#16 まほーしょうじょ
【妖精魔法を取得しました】
アナウンスの音で、たぬまりは目を覚ました。
まぶたの裏に残る光の粒が、まだきらきらと揺れている。
「……ん?」
ステータス画面を開くと、新しい項目が追加されていた。
《まほー:きらきら》
• 効果:周囲に微細な光粒を発生させ、一定時間ごとに微量のHPを回復する
• 補足:視覚的に美しい。癒し効果あり。妖精との親和性が高い
「ゆるい……」
今のところ、たぬまりが使えるのはこの《きらきら》だけのようだ。
でも、今後増えていきそうな気配があるが、アナウンスは妖精魔法と認識しているのに魔法自体はまほーってなんだか気が抜けるなぁ。
続いて、もう一つのアナウンスが表示された。
【進化条件が満たされました】
【マモノ図鑑が進化します】
たぬまりの手元にある図鑑が、ふわりと光を放つ。
表紙の装丁が変化し、柔らかな革のような質感に。
角には金属の装飾が施され、背表紙には小さな宝石が埋め込まれていた。
ページの縁には妖精の羽根を模した模様が浮かび、開くたびに淡い光が走る。
「豪華になった……!」
進化した図鑑には、新しい機能が追加されていた。
【マモノ力ぢから】
• 概要:登録済みのマモノが持つ個性的な能力を、一時的に借りて使用できる
• 使用条件:図鑑進化後、対象マモノとの親和度が一定以上
• 使用制限:一度に一種のみ。時間制限あり
「よくわからないけど……使ってみるか」
たぬまりは、まず「きらきら」を試してみる。
手を軽く振ると、指先から光の粒がふわふわと舞い始めた。
「……おお」
空気に溶けるような光が、周囲に広がる。
花の香りと混ざって、まるで夢の中のような空間になった。
効果は今のところよく分からないが、周囲の妖精たちは大喜び。
「まじょ まほー!」
「おそろいー!」
「きらきらー!」
たぬまりの周りで、妖精たちが小躍りを始める。
「むふふ」
続いて、マモノ図鑑のマモノ力を試すことに。
図鑑をパラパラとめくり、害のなさそうなマモノを探す。
■登録マモノ:ピカリネ
種族:光虫
属性:光
特徴:小さな羽虫型マモノ。夜になると発光し、群れで飛ぶ。
生態:湿った草地や川辺に多く、昼間は葉の裏に隠れている。
性格:臆病で、音に敏感。
弱点:闇属性に極端に弱く、暗闇では行動不能になる。
保有スキル:
《ちいさなひかり》:微弱な光を放ち、周囲の視界を確保する
《群れの舞》:複数体で飛ぶと、視覚妨害効果が発生する
コメント:ちっちゃい。光る。うるさい。
「これにしよう」
たぬまりが《ちいさなひかり》を選択すると、手のひらにぼんやりとした光が現れた。
温かく、柔らかく、まるで小さな灯火のよう。
「……これ、洞窟とか夜に便利そう」
近くにいた妖精が、ピカリネに似た光を放っていたらしく、嬉しそうに跳ねている。
「おそろいー!」
「ぴかぴかー!」
「まじょ、うまい!」
たぬまりはご機嫌になって、妖精たちと一緒にくるくると踊った。
光の粒が舞い、花びらが風に乗って揺れる。
そうしていると、遠征組が戻ってきた。
「たぬまりちゃん、ただいまー!」
「女王どこだー?見つからない!」
「このフィールド、そんなに広くないのに……」
「途中で置いてきちゃったことに気づいて、戻ってきたよ」
「おかえり」
たぬまりは、光を手のひらで包みながら答える。
「女王、いなかったの?」
「うん。あちこち探したけど、姿が見えなくて……」
「でも、何か仕掛けがあるのかも。条件を満たさないと出てこないとか」
「それっぽい場所はあったけど、反応なしだったね」
「たぬまりちゃん、何か変わったことなかった?」
「えーと……図鑑が進化した。あと、妖精魔法も使えるようになった」
「えっ!?それ、すごくない!?」
「やっぱり置いてきたの失敗だったかも……」
「でも、戻ってきてよかったー!」
その後、みんなで花園をもう一度見て回ることに。
妖精たちはたぬまりに懐いていて、遠征組にも興味津々。
「ともだちー?」
「おおきいー!」
「つよそうー!」
サキが「強いよ」と答えると、妖精たちが「つよいー!」と真似して跳ね回った。
「じゃあ、女王を探します!」
たぬまりがそう言った瞬間、周囲の妖精たちがぴたりと動きを止めた。
風に揺れていた花も、ふわりと静まる。
「じょうおうさまに……あいたい?」
一番近くにいた妖精が、たぬまりの顔をのぞき込むようにして問いかける。
声は小さく、けれど真剣だった。
「え?知ってるの?女王の居場所」
「しってるよ」
「しってるー」
「みんな、しってる」
妖精たちが口々に答える。
その声は、さっきまでの無邪気な調子とは違っていた。
すると、一人の妖精がふわりと前に出る。
花びらのような羽を広げ、空中に浮かびながら、流暢な口調で語り始めた。
「魔女が会いたいなら、会わせてあげる。女王様が望んだことだから」
その言葉が広がった瞬間——
辺りが、シン……と静まり返った。
たぬまりも、遠征組も、思わず息を飲む。
さっきまでのきらきらした空気が、まるで別の空間に変わったようだった。
妖精たちは、互いに手をつなぎ始める。
小さな手と手が繋がり、たぬまりと遠征組を囲うように、大きな輪ができていく。
そして——
歌が始まった。
言葉にならない、旋律だけの歌。
高く、低く、風のように流れる声が、花園に響く。
それは、明るく愉快だったこれまでの妖精たちとは違う、厳かな儀式のようだった。
たぬまりは、輪の中心で立ち尽くす。
遠征組も、声を出せずに見守っている。
すると——
広場の中心にそびえる巨大な木が、ゆっくりと光り始めた。
幹の表面に、淡い光が走る。
枝の先まで、光が伝い、木全体が輝きに包まれる。
「……あれ」
サキが小さく呟く。
木の根元に、洞が開いていく。
光に包まれながら、ゆっくりと、中心に人影が現れる。
その姿はまだはっきりとは見えない。
けれど、確かにそこに“誰か”が立っていた。
妖精たちの歌が止む。
輪がほどけ、空気が戻ってくる。
一人の妖精が、たぬまりの前に出て、静かに言った。
「女王様がお呼びです」
たぬまりは、遠征組と顔を見合わせる。
誰も言葉を発さないまま、ゆっくりと頷いた。
そして、広場へと歩き出す。
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