『ダウナー系男子・桜井君とルミ姉さん』

 はあ⋯⋯。


 良い! 良いよお!

 黒服のバイトで入った新人、桜井君。


 あの端正なマスク。

 細くて長い指。その先に煙草。咥える薄い唇。長いまつ毛。すっと通った鼻先。顔を隠すくらいの長い黒髪。切れ長の目元から垣間見える瞳。


 あの虚ろニヒルな瞳で見つめられたい!


「ふぅ⋯⋯」


 ああもう、あの唇から放出される煙に直接くゆられたい! 燻して! 燻しちゃって!


 ちら。


 ぎゃー!! あのゴミムシに唾でも吐きかけるような蔑視の視線がたまんない! いっそなじって! 叩き付けて突き刺すような言葉で私をなじって!


 ちっ。


 あ、だめ! その舌打ちは反則! もうだめ! お姉さん昇天しちゃうよおおお!? こんなところで昇天しちゃったらただのお変態さんだかんねえぇ!?


「ねえ君、桜井君だっけ?」

「⋯⋯はい」

「アタシのこと見てたっしょ」

「いえ」


 やっぱり良い男は良い匂いがするのぜ!


「ええっ!? 絶対見てたよ! いやま、別にいいんだよ? 君も男なんだし!」

「⋯⋯」


 ほら、見たっていいから嗅がしてくんない!?


「あ、キャバ嬢バカにしてる? してるよね、その目つき!」

「生まれつきスよ」


 ああ、良い。ガン見して!


「ところで桜井君は彼女とかいんの?」

「ルミ姉さん、仕事してください」

「何よ、つれな〜い!」


 とか言って頭コツンてしながら嗅ぐ!

 スンスン。


「嗅がないでください」

「ちょっとくらいいいじゃない、ケチねぇ」

「ちょ、変なとこ触んないでください」

「あら、そんなこと言って、そんなに嫌じゃなさそうね?」

「⋯⋯」


 若いわねぇ。

 まあ、こんなオバちゃん相手にしてくんないか。


「ルミさんは嫌、じゃないス」


 っ!?

 えええええっ!? て、それ、どーゆー意味!?


「何言ってんの、オバちゃんを誂わないでよね!」

「ルミさんこそ誂わないでください」


 ふにゅん⋯⋯///


「⋯⋯」

「俺、男スよ」


 知ってるわよ! それって、女として意識してるってこと!?


「それに28歳はオバちゃんじゃないス」

「じゃあ、今晩どう?」

「⋯⋯」


 ほら、ダメじゃない。期待するからやめてほしいな。でも、そう言ってもらえると嬉しいけどね?


「冗談ならやめてください。俺、本気にしますから」


 ふぎゃ!


「⋯⋯」

「⋯⋯」


 何よこの間! こっちが本気になるから!


「本気にしてくれると、嬉しいかも⋯⋯」

「⋯⋯」


 !?

 手! なんで握ってくんの!?

 あ。


「何これ⋯⋯?」

「連絡⋯⋯ください」


 電話番号。


「俺、もう上がりなんで」

「あ、うん、お疲れ」


 ⋯⋯これ。


 かけても⋯⋯いいよね?





      ─了─




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