セイメイ霊園

「……きれい」 

 もうすぐ日付が変わるけど『セイメイ霊園』は丘の上にあるので私が住んでいる街がよく見える。夜に来ることなんてなかったから夜景に見とれてしまう。

 この霊園は50メートルプール2個分ぐらいの広さかな? きれいに整地されている芝生には石板が並列に置かれてて、その中に神崎家の石板もある。 

 『セイメイ霊園』には3本の大きな木が植えられていて、奥から紅葉もみじ、島すべり、そして目の前の桜が満開で明るく見える。

 ――ちょっと背中がブルブルしてきた。

 そうだよね、ここは霊園だもんね。急に怖くなってきて竹刀袋を解こうとしている香蓮先生の側を離れないようにした。

 香蓮先生が竹刀袋からアスクレピオスの杖を抜き――。

「……香蓮先生、それがアスクレピオスの杖ですか?」

「そうですよ」

 ――なんか、どこにでもある木の杖だ。

 ファンタジー映画に出るような凄い杖かと思った。あっ、香蓮先生がクスっと笑いながら桜の木を見上げた。

清明せいめいになる0時、この桜の木の下で『アスクレピオスの杖』を持って死者を念じること。これが条件です」

 ――0時?

 腕時計を確認して――って、もう0時になる!

「それでは、始めさせていただきます」

 どうしよう。今になってすごく緊張してきた!

「あかりさんはお父さんのことを強く念じてください」

「は、はい」 

 私はお父さんの遺影を胸元に寄せてかたく目をつぶる。


 ――お父さん……。


 ……真っ暗な世界に、お父さんの姿が浮かんできた。

 スポーツ刈りで、そり残しているひげがだらしなくて……そうそう、いつも似合わないパンクな皮ジャンを着てた。

 お婆ちゃんと一緒にお父さんの遺品整理をしていた時、お父さんの写真がたくさん出てきた。

 箱根はこね阿蘇あそ富士山ふじさん……自然が大好きだったという若い時のお父さんが、ひょうきんなポーズをしている。

 そして私が生まれ、くまちゃんのヌイグルミを抱っこしている私をお父さんが見守っている。眠っている私を抱っこするお父さんが目を細めている。

 まるで、写真館に飾ってある幸せな親子のスナップショットのようだった。

 夢中で写真を見ていたのでいつの間にか窓の外は暗くなっていた。窓の外にお父さんの残像が見えて涙が流れてきた。お婆ちゃんの胸の中でワンワン泣いた……。


 ――また会えるの?


 あれからお父さんが生きている世界を何度も想像した。でも、現実はそうじゃない。こうだったら、ああだったらと考えても、お父さんとはもう会えない。耐えられない事実が突きつけられるだけ。

 だから……だから、お父さんと会うことはもう叶わないんだと自分を納得させた。


 ――だけど……。


 感謝しよう、支えてもらった、前を向こう、忘れよう……色んな想いが走り抜けていったけど、お父さんのことで気持ちの整理がつくことなんてなかった。


 ――あかりさん、お父さんに会ってみますか?


 香蓮先生のあの言葉……本当にお父さんと会えるのなら、せめて……せめて最後にケンカしてしまったことを謝りたい。


 ――お父さんに、会いたい!


 杖で地面を叩く音がする。香蓮先生が何か呪文を唱えるのかと思ったけど、そうではないみたい。

 ……なんか目の前が明るくなってきた。私はうっすら目を開けて――。

「えっ?」

 ちらちらと雪が……いや、違う。粒子? 白い粒子のようなものがゆっくりと舞い降りてきて桜の木を照らしている。

「これって……」

 香蓮先生に聞こうとした時、私は目を見開いた。


 ――うそっ!?


 香蓮先生が両手で持っている『アスクレピオスの杖』を、白い蛇が螺旋らせん状に昇っていく。

 うそうそ!? こ、これは現実なの? あまりにも不可思議な光景に私は目を奪われて――。

『よお、あかり』


 ――この声……。

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