第46話 異変、森の咆哮
ロゼリア王都からの旅は、まるで夢みたいに賑やかで楽しかった。ミーナちゃん、フローラちゃんそれにシスティナさんたち、みんなと一緒で。でも、やっぱり一番安心するのは、リルの背中にいる時かな。
「わぁ! リル、お家に帰ってきたよ!」
数日間の旅を終えて、ようやく見慣れた辺境の森の近くにある村に着いた私は、村長さん達に帰還を告げた。そして、そのまま村の奥に広がる森に向かった。森に着いた時、リルの背から飛び降りて、両手を広げた。空気を胸いっぱいに吸い込むと、旅の疲れなんて、すぐにどこかへ飛んでいっちゃう。この匂い、この空気、これこそ私の故郷!
「リリ! ここが、あなたの故郷なのね!」
「素晴らしい景色ですわね。」
ミーナちゃんも、フローラちゃんも初めて見る景色に、目をキラキラさせている。その笑顔を見ていると、気に入ってくれたみたいで、私も嬉しくなるよね。
「ええ、ミーナ殿下。・・・何か様子がおかしいです。お気を付けを」
でも、リリアさんの言葉で、私もハッとした。周りを警戒するシスティナさんの顔は、いつもよりずっと真剣。
「静かすぎるみたい。いつもの森なら、もっと動物たちの声が聞こえるはずなのに」
そうだ。いつもなら、賑やかなはずの森が、しんとしている。まるで、みんなが息を潜めているみたいに。
わたしたちが森の奥へと進んでいくと、その違和感はどんどん大きくなっていった。道の脇からひょっこり顔を出すリスも、木々の間を飛び交う小鳥の姿も、全く見当たらない。どこに行ったんだろう?
「どうしたんだろう、リル? みんな、どこに行ったのかな?」
私は心配になって、隣を歩くリルに尋ねた。リルは、「グルル・・」と小さく唸り声を上げると、不安そうに耳をぴくぴくと動かして、周囲を警戒している。
「リリ様、何かがおかしいです。魔物の気配も、少ないような……」
護衛騎士のリリアさんが、不安げな表情で言った。私だけでなく、みんなが、この森の異変を感じている。
「リリア、皆に警戒を!」
システィナさんが、すぐさま仲間に指示を出した。旅の仲間に加わってくれたフローラちゃんも、心配そうに私の顔を見つめている。
「一応、防御結界を展開しますね」
フローラちゃんは、私の不安を察してくれているのかな。
さすが、聖女さまだね、結界はすごく硬そうだよ。これなら、大丈夫だね。
「さすが、フローラちゃん、すごい結界だね」
そう言ったら、フウローラちゃんが顔を真っ赤にしていたよ。
「そんな、リリ様ほどでは・・・」
しばらく歩くと、やっとゴードンさんの工房が見えてきたよ。でも、工房の周りもまた、ひっそりと静まり返っている。
「ゴードンさん、ただいま!」
私は元気に声をかけたけれど、返事はない。
「ゴードンおじさん、いないの?!」
工房の戸を叩いたけれど、やっぱり返事はなかった。ゴードンさん、どこに行っちゃったんだろう?
その時だった。
「グオォォォォオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」
森の奥から、地を揺るがすような、唸るような咆哮が響き渡った。ドクン、と私の心臓が大きく跳ねる。その声は、森のすべての命を、一瞬で凍りつかせるような、禍々しい魔力を帯びていいる。
「な、何?、今の声……!」
ミーナ王女が、震える声で言う。フローラちゃんの護衛の人が「これは……ドラゴン、いや、それ以上の、強大な魔物だ!」と叫んだ。
リルは、その咆哮に、怒りの表情を浮かべた。そして、私を庇うように、みんなの前に立ち、低い唸り声を上げると、森の奥へと視線を向けた。
「リル……?」
「クゥン……」
その咆哮を聞いた瞬間、私の心に悲しげな気持ちが響いてきた。
「ああ、ダメだ……。動かないで、傷が広がっちゃう!」
私の胸は、苦しいくらいに締め付けられた。この咆哮の主は、間違いなく苦しんでいる。その苦しみが、あの声になっているんだ。
「リリちゃん?」
私は、静かにリルから降り、森の奥へと歩き出そうとした。
「リリ様! どこへ行く気ですか?」
「ダメだよ、フローラちゃん! 私、あの子を助けてあげなきゃ……。あの子、とっても苦しんでるの……」
私の瞳には、もう、森の異変の原因である、咆哮の主の姿が、はっきりと見えていたから。あの子を放っておけない。だって、私はこの森で育ったんだもの。
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