仕事を辞めないという選択肢は元々ない
元々、入社前から同期友人家族親族には「俺はすぐ辞める」と話していた。何かの間違いで職についてしまっただけなのだと。
数ヶ月で辞める予定だったのだ。そう公言していた。が、世の中は数奇なもので気づいたら17年半が経っていた。同期も随分と減ってしまった。
金なんか下らねー仕事なんか下らねー無職の方が偉いんだー働く奴はアホー
そう公言していながら、17年働いて年収が1000万円ほどになっていた。大企業の恐ろしさである。
流石にそろそろ辞めなくてはいけないとわかっていた。「口だけ無頼を気取りながら大企業に寄りかかる」というのもいくらなんでも長すぎて恥ずかしい。
しかしなんかどーも職場から恩義や期待を受けることが続いて、辞めるに辞められず、「あと一年、あと三年…」とズルズル来ていた。今回のことは良い潮だったのだろう。41歳。死ぬ準備を始めるにはいい時間帯だ。
あとすこし子育てをして、家事をして、家を出て、1人になり、野垂れ死ぬ。理想の生き方だ。
または気に食わない奴らを始末して縊り殺されるか。
まー、たとえば山でアンモナイトの化石を掘り、リヤカーで小学校の前で子どもたちに売り捌くとか、そんな仕事がしてみたかった。できないだろうけど。
父方の祖母は42で死んだ。あと1年。
母親は47で肝硬変が見つかり、54で死んだ。あと13年。
母親は「もー十分長生きしたよ」と言っていた。そうだろうと思う。自分の親を看取れさえすれば、俺と弟の成人を見届けれさえすれば、母は満足だったのだ。
20代の頃から、「50で死ぬ」と公言して友人らから諌められていた人なのだ。
俺の人生は大きく寄り道をしてしまった。作らないはずな家族、しないはずだった仕事…すべては幻で、俺は1人に戻る。
古ぼけて湿気のすごいアパートの天井を見上げる。節だらけの天井板が人間の顔に見える。古本屋のワゴンから5冊100円で救出したボロボロの古本に手を伸ばし昼間から読む。夜に近くの中華料理屋で餃子とライスを頼んでたまの贅沢。
男が死ぬときは1人だろう。もしかしたら拘置所かもしれない。斬り合ったり、顔面を踏み潰されて頭蓋骨陥没で死ぬのも男の死に方だろう。
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