貴族の実像・2

 森の奥に行く……メリーに引っ張られて空を飛ぶのも大分慣れてきたな。

 確かに川の近くに建物がある。


「うわ! 何だ、これは!?」


 近づいただけでびっくりした。

 建物と川の間には本当にゴミの山があり、多くが川に落ちている。


『工場では鉄や鉛から金属製品を作っていたでち。いらないゴミをどんどん捨てるから、この近くでは動物も水を飲まないでちよ』


 そんな危険な水をクレア達は飲んでいるというわけか。



『カネモウケ伯爵の素晴らしいところは自分達の飲む水は別の山まで行って取っていることでち。つまり、この川の水を飲むと危ないということを分かっているわけでちね』

 もちろん、その危険性を誰かに教えることはないし、距離も離れているから、「カネモウケ伯爵のせいだ」と言っても責任を負わせることはできないわけか。

 くっそ~、このあたりだと水が濁った色をしているじゃないか。

 奴隷の俺でも、水は王都の綺麗な泉からのものを飲んでいたからな。

 許しがたい奴らだ。



『おまえも分かったようでちね。カネモウケ伯爵から金を奪い取るのは損害賠償を奪い取るようなものでちよ』

「おう! しかし、どうやって奪い取るんだ?」

 それはまあ、勇者をぶっ倒したメリーなら簡単に奪えるだろうが、俺はそんなことはできないからな。

 ハッ!?

 もしかして、「おまえだけは助けてやる」と言われた俺、実は隠された力があったり!?

『試すのは勝手でちが、時間の無駄だと思うでち』

 ですよねー。



『おまえがエデンであるということは、アタチが請け合うでち。そこからうまいことやればいいでち』

「俺、そういう人を騙すようなことをしたことがないんだが……」

 奴隷だから、変な口答えをするだけで鞭を振るわれたり殴られたりするんだぞ。

 仲間や、ましてや主人を騙そうものなら、殺されても文句が言えない。

 そんな俺に他人を騙せと?

 しかも、カネモウケ伯爵の方が騙してきそうだし。


「メリーは強いんだから、俺の代わりに奪ってくれよ」

『アタチは護衛をするだけでち、主体的に何かをするわけではないでちよ。もちろん』

 メリーはニヤッと笑った。

『街も森も山も全部吹っ飛ばしてくれというのなら、考えても良いでちが……』

「あぁぁ、おまえに頼んだ俺が間違いだったよ」


「分かったよ。とりあえず行ってみよう」

 カネモウケ伯爵の大きな屋敷を回って、門に向かう。


『頼もう! でち!』


「挨拶としておかしくないか?」

 ただ、メリーの大声で屋敷から白髭にスーツ姿の執事のような男が出て来た。

 彼はメリーを見るなり、「うわぁぁ! 勇者様を倒した魔族!」と叫んで腰からへたへたと落ちた。

『ワハハハハ。アタチがこんなところに来ても仕方ないでち。今回はお前達のために素晴らしい人間を連れてきたでちよ』

 そう言って、メリーはいつの間にか取り出した鎌の先を俺の方に向ける。

 執事はやや落ち着いたようで、「うん?」と首を傾げて俺を見た。

「……こいつは誰ですか?」

「……」


 メリーとアルーゼが「エデン・ミラーシュと家族は助ける」って叫んでいたんだから、メリーが連れてくるのはエデンしかいないはずだが、それでもエデンと思われないらしい。

 何とも情けない話だが、まあ、俺のどこが「魔王がわざわざ助けてくれる人間」なのか分からないのも事実だ。この奴隷姿を見て、「おまえこそ世界の救世主!」なんて言い出す人間がいたとすれば、それはそれでやばい。


 ただ、分からないままだと話が進まないし、メリーも時間のムダになるから、説明を加える。

『こいつが何者か分からないというのなら別にいいでち。他をあたるでちよ』

 その言葉で、さすがに執事も気づいたようだ。

「あぁぁ!? もしかして、エデン・ミラーシュさん? 旦那様! 旦那様! 大変です!」

 執事は回れ右、一気に屋敷へと走っていった。

 たちまち屋敷も大騒ぎだ。


 さて、伯爵家の中に入るわけだが、どうなることやら……

 うまく話を持っていくことが、俺に出来るのだろうか?

 あるいは何か金目のものがあれば、一気に盗って行った方が良いのだろうか?

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