街はずれに住む少女・1

 メリーが言っていた偽エデン。

 彼女は「そのうち会わせてやる」と言っていたが、王都の広場に行くと早速出くわすことになった。


「俺がエデンだ! みんなを助けてやるぞ!」

 スキンヘッドもまぶしい筋肉ムキムキ、こんもり日焼けした男がマッチョポーズを決めながら言っている。

 怪しいことこの上ないが、周りは結構信じているようだ。


『あんな奴に名乗られて悔ちくないでちか?』

「いや、悔しいかって言われてもなぁ」

 俺の今の立場自体が何ともよく分からない。

 喜んでいいのかが疑問だ。だから、勝手に名乗られても悔しいっていう感じはないなぁ。


 って、おや?

 物陰で偽エデンの方をじーっと見ている女の子がいるぞ。

 歳は12、3歳くらいだろうか。茶色い髪でところどころそばかすもあるが、可愛い系の子だ。

 何だろう、本物かどうか見極めようとしているのだろうか?


『おや、おまえ、あの子のことが気に入ったでちか?』

 メリーが姿を消しながら尋ねてきた。

「気に入ったわけではないが、気にはなるな。偽エデンを遠巻きに見ているだけで」

『恐らく近づけないものと見たでちね』


 確かに偽エデンの回りには結構な人だかりができている。

 大きな子でもないし、近づいていっても弾き飛ばされるだけだろうな。

 しばらくすると、彼女は溜息をついてがっくりとした様子で戻っていく。

「近づけないなら手伝ってやろうか?」

 声をかけてみると、彼女は「えっ」と驚いたように俺の顔を見る。

 驚いた顔が、すぐに諦めを帯びた笑いに変わった。

「……ありがとうございます。でも、行っても選んでもらえないでしょうし」


 やっぱ選んでもらうつもりだったのね。

 しかし、この年齢の子だと嫁は無理だろう。養女の扱い?


「貴方は行かないんですか?」

 逆に質問された。

「あ、いや、俺はまあ、その」

 行っても仕方ないんだよ。

 何せ本物のエデンは俺の方だから。

 と答えても、良かったが。

「俺も奴隷だからな。選ばれるとは思わないよ、ハハハ」

 何かがっかりした顔が妙にシリアス過ぎて、茶化すような返事がしづらい。


「奴隷ですか……」

「こんなご時世だから、奴隷の仕事も減っているから暇になってしまってね」

 実際、街の活動はほとんど止まってしまっているからな。

 動いているのは「エデンに助けてもらいたい」という連中と、さっきのような偽エデンのような連中くらいだろうか。

「お金はないですけれど、薪割りとかやっていただけるなら、ご飯くらいは出せますよ」

「あ、じゃ、薪割りを手伝うよ」


 ということで何だかよく分からないが、薪割りを手伝うことになった。

 その途中、お互いの話をする。と言っても、俺の場合はエデンだと言うのは抵抗があるし、奴隷としては天涯孤独なので、名前を言わずに単なる奴隷人生を振り返るだけだが。

 彼女の名前はクレアと言って、母と弟と暮らしているらしい。父親は5年前に死んだそうで、それ以降は母親が弟を育てながら働いていたが、負担が大きすぎて倒れてしまい、花を売ったり、野菜運びをしながら母と弟を支えていたらしい。


 おまけに家の作業もやっていたんだろう。手は皮が剥けたり、腫れたりしていてボロボロだ。

 下手すると奴隷の俺の方が楽かもしれん。自分のことだけ考えれば良いわけだし。

 意外なのは年齢で16歳だという。

 てっきり12歳か13歳と見えたが、苦労と栄養が足りないということがあるんだろうな。

 ……というより、俺のそばにはもっと幼女で、もっと年齢が上の女もいたな。


『何か言ったでちか?』

「いやいや、何も」

「……何か?」

「あ、いやいや、こっちの話」


 姿の見えないメリーとの話が聞こえたのだろう、訝しげに首を傾げている。


「あと三ヶ月で人類がいなくなると聞いて、私はともかく、母さんとクリムは助けてあげられないかなと思って、エデン様に頼みに行こうと思ったのですが、お金もないし、別に美人でもないし、エデン様の回りにいる人たちを見てどんどん惨めになってきて……」


 それで遠くから落胆して見ていたわけか。

 分かる。俺も奴隷時代、そんな感じで普通の人を見ている度に自分が惨めになってきたからなぁ。


「選ばれるのは5人だから、私は無理だとしても、クリムだけでも何とかしてあげたいんですけれど……」


 うぅ、こんなことを言われると胸に響くなあ。

 何とかしてやったほうがいいんだろうか。


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