第39話 聖女フローラ初めての・・・
聖王国の教皇ヨハネスおじい様からの親書と、ご迷惑をおかけしたことを謝罪の使者として。私はロゼリア王国の王都に降り立ちました。
教皇庁から一歩も出たことがなかった私にとって、見るもの全てが新しく、全く不謹慎なのですが、胸が高鳴るのを止められません。
おじい様は「リリ様にきちんと謝罪して、できたらお友達になってもらいなさい」と、私の背中を押してくださったのです。
リリ様はわたくしと同い年だそうです。
どんな方なのか、今から楽しみです。
初めて訪れた、ロゼリア王国の王都は、想像していたよりもずっと活気に満ちていました。
馬車に揺られながら、私は窓の外を眺めます。
(まぁ……! あの建物の屋根は、なんて鮮やかな赤色なのでしょう! 聖王国の石造りの建物とは、全く雰囲気が違いますわね)
私の隣に座る護衛の騎士が、心配そうに尋ねてきました。
「フローラ様、何かご不安でもございますか? もし、気分が優れないようでしたら、すぐに休憩を……」
私は、淑やかに微笑みました。
「いいえ、大丈夫ですわ。ご心配、ありがとうございます。ただ、わたくし、生まれて初めて見る景色に、胸がいっぱになってしまって……。この街は、まるで宝石箱のようですね」
私の言葉に、騎士は安堵したようです。
「では、ゆっくりと参りますね」
騎士はそういうと、御者に少し速度を下げさせました。
王城へ向かう道中、私は街の人々の様子にも興味津々でした。
(あっ! あそこの露店で売られているパンは、見たこともない形ですわ! 聖王国では、こんなにふっくらとしたパンは、見たことがありません。あのパンは、どのようなお味がするのでしょう)
思わず、心の声が漏れそうになりますが、私は聖女。お淑やかに、を心がけなければなりません。
「あの……フローラ様。何か、気になるものでも?」
私が熱心に窓の外を眺めていると、控えめに騎士が尋ねました。
「えぇ、少し。あの、賑わっている市場を拝見していますと、ロゼリア王国の方々の『生活の豊かさ』を感じられますわね。わたくしも、早くこの国のことを知りたいと願っております」
そう言って、私は静かに窓から視線を外しました。
そして、王城に到着。ロゼリア国王陛下と王妃様、そしてユリウス王子様にご挨拶を終えました。教皇様からの親書は快く受け入れられ、私の留学も正式に決定したようです。これで、私はこのロゼリア王国で、しばらく過ごすことができるのです。
(ふふ、これで心置きなく、この新しい世界を学ぶことができますわ。おじい様、ありがとうございます)
挨拶を終えた後、私は王城の一室で、ユリウス王子と向き合いました。
「フローラ殿、ようこそロゼリア王国へ。父上は、君の滞在を心から歓迎している」
ユリウス王子は、優雅に微笑みながら、私をもてなしてくれました。
「ありがとうございます、ユリウス王子。教皇ヨハネスは、今回の誘拐未遂事件の謝罪を、隣国の教徒の暴走とはいえ、聖王国の一員として、心からお詫び申し上げます」
私は、深々と頭を下げました。
「顔を上げてくれ、フローラ殿。君に罪はない。それよりも、君の祖父君からの親書には、『聖女フローラを、我が国の聖女リリに会わせてやりたい』と、熱烈な言葉が書かれていたよ」
「まぁ……! わたくしも、そのリリ様に、ぜひお目にかかりたいと願っております。彼女の奇跡の数々は、わたくしの想像を超えておりますから」
私は、顔には出しませんが、リリ様の噂を聞いて、実はドキドキが止まりませんでした。
「リリは、今、何か新しいことに夢中になっているようだ。今日は会えないが、きっとすぐに会えるだろう。……ちなみに、今、彼女は王城の厨房で、新作ケーキの作成に取り掛かっていると聞いている」
ユリウス王子の言葉に、私は思わず目を見開きました。
(聖女様が、ケーキ……? 一体、どのような方なのでしょう。ああ、ますますお目にかかりたいですわ!)
私の心は、この未知のロゼリア王国での生活への期待で、高鳴り続けていました。もちろん、お淑やかに、誰にも悟られないように、です。
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