第19話 今日はフラれ日和

「 美空みそら!!とうとう卒業だね!!」


親友の皐月さつきが抱きついてきた。


「そうだね、皐月と一緒の大学なの嬉しい」


あ、橋口せんせー。

先生を見ていると皐月に背中を押された。


「あたしなんかより担任と話してきなよ!

もう、みんなのはしぐっちゃん

じゃなくなっちゃうんだから!」


皐月……


「ありがとう!」


わたしは先生の前に出る。


「せんせー、結婚おめでとう」


笑いかけると、橋口先生は

照れ臭そうな顔になる。


「ありがとな、春野も卒業おめでとう」


その顔はとても幸せそうで。

胸がギュッとなる。


「せんせー、結婚ってマジ??」


先生の周りにクラスメイト達が集まる。


「あぁ。ホントだよ」


わたしは先生からそっと離れた。


ずっと、好きでした。

あなたは先生という立場で

わたしは生徒。

だけど、好きになってしまった。


太陽みたいな明るさも、

月みたいに静かに見守ってくれる優しさも

星みたいなキラキラの笑顔も

好き。大好きだった。


もう、この恋は終わった。

叶わない恋は終わった。


でもね

先生にちゃんとフラれないと

終われない。


「えっ!!告白する?!」


皐月にこのことを話すと驚いた顔をしていた。


「なんで?まさか浮気??」


「違うよ、ただ自分の中でちゃんと

区切りつけたいだけ」


すると皐月は「なるほどね〜」と頷いた。

「いいんじゃない?そうする方がスッキリするんでしょ?あぁ、なんて悲しい恋なのっ!」


皐月が空を仰ぐ。


「そうする!」


わたしは青空を見上げた。


「せんせー、話したいことがあるの」


夕方、先生を呼び出した。


「なんだ?こんな時間に」


「私ね」


長い沈黙。

それから口を開き

「せんせーのこと好きだったんだぁ」と

笑った。


先生は驚いた表情になる。


「えっ」


「びっくりしたよね。

今日はフラれにきたの。奥さんと別れさせようとか

思ってないから安心して」


にっこり笑う。


「春野は俺のことが好きだったのか?」


先生が申し訳なさそうな顔をした。


「うん」


「ごめん、俺、奥さんが好きなんだ。

だから」


分かってるよ。

早く私をフッて?


先生はギュッと目を瞑り

「本当にごめん」

と謝った。


「これで、やっと次の恋に進めるよ」


わたしは階段を降りて校庭に出た。


「せんせーのバカヤロー!!!」


空に叫ぶ。

せんせー、

不幸になんてなったら許さないんだからね

絶対幸せになってみせてよ。

これで終わり。

バイバイ、せんせー。


夕焼けがとても綺麗で、

「今日はフラれ日和だな」と

思わず呟いた。





(終わり)

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