第6話 放課後の三角関係

 蒸し暑い体育館で部活動バスケに夢中の耀汰と瑛斗、その他の部員たちは休憩の合図であるホイッスルが鳴ると、全開にした扉の前に移動した。タオルで顔中の汗を拭いて、氷がたっぷり入ったスポーツドリンクを飲み干す。


 双子の後輩女子たちがチラチラと休憩する耀汰を見つめる。黄色い声援が沸き起こる。


「きゃー、かっこいい!!」

「ねぇねぇ、今の良いよね?!」


 タオルから顔を覗かせた瞬間にジャンプして喜んでいる。横にいた瑛斗が試しに顔を拭いても何も反応しない。かなりがっかりする瑛斗がいた。


「おいおい、まさか。お前を見て、きゃーきゃー言ってるのか?」

「え? 何のことよ」

「またまた、こんな近い距離で騒がれているのに気づかないってか」

 

 耀汰はわざとらしく前髪をかき上げた。すると過剰反応する双子の女子は両手で顔を隠すくらいに興奮している。


「マジかよ。めっちゃ、ノリノリじゃんか……」

「……おいおい。マジか?」


 瑛斗の隣にいた3年キャプテンの長谷川 健二はせがわ けんじがまさかの出来事に持っていたタオルを落とすくらいだった。


「キャプテンも驚きっすよね。俺もしばらく開いた口が塞がらないっすよ」

「……瑛斗、女子はあの二人だけじゃないからな。気にすんな」

「で、ですよね。35億人?」

「違う、それは男の数だ」

「……あ、そうでした!」


 長谷川 健二は両手のひらを上に向けて、ため息をついた。


「メンヘラ王子か……もの好きもいるもんだな」

 ボソッとつぶやく。


「キャプテン! ナイスネーミングですね。さすがっす」

「だろ? あいつの精神状態は女子よりもきついわ」

「……俺はだんだん慣れてきましたけどね。大変っすよ」

「耀汰のことは任せたぞ。瑛斗!」


 背中をバンバン叩かれる瑛斗は冷や汗をかきながら、笑う事しかできなかった。

 そうしてる間にも黄色い声援を送られた耀汰は双子女子に近づいて、クラスはどこかと確認を取っていた。ナンパに近い状態だ。喜んで答えていた二人だったが、話できたことに満足して早々と立ち去っていく。もっと会話を広げたかった耀汰はそれだけでかなり落ち込んでいた。ずんと肩を落として歩くにもままならない。


「……俺のファンって本当は嘘じゃないのかな……」

「おいおいおい。耀汰!」

 

 瑛斗はすぐに落ち込む耀汰の肩に腕を回して慰める。


「もう、救ってくれるのは瑛斗だけだよ。一生、そばにいて」

「それは、無理。俺、そういうの受付してないから」

「……ケチ」


 返事を分かっての会話に本当は構ってくれて嬉しい耀汰だった。


「瑛斗、部活終わった??」


 体育館出口で待っていたのは瑛斗の彼女である琉凪なぎだった。手を振って大きな声で近づいてくる。


「あ、ああ。もうすぐ、終わるよ」

「良かった。ずっと待ってたからさ。そろそろかなっと思って」

「がるるるる……」


 狼のように噛みつこうとする耀汰は瑛斗の腕をつかんで離さない。琉凪は変な人がいるなと呆れて、そっと後ずさりする。


「ライバル登場ってことかよ。まぁ、落ち着けよ。琉凪、悪いな。今日、耀汰も一緒に帰るからな」

「あー、うん。分かった。いつものことだから、気にしないよ、


 本当は二人っきりで帰りたい思いがあったが、わざと分かりやすいように耀汰を睨んで強調する。耀汰はしゅんと耳をさげて、小さくなる。


「はいはいはい」


 二人の頭をそれぞれ撫でる瑛斗がいた。まるで二匹の犬を飼っている気分だ。

 

―――星空が輝き始めた薄暗い満月の下、遠くで犬の遠吠えが聞こえていた。今日も三人は他愛もない会話をしながら、家路を急ぐ。








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