第33話 素直になりたくてもなれない自分が悔しい

 学級委員長を務める優等生の藤堂 珠瑠が、地球がひっくり返ったではないかというくらい席に座っていない。クラスメイトたちはどうしてここにいないかを大体が知っている。担任の先生が、出席簿を広げて読み上げる前に藤堂 珠瑠がいないことを不思議に思う。


「おはようございます。あれ、今日は学級委員長はお休みですか? 嘘でしょう。皆勤賞で休んだことないのに、なんで? いじめでもあったのかな。ねぇ、みんな、何か分かるかしら?」


 机の脇のフックには藤堂 珠瑠の通学バックがしっかりと掛けられている。クラスメイトたちは先生の言葉にある一点を沈黙のまま、見つめた。注目の的は黒板とは反対側の一番後ろに座る。寝ぐせたっぷりの脳内花畑の堀内耀汰だった。


「えーー? 俺? 俺は堀内耀汰ですって。みんな、何をじろじろと見てるのよ」

「おいおい。みんなで何でお前を見てるのか気づかないってもっとよく考えろよ」


 瑛斗は立ち上がって返答する。みんなはリズムよく同時に何度も頷いて見つめた。


「ハハハ、俺の彼女のことっすか??」

「まだ正式に決まってないだろ?」


 調子に乗る耀汰に鋭いツッコミをする瑛斗がいた。担任の先生は、眼鏡をくいっとあげて、じっと耀汰を見つめた。


「それじゃぁ、堀内耀汰くん。貴方は、藤堂 珠瑠さんのことを知ってるってことかしら?」

「教室に連れてくればいいってことですよね。お待ちくださいませ~」


 どこにいるかも分かるはずもないのに、任されたと勘違いする耀汰は、HRを抜け出して耀汰は珠瑠を探しに向かった。思い当たるところは、女子トイレ、図書室、保健室だと推理する。れっきとした男子である耀汰は、女子トイレは確実に中に入れない。ギリギリ可能なノックと声掛けで反応しなければいないと判断した。あちこちかくれんぼしてるように、声を掛けて探す。見つからないからと諦めることはしない。珠瑠に認められた気がした瞬間だ。これを逃したらいけない気がしてきた。


 屋上の重い扉を開けると、冷たい風が頬を打った。カラスがバサッと翼を広げて、飛んでいくのが見える。フェンスに寄りかかり、外の景色をじっと見つめる珠瑠の姿があった。その姿を見て、耀汰はまさか飛び降りてしまうんじゃないかと想像してしまい、慌てて駆け出そうとするが、制服の裾にひっかかり、思いっきり転んだ。思いがけず、屋上の床に鼻をぶつけてしまった。

 変な物音に気付いた珠瑠は、後ろを振り返って、そっと耀汰に近づいた。


「……大丈夫? 鼻、けがしてるじゃない。ちょっと待って」


 ポケットに入れていた小さなポーチの中から絆創膏を取り出して、耀汰の鼻に貼ってあげた。


「あ、ありがとう。びっくりしたよ。そこから、飛び降りると思ったからさ」

「……あー、あそこにいたから?」

「そう」

「ごめん、そんなつもり全然ないよ」

「……そうなら、良かった。マジで安心したわ」


 すっと胸を撫で下ろす耀汰に珠瑠の心臓は高鳴った。純粋に心配してくれていたんだと思うと、胸が苦しくなる。本当に大事にしてくれるのかもしれないと少しだけ信じられる気がした。耀汰はえくぼを作り、珠瑠の元気そうな顔を見て安堵した。


 珠瑠の両頬が赤く染まっていくのが見えた。

 

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