第36話 結婚式当日ー控え室でのふたりー
【前書き】
いよいよ、結婚式回です。
まずは控え室シーン〜入場シーンまでの回となります。
エリックは緊張でカチコチ、エドガーは司祭服を着ていても、エリックを落ち着かせようと、わざとおちょくったり、リサは、母親の形見のリメイクしたドレスを着て、夢が叶ったと幸せを噛み締めています。
それぞれのシーンをご覧ください。
Scene 1:新郎控室 ― 司祭服を纏った“友人エドガー”
式当日の午前。
古い木の香りが満ちる控え室で、
エリックはネクタイを直しながら、落ち着かない面持ちで椅子に腰掛けていた。
そこへ扉が開き、
アルバとストラを着た司祭――ジョエル神父、ことエドガー が入ってきた。
見た目は完全に司祭。
でも口調は、いつもの友人そのものだった。
「よ、エリック。……顔、青いぞ?」
エリックはぎこちなく笑った。
「そ、そんなことない……と思う……多分……」
エドガーは正面に座り込むと、わざと大げさにため息をついた。
「お前、緊張しすぎだろ!それに、絶対今日泣くよな?しかも盛大に。
式が始まる前に脱水だけは起こすな。ほら、水飲んどけ。」
そう言って、紙コップに水を汲んで差し出す。
エリックは苦笑しながら受け取った。
「……エドガー、優しいな。」
「司祭なんだよ、オレは。癒やしが仕事。」
そう言いながら、顔には友人の悪戯な笑みが浮かぶ。
「でもまあ、冗談抜きで……緊張するのは当たり前だ。
今日の主役はお前とリサだし、しかも赤ちゃんも一緒だ。」
エリックの喉が詰まり、胸が熱くなる。
エドガーは静かに続けた。
「心配すんな。式の進行は全部オレが支える。
お前は“リサが綺麗すぎて呼吸止まりそう”ってだけ考えてればいい。」
「……君って……なんで、僕のことそんなにわかってんだよ……」
「お前の顔に書いてあるんだよ。『絶対泣く』ってな。」
エリックは苦笑するが、実際、目が少し潤んでいた。
(……エドガーが司祭で良かったな……
安心してリサを迎えられる……)
⸻
Scene 2:花嫁控室 ― マーガレットの涙、リサの微笑み
一方その頃。
白いカーテンと柔らかな光に包まれた花嫁控室。
リサは鏡の前で、ドレスの裾を整えていた。
そこへ、エリックの母・マーガレットがそっと控え室へ入ってくる。
「リサ……まあ……なんて綺麗なの……」
マーガレットは思わず胸元に手を当てる。
「ありがとうございます。これは……母のドレスをリメイクしたんです。」
ドレスのレース部分には、
亡きカミラが縫った花びら模様がそのまま残されていた。
マーガレットはそっと近づき、ドレスの刺繍を撫でる。
「……カミラさん、とても喜んでるわ。
あなたがこんなに綺麗に着てくれるなんて。」
リサは微笑む。
「私も……今日着れたことが、本当に嬉しくて。」
スタッフも思わずため息を漏らした。
「リサさん、本当に素敵です。
お母様のドレス……とてもあなたに似合っています。」
その言葉に、リサの胸がじんと温かくなる。
その時——控え室の扉がノックされた。
「リサ、入っていいか?」
父・グレイの声。
「どうぞ。」
グレイが入り、娘を見た瞬間、
一気に目元が赤くなる。
「……リサ……カミラのドレスを……」
「うん。少しだけ、私に合うようにしたよ。」
グレイは娘の手を握り、喉を震わせながら言う。
「……お母さんも綺麗だったよ。
でもな……リサ、お前もちゃんと似合ってる。
取っておいて……本当に良かったな。」
リサの瞳が潤む。
(お父さん……ありがとう……)
お腹の赤ちゃんがぽん、と小さく蹴った。
「……ふふ、聞こえてた?」
⸻
Scene 3:出発の直前
スタッフが小声で告げる。
「リサさん、お時間です。」
リサは深く息を吸う。
マーガレットがそっとベールを整えた。
「行ってらっしゃい、リサ。」
「はい。」
グレイが娘の手を取り、
扉の前に立った。
「さあ、行こう。エリックが待ってる。」
「うん、お父さん。」
扉の向こうには光が広がっている。
(エリック……今行くね)
Scene4:新郎入場 ― 静かな緊張と胸の高鳴り
チャペルに柔らかなパイプオルガンの音が流れはじめた。
ゲストたちが静かに立ち上がる。
祭壇の中央には、司祭衣を纏ったエドガーが落ち着いた面持ちで立ち、
その横にエリックが一歩踏み出した。
胸の奥が熱くなる。
息が浅くなり、足元が少し震える。
(……始まるんだ)
エリックはゆっくりとバージンロードを歩いた。
朝の光がステンドグラスから差し込み、
揺れる光がスーツの肩をそっと照らす。
司祭席の前に立つと、エドガーがわずかに横目で笑う。
「……だから言っただろ。泣くの早いって。」
小声の囁きに、エリックは困ったように笑った。
(でも……泣きそうなんだよ。だって……)
胸の奥の鼓動はどんどん強くなる。
エリックは祭壇の前で深呼吸し、
これから歩いてくる“ひとりの人”を待った。
⸻
✨ Scene5:花嫁入場 ― 光に包まれるリサ
花嫁控室の扉が開く。
リサは父・グレイと腕を組み、
静かにバージンロードの手前へ進んだ。
オルガンの音色が、まるで彼女の一歩一歩を支えるように響く。
白いベールの奥で、リサの目がそっと潤む。
(……エリック。いま、行くね)
父の腕の温もりが心を落ち着かせる。
グレイもまた、娘の成長をかみしめるように唇を噛んでいた。
【後書き】
お読みいただきありがとうございます。
結婚式とレセプションのシーンは続きますが、あと、5〜6話くらいで、恋愛〜結婚編は第一部として、一度完結します。
その後は、作成中です。
第一部はあと、もう少しですが、頑張ります!
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