第24話
森の奥。
倒木に囲まれた小さな空間に、ぽつりと残された石造りの台座があった。
そこには、古びたノートと散乱した道具が置かれている。
「これは……」
ノエルが駆け寄り、震える手でノートを開いた。
紙はところどころ黄ばんでいたが、びっしりと文字と図が書き込まれている。
魔法陣の設計図、転移の理論、そして未知の存在に関する記述。
「間違いない……師匠の字だ」
ノエルの声は震え、瞳は潤んでいた。
ユウはそっと彼女の肩に手を置いた。
「生きて……ここまで辿り着いていたんだな」
カイが周囲を見渡しながら低く言う。
「だが、姿はない。……この先に進んだのか?」
ガロウがノートを手に取り、慎重にページをめくる。
「……ふむ。やはり“転移”を研究していたようだな。
この森そのものが、別の世界への門である可能性が高い」
「別の……世界……」
ユウがつぶやくと、ガロウは険しい顔を向けた。
「ただの学問的興味ではない。ここには“封印”に関する記述が残されている」
ユウたちは息をのむ。
ガロウは一節を指でなぞり、読み上げる。
「――“封印は歪みの中心にあり、解けば世界を揺るがす。
されど、完全に閉じたままでもまた、均衡は崩れる”」
「封印……均衡……」
ユウは手紙を握りしめた。
「じゃあ……俺たちが進む先には、本当に……」
ノエルは涙を拭い、強い目でノートを見つめる。
「師匠は……真実に触れようとしてたんだ。
だったら、私も最後まで見届けなきゃ」
カイが頷く。
「なら進もう。師匠が残した足跡を辿るんだ」
ガロウは静かにノートを閉じた。
「だが気を抜くな。この研究を追う者は、お前たちだけではない」
ユウは強くうなずき、仲間と共にさらに森の奥へと足を踏み出した。
森の奥で研究痕跡を探っていたユウたち。
その静寂を裂くように、黒衣の刺客たちが現れる。
「やはり追ってきたか……」
ユウは剣を抜き、仲間の前に立つ。
先頭の刺客が冷笑する。
「手紙を差し出せ。お前たちが抱えている限り、さらなる災いを招くことになる」
ガロウが前に出て低く返す。
「何度聞かされても答えは変わらん。ユウはこの旅を通じて成長してきた。その証を奪わせはせぬ」
ノエルは小声でユウに囁く。
「やっぱり……黒衣の影も本気で止めにきてる。ユウ、どうする?」
ユウは深呼吸し、手紙の入ったポーチに触れる。
「……戦うしかない。
でも、守るために。届けるために」
刺客たちは一斉に飛びかかり、剣と魔術が森の夜を照らした――。
人数は少ないが、奇襲の鋭さに息を呑む。
「……来たか!」
ユウが剣を構える。
ノエルは魔法陣を展開し、カイは獣の力を解き放つ。
戦いは短時間で終わったが、全員に小さな傷が残り、息も荒い。
「くそ……数は少なかったのに……消耗が激しい」
カイが拳を握る。
ノエルも肩で息をしながら呟いた。
「彼ら……前より動きが整ってた。きっと訓練されてる」
ユウは剣を見つめ、震える指を握り直す。
「黒衣の影……本気で俺たちを止めに来てる」
ガロウは静かに頷いた。
「ここから先が正念場だ。油断すれば命を落とす」
その言葉を皮切りに、重苦しい空気が漂い始める。
小規模な戦闘を終えたばかりのユウたちの前に、さらに森を震わせる気配が広がった。
現れたのは、これまでの刺客とは比べものにならない存在。
黒衣の影――その中でも特別に強大な者だった。
「……っ、空気が……重い」
ノエルが後ずさる。
カイが牙を剥き出すが、その目にも恐怖が揺れていた。
「さっきまでの奴らとは格が違う……!」
ガロウは静かに一歩前へ出る。
「そうだ。これは“幹部格”……お前たちにはまだ早い」
ユウが声を上げた。
「でも、師匠一人じゃ――!」
「違う。お前たちだからこそ、ここを抜けねばならん」
ガロウは剣を抜き放ち、背中を見せた。
「ユウ、ノエル、カイ。今は進め。立ち止まることが一番の危険だ」
黒衣の影が低く嗤い、闇を纏った刃を構える。
その殺気に、ユウの足がすくみそうになる。
ガロウは短く叫んだ。
「行け!」
ユウは歯を食いしばり、仲間を振り返る。
「……師匠を信じよう。今は進むんだ!」
三人は森の奥へと駆け出す。
背後では轟音が響き、ガロウと黒衣の影の激突が闇を切り裂いていた――。
森をひた走る三人。
背後から響く轟音は、ガロウと黒衣の影の激突を物語っていた。
振り返れば、すぐにでも戻りたくなる。だが――ユウは走り続けた。
「……止まるな! 師匠の言葉を忘れるな!」
自分に言い聞かせるように叫ぶ。
木々の密度が次第に薄れ、やがて視界が開けていく。
夜闇の中に浮かび上がったのは、古びた石造りの構造物――崩れかけた壁、苔むした柱。
長い年月に埋もれた研究施設の跡のようにも見えた。
ノエルが息を呑む。
「……ここ……師匠の痕跡を探していた場所と似てる……」
カイは鼻をひくつかせ、低く唸る。
「ただの廃墟じゃねぇ……奥に、何かが眠ってる」
石畳に刻まれた紋様が淡く光を放ち、足を踏み入れた瞬間、ひやりとした空気が肌を撫でた。
まるで森の外――別の領域に入ったかのような錯覚。
ユウは剣を握りしめながら、胸のポーチを確かめた。
「……封印の地に近づいてる。間違いない」
風が止み、静寂が訪れる。
三人は息を潜めながら、石造りの回廊を進んでいった――。
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