自動で作成される設定。


君へ。


下書き、全部読んだ?

恥ずかしい。死んでも恥ずかしい。


でも、伝えたかった。

君を愛した日々は、全部下書きに残ってる。


最後に一つ、送信したい言葉がある。


『生まれ変わっても、また君に恋する。

そしてまた、恥ずかしくて下書きに残すw』


PS.僕のスマホのメモに、君への手紙がもう1,000通ある。

一生分の『おはよう』と『おやすみ』と『愛してる』を、

先に書いておいた。


毎日1通ずつ読んで。

そしたら僕は、3年は君の隣にいられる」


既読がついた。

3年ぶりの、既読。


向こうからも、読んでくれている気がした。

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