第8話


氷の祠に、打ち合う音が響いた。

氷の剣と氷の剣。

ユウとカイは互いに斬りかかり、弾き、また構える。


――力ではない。心を合わせろ。


氷狼の声が響く。


「心を合わせる……って言われても!」

カイが叫ぶ。


「考えるより動け!」

ユウが前に出る。


しかし、動きがずれた瞬間、カイの剣がユウの腕をかすめた。

「いってえ!」

「わ、わりぃ!」


氷狼の尾が振り下ろされ、二人はまとめて転がされた。


――未熟。仲間を傷つける心で、何を守れる。


ユウとカイは歯を食いしばり、立ち上がる。



夜。祠の中に小さな炎を灯し、二人は肩を寄せ合って座っていた。


「オレ、つい突っ走っちまうんだよな……」

カイがぽつりと漏らす。


ユウは少し笑った。

「うん。わかってる。

 でも、その勢いに助けられるときもある」


カイが目を丸くした。


「だから、今度はぼくも合わせる。

 二人で一つの動きにすれば、きっと……」


言葉を最後まで言わずに、ユウは焚き火を見つめた。

カイは照れくさそうに鼻をこすった。



翌日。

二人は再び氷狼に挑んだ。


剣を構える。

息を合わせる。


「行くぞ、ユウ!」

「うん、カイ!」


二人の動きが重なった瞬間、剣が光を放ち――

氷狼の巨体を押し返した。


――よし。少しはマシになったな。


狼の瞳に、わずかな笑みが宿った気がした。


氷狼は二人を見据えた。


――協力の芽は出た。だが、まだ脆い。

 お前たち自身が強くならねばならぬ。


狼の声が響く。


「個々に……修行するってことか?」

カイが眉を上げる。


――そうだ。少年ユウ。お前は心が揺らぐ。

 迷いを断ち切る強さを学べ。


ユウは胸を突かれたように息をのむ。


――そして獣の子カイ。お前は勢いに任せる。

 己を律する力を得よ。


カイは苦笑した。

「図星だな……」


ユウは氷狼に導かれ、祠の奥へ。

氷の壁に映し出されたのは――

自分自身の影だった。


――お前は恐れている。失敗を。孤独を。


影のユウが剣を構える。

本物のユウは唇を噛み、氷の剣を握りしめた。


「ぼくは……負けない!」


氷の祠に、剣戟の音が響く。


一方カイは、氷狼の尾に導かれ、凍る滝の前に立っていた。


――お前は速く、力強い。だが、その刃は仲間も傷つける。


滝の水流が氷の刃となって降り注ぐ。

カイはそれを全て受け止めようと構えた。


「くそっ、止まれぇ!」


だが力任せでは防ぎきれない。

氷の刃に押され、膝をつく。


――心を鎮めろ。刃を導くのは怒りではない。


カイは荒い息を吐き、目を閉じた。

滝の轟音が次第に静かに聞こえてくる。


一呼吸。

氷の刃を、すべて受け流した。


「……やった」

カイの口元に、初めて落ち着いた笑みが浮かんだ。


氷の祠に再び集うユウとカイ。

互いの顔に疲労はあったが、その目は力強く光っていた。


氷狼がゆっくりと立ち上がる。

白銀の毛並みが光を反射し、祠全体を照らす。


――よくぞ己を見つめた。

 だが最後に示せ。力と心を合わせ、我を超えてみせよ。


空気が震えた。

氷狼の姿がさらに巨大化し、牙と爪が氷そのものと化した。


「おいユウ……これ、本気だぞ!」

「うん。でも、今ならできる!」


二人は氷の剣を握り、同時に駆け出す。


爪が振り下ろされる。

ユウが迷いなく飛び込む。


「カイ、今だ!」


「任せろ!」


カイは冷静に狼の足へ滑り込み、剣を突き立てる。

動きが止まった瞬間、ユウが渾身の一撃を放った。


がぎん――!


氷の祠に鋭い音が響き渡る。

巨大な氷狼の体が揺れ、やがて静かに座り込んだ。


――よし。合格だ。


声は、もはや優しさを帯びていた。


「やった……!」

ユウとカイは肩で息をしながら笑い合った。


氷狼は尾を振り、二人の前に氷の結晶を落とした。


――これは“極光の欠片”。北の道を進む力となろう。


ユウはその結晶を両手で受け取った。


「ありがとう……!」


――旅を続けよ。少年たち。真実は、お前たち自身の剣で切り拓け。


氷狼の姿は光に包まれ、祠の奥へと溶けていった。


残されたのは静寂と、二人の新しい力。


北の旅路は、さらに深い闇と光へと続いていく――。

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