貴族の実像・4

『これにて一件落着でち』


 メリーがパンパンと手を叩いている横で、カネモウケ伯爵達が積みあがっている。

「いやぁ……」

 やりすぎだろ、と思ったが。

『どうせ三ヶ月後には皆がこうなるでち。早くなるか遅くなるかだけの違いでちよ』

「そんなことを言ってもなぁ」

『クレアにしても同じでち』

 メリーが金貨などを袋に詰めている。

 いや、これ、俺達、完全に強盗なんだが……


『じゃあ、これはいらないでちね? クレアは衰弱し、一週間後か一ヶ月後には死ぬことになるでち』

「くっ……」

 選択の余地はないということか。

『とはいえ、薬屋などもこのご時世でち。空いているかどうかは何とも言えないでちね』

 三ヶ月後には人類が滅亡するとなれば、まともに商売などしていても仕方がない。

 店を閉じて遊んでいるかもしれないというわけか。

『そういうことでち。酒場だけが盛況しているでちよ。嫌なことを酒で忘れる。よくあることでち』

「……薬屋がやっていないと困るな」

『ま、それならそれで仕方ない。薬屋に押し込んで奪い取れば良いだけでち』

「待て、待て、待て」

 このままメリーに主導権を握らせていては、どんどん悪い方向に進んでしまいそうだ。


 とはいえ、薬がないとクレアは良くならないから、薬屋に行くしかない。

「もし閉まっているなら、対価は置いていこう」

 メリーが奪い取った金貨や銀貨が沢山ある。

『おまえも変なところで苦労するでちね。ま、別に構わんでちが』

 実際、薬屋は空いていない。

 ただ、酒に走っているわけでもないようだ。

『あ~、薬を沢山飲んで現実逃避しているでちね』

「現実逃避?」

『薬も飲みようによっては、幻覚を見たり、楽しくなったりするようでちよ。アタチのようなハイクラスの魔族には分からないことでちが』

 とか言いながら、メリーは薬のことは色々分かるらしい。

『おおっ! これは勇者ユークスの使っていたハイ・ポーションでちね!』

 何やら青い薬を見て、ニヤッと笑う。

『エデン、良かったでちね。おまえの彼女は助かるでちよ』

 いや、彼女ではないから。

『では、何でわざわざ助けに行くでちか?』

 いや、そんなことを聞かれても困るが……

 俺にご飯をくれようとしたわけだし、単純に善人で死んだら可哀相じゃないか。


 いや、しかし、この青い薬だけで助かるのか?

 勇者ユークスの使ったハイ・ポーションだから?

『そうでち。勇者ユークスの所持品や食べ物は全て人類の技術や魔法の粋を極めたものでち。と言ってもまあ、あたちが左手一本で倒せてしまうわけでちけどね』

 要は自分が強いと自慢したかっただけのようだ。


 とはいえ、勇者ユークスが使っていたハイ・ポーションなら相当元気になれそうだ。

 金貨30枚と値段もべらぼうに高いけどな。

 小瓶一本で、俺の生涯賃金以上かよ……。奴隷は悲しいなぁ。

『そのくらいはあったはずでちよ。40……50。戻れば1万枚くらいはあるはずでち』

「いや、戻りたくないけど……」

『……毒消しも何個か取っていくでち。色々複合的な毒なのでばっちり効くことはないでちが、多少は緩和されるでちよ』

「そうだな……」

 これでクレア以外の体調が悪い者も多少は良くなる。

 とはいえ、元手は強盗で奪ったものなのだが……


『それも元はといえば、あの村の人達を踏み台にして稼いだものでち。金は天下の回り物と言っているのは人類でち。全く問題ないのでち』

「全く問題ないとは思わないけど……」

 ただ、メリーがカネモウケ伯爵達数人をあの世に送ってしまったが、これで何十倍の人達が良くなりそうなのは確かだな。

 良いことなのか、悪いことなのか。


『どっちでもないでちよ。三ヶ月後にはほとんどが死ぬでち。おまえが「助けてやる」と選ばない限りは』

「はぁ……」

『さて、帰るとするでちか』

「そうだな。クレアに早くハイ・ポーションを渡さないと」

 とは言っても、移動もメリー頼みだ。

 俺は一体、何なんだろうか?

 とも思うが、とにかく村へと戻ることにした。


 途中、メリーが後ろを振り返った。

「どうかしたのか?」

『何者かに気付かれたでちね』

「何?」

 ということは、俺達は追われているのか?

「く、薬を盗っていったから?」

『薬代は置いていったから、問題ないはずでち』

「じゃあ、カネモウケ伯爵のところか?」

『そっちは距離がありすぎるでちよ。ま、ついてきたいなら好きにさせれば良いでち。どうせアタチに勝てるものはいないでち』

 ムカつく言い方だが、確かにこいつは強いからなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る