幸せの残響 ー透明な証ー
雨宮 悠
時の置き去り
気づいたら、世界のどこにも影はなく、
私は虚空の透明人間になっていた。
なんて呆気ないんだ…
こんな風に時に置いていかれるなんて。
最後に何をしていたのか、どうして死んでしまったのか思い出せない。
ただ一つの心の残りは、伝えられなかった後悔と伝えたかった言葉だけ…。
毎朝貴方の姿を眺めているのに、
目の前にいる貴方には何も伝えられず…
私だけが時の中に囚われている…。
嘆く私の前に、一冊のシンプルなレターセットと一本の真新しいペンが落ちてきた。
神の配慮なのか、はたまた慰めなのか。
突然の事に暫く、私はそのままレターセットとペンを眺め続けていた。
手を伸ばしても砂を握るように零れ落ち、何も残らない現実。
その砂に心までも埋め尽くされ、まるで砂像のように立ち止まったまま、流れる時を待つしかなかった。
ふと我に返った。
これが、時の狭間にいる私の最期に許されたチャンスなのかもしれない。
ペンに触れた瞬間、手は確かに温もりを感じ、掴んでいた。
次の瞬間、胸の奥に溜まった砂が、砂時計のように留めどなく流れ出した。夜空の星屑のように舞う砂は紙へ溶け込み、星々の輝きを帯びながら、大切な貴方へ贈る永遠の手紙を紡いでいった。
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